【毎週ショートショートnote】 聴診器が海苔

「……ということが、あってね」
「はははは。元気でいいじゃないですか」
「いやいや、仲間外れにされた気分ですよ」
「いっしょに遊んでいるから、仲はいいでしょう」
「そういうもんですかね」
「ははは。次の診察はいつにしますか?」「えっと、16日は空いてるんですが、仕事が入るかもしれません」
「また、お仕事ですか。年齢、考えてくださいよ」
「働けるうちは、働きたいので」
「まったく…。お薬は前と同じぶん出しときますね。ちゃんと飲んでますか?」
「はい、孫が管理してます」
「それは心強いですね」
「ええ、聴診器に海苔をつけてた先生よりも心強いです」
「もう、そのはなしは、ひっぱらないでください」

私は、この医者が新人のころからのつきあいだ。
医者は時間のあつかい方が下手で、昼ごはんのおにぎりの海苔が、黒い聴診器にひっついたまま診察をしていたこともある。

「聴診器が海苔ですか?」と聞いたら、顔を真っ赤にさせていたものだ。

本当に一人前になったなあ。