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自作【毎週ショートショートnote】まとめ

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途中参加している毎週ショートショートnoteの記事だけをまとめたマガジンです。
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2023年8月の記事一覧

【毎週ショートショートnote】 秘密警察を宣伝してみる

「お久しぶりです。お二人とも」

次に泊まる旅行中の家めざして歩いているさなか、見覚えのある人に声をかけられた。

相棒は、あきれ顔だ。

「また、あんたですか…」
「ふふ、いいじゃないですか。私はお二人に適正があるから、声をかけているんです」

この人は、秘密警察に務める人事部なのだそうだ。

「犯罪組織からヘッドハンティングって、普通、しないと思いますけど」
「だからですよ。優秀な人材であれば

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【毎週ショートショートnote】 響く礼節をペンペンしてみる

「あんたは、いきなりすぎんだよ。俺たちは仕事してんだから、まずは、上司に連絡するのが筋だろ」
「しましたよ? 好きにしろって言ってました」

相棒は舌打ちした。
うちの組織は、放任主義の傾向が強い。上司に連絡したのは、嘘ではないだろう。

「許可をわざわざとってくるなんてな」
「ええ、いつもびっくりするのですが、毎回、上司が違いますよね」
「うちは、上を目指せば目指すほど、だれかに殺される可能性が

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【毎週ショートショートnote】非力面接をブンブンしてみる  

「それで? 志望動機は?」

俺の前には、あの秘密警察の人事部がいる。

俺は生唾をのみこみながら、答えた。

「危険な仕事じゃないんだろ? だからだよ」
「ふうん、なるほど」

これは相棒のためだ。

人事部は、頭をかきながら、質問をつづける。

「あなたを調べさせていただきました。もともと、こちら側の人間だったのに、なぜ、今の組織に?」
「だからだよ」

はったりをかませ。
もともと、俺は不利

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【毎週ショートショートnote】 最後のマスカラ

林檎さんはイケメンだ。
女の子だって知っても、私は林檎さんが好き。
何度もフラれても。

だから私は。

林檎さんをお化粧することにした。

「理香ちゃんは、いつも唐突だね」
「そうですか?」
「私に、お化粧させてください! なんて頼む子、いないからさ」
「林檎さんの価値を見誤ってますね」
「なにそれ」

林檎さんは、ふふっと笑う。
やっぱりカッコいい。
お化粧センスは、あまりないけど。
きれいに

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【毎週ショートショートnote】 サイコの鶏唐

「林檎さーん! これ、食べましょうよ」
「ええ…、なになに。サイコの鶏唐? ちょっと怖いね」
「怖くないですよ。今、はやってる七色のチーズがかかってる、鶏の唐揚げなんです」
「なんで、サイコなの?」
「本当はサイケだったんですがね…。看板が手違いで、サイコになってしまって…」
「理香ちゃん、買ってあげようか」

林檎さん、やさしい…。
私は感動しながら、大きな声で注文をする。

「おじさん、このサ

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【毎週ショートショートnote】 未来断捨離 

今日は孫が来ないので、断捨離をすることにした。

「これと、これ。あと、これも、あの子は興味なかったわね」
「なにしてるんだ?」

来た。
ろくに片付けをしない夫が、来た。

「断捨離してるのよ。邪魔しないで」
「え…前もしてなかったか?」
「物が多いから、ちょっとずつしか、進まないのよ。邪魔だから、どっか行って」
「まだ、いるものも、あるかもしれないじゃないか」
「年齢を考えなさい。あなたも断捨

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【毎週ショートショートnote】 無頼ママチャリ

妻の機嫌が悪いので、私はママチャリに乗って、逃げることにした。

これは、いつもの癖だ。
最近、多い気がするけど、しかたがない。
妻は怒ると手がつけられないのだ。
私はママチャリに乗り、妻から物理的な距離を離すことで、心の平穏を保っている。

いや、ママチャリに乗って、遠くに行っても心は休まらない。

「なんで、こうなったかなあ…」

公園のベンチに座ろうとしたら、先客がいた。

「あ、隣どうぞ」

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【毎週ショートショートnote】 告白水平線

どうしよう。

林檎ちゃんと、恋人になってしまった。

なんで、こうなった。

っていうかさ。

林檎ちゃん、好きな人いたよね!
いいの僕で!?

どうしよう…。

「どうした。なんか考えごとしてるな?」
「なんで、わかるの! っていうか、気づくの早すぎだよ!」
「私でも、わかりますよ。犬先輩」

七色のチーズが、かかったサイコの鶏唐を三人で食べながら、僕は言うべきかどうか悩む。

「ほら、言って

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【毎週ショートショートnote】 チクタク水平さん

「そう、そう。わかったわ。ありがとね」

水平(みずだいら)さんの電話が終わったときを見はからって、僕は声をかけた。

「どうでした?」

水平さんは、苦い顔で僕の質問に答える。

「林檎様は、あの犬っころと、おつきあいされるそうよ」

目の前が真っ暗になった。

嘘だろ。

あんなやつと。

なんで。

なんでだ。

「しゃんとなさい」

頬に痛みが、はしる。

水平さんに、ビンタされたのだと、

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【毎週ショートショートnote】 チクタク水兵さん

おっす! 俺、水兵(すいひょう)!

白雪王子倶楽部の副部長!

部長は水平(みずだいら)さん!

というわけで。

俺の仕事は、部長の暴走を止めることだ。

「鎌犬くん。悪いことは言わない。水平さんと会うとき、一人で会っちゃダメだよ」
「えっと…。どちら様ですか?」

おいおい、同じクラスだろ。
大丈夫かコイツ。
なんで林檎様は、コイツに惚れたんだ。
料理の腕が、いいらしいけど。
どんだけウマい

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【毎週ショートショートnote】 鳥獣戯画ノリ

「おばあちゃん、これかぶって!」
「あら、前作ったお面かしら?」
「違うよ。新しくつくったの!」
「あらあら、本当。モノクロで渋いわね」
「おじいちゃんもつけて!」
「ああ、いいよ」

孫はウサギ、妻はキツネ、私はカエルのお面をつけた。
いずれのお面も、墨汁をつけた筆で描かれている。

「じゃあ、遊び方を教えるね! 私が『ウサウサ』って言ったら、おばあちゃんは『コンコン』、おじいちゃんは『ケロケロ

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【毎週ショートショートnote】 聴診器が海苔

「……ということが、あってね」
「はははは。元気でいいじゃないですか」
「いやいや、仲間外れにされた気分ですよ」
「いっしょに遊んでいるから、仲はいいでしょう」
「そういうもんですかね」
「ははは。次の診察はいつにしますか?」「えっと、16日は空いてるんですが、仕事が入るかもしれません」
「また、お仕事ですか。年齢、考えてくださいよ」
「働けるうちは、働きたいので」
「まったく…。お薬は前と同じぶ

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