【毎週ショートショートnote】 無頼ママチャリ

妻の機嫌が悪いので、私はママチャリに乗って、逃げることにした。

これは、いつもの癖だ。
最近、多い気がするけど、しかたがない。
妻は怒ると手がつけられないのだ。
私はママチャリに乗り、妻から物理的な距離を離すことで、心の平穏を保っている。

いや、ママチャリに乗って、遠くに行っても心は休まらない。

「なんで、こうなったかなあ…」

公園のベンチに座ろうとしたら、先客がいた。

「あ、隣どうぞ」
「ああ、すみません。どうも」

席をつめてくれたので、私は隣に座った。
かなりの美丈夫だ。いっしょに仕事をしたことがある芸能人かと思ったが、心当たりはない。
その美丈夫に近づいてきたのは、背の低い男だった。

「待たせたな」
「ううん、待ってないよ。今日の夕飯なに?」
「トッポギ」
「うわ、食べたかったんだよ」
「そう言ってたからな」

仲良く二人の男たちは、去っていった。
なんか、うらやましい。

そうだ。妻に夕飯をつくってやろう。
私はスーパーへ、ママチャリを走らせた。