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小説【麻子、逃げるなら今だ‼︎】

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小説に初挑戦
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【小説1】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜元日〜

【小説1】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜元日〜

【あらすじ】

専業主婦の前田麻子はサラリーマンの夫、3人の子ども由美•修•進との5人家族。
夫とは恋愛結婚だが夫に従ってきたつもり。
出張が多く不在がちの夫、面倒くさいことが何より嫌いな3人の子ども達。
経済観念が薄く途中で投げ出す癖がある夫が、突然退職して自営すると言い出す。
人生の半ばを迎え、これからの生活や自分の人生に疑問を持ち始め、経済的な自立を目標に初めての就活に奔走する。
行き着いた

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【小説2】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜夜の散歩〜

【小説2】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜夜の散歩〜

全話収録⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

2.夜の散歩

 「お願いがあるんだけど。
ちょっと散歩に付き合ってくれない?
何だか気持ちがくさくさするのよね」
夕食後のひととき、麻子はダメ元で3人の子ども達に声をかけてみた。
 「ええ、今からぁ?」と言いつつも面倒くさがりの子ども達がのろのろと立ち上がる。
まさか3人とも付き合ってくれるとは。
由美は高3、修は高1、進は小4になった。

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【小説3】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜卒業式〜

【小説3】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜卒業式〜

全話収録⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

3.卒業式

 「早かったわね、あの進がもう中学生になるなんて」
感無量ってこういうことよね、きっと。
それに今日の特別感は別格だ。
いつもは出張で不在の夫と一緒に進の小学校の卒業式に来ているんだもの。
夫が子どものイベントに参加するなんて一体いつ以来なんだろう。
 「じゃあ、俺行くから」
 「えっ、何?」
卒業生が退場した後の余韻をぶち壊す

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【小説】桜貝(春ピリカグランプリ2023)〜麻子、逃げるなら今だ‼︎〜スピンオフ

【小説】桜貝(春ピリカグランプリ2023)〜麻子、逃げるなら今だ‼︎〜スピンオフ

小説【麻子、逃げるのは今だ‼︎】
全話収録⤵️

 麻子は物心ついた頃から母に手を繋いでもらった記憶がない。
2年も経たないうちに弟が生まれたのだから致し方がないことだと幼心に我慢していた。
 幼稚園の検査で斜視が疑われ、当時としては珍しかった小児眼科へ母と出掛けた。
弟を祖母に預け、幼稚園を休んで母と二人きりということにどきどきしたのを覚えている。
初めて母を独り占めできることに興奮していたのだ

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【小説4】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜自立〜

【小説4】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜自立〜

全話収録⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

4.自立

 夫は会社を辞めてからも出張が多い。
25才になった娘の由美は多くないお給料の中から、短大の入学金も授業料も麻子に返してくれた。
学内給付型奨学金を受けたから要らないと言っても応じない。
入社以来、毎月5万円も入れてくれている。
ファッションやメイクに浪費しないので負担にはならないようだ。
 息子の修が、声優の専門学校に行きたいと

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【小説5】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜プレ就活〜

【小説5】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜プレ就活〜

全話収録⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

5.プレ就活

 長らく専業主婦だった前田麻子は、夫には内緒で夫からの経済的自立を目指すことにした。
自営業の夫の手伝いはしてきたが、いわゆる「お勤め」からはご無沙汰だ。
正社員の由美とアルバイトの修については心配ないだろう。
高校生の進には今後、大学の費用が必要になる。
 きっかけは夫からの生活費の入金が遅れていることだ。
謝ってくれれば良

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【小説6】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜流れ〜

【小説6】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜流れ〜

全話収録⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

6.流れ

 夫から経済的にも自立したくてアラフィフにして初めての就活を始めた麻子だったが、ハローワークで提案された「介護職」が向いているとは到底思えない。
やりたい仕事はないがやりたくないのが「清掃」と「介護」なのだ。
 動きを止めると投げ出してしまいそうで、二つの就労支援とパソコン講習には休まずに通い続けていた。

 「女性だけの為の就労

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【小説7】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜モテ期〜

【小説7】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜モテ期〜

全話収録⤵️

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7.モテ期

 お正月気分が抜けたと思ったら、資格取得に向けての麻子の学生生活が始まった。
職業訓練生は学生とは言わないのか?
夫はゴールデンウイーク明けまで長期出張だし、仕事をしている由美と修は心配ない。
進のお弁当を詰めるついでに自分のお弁当も作ったけれど、進は一人で起きて高校に行けるのだろうか。

 大人になってからの勉強は楽しいと耳に

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【小説8】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜急転〜

【小説8】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜急転〜

全話収録(フィクション)⤵️

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8.急転

 麻子は講座を修了したことをハローワークの担当者と女性就労支援の絹田さんに報告に行った。
実習報告書のコピーを見せると両者とも「私の目に狂いはなかった」と喜んでくれた。
 夫はゴールデンウイーク明けに一度帰宅したものの翌日には次の出張先に出掛けて行った。
お陰で今後暫くはパートのことを知られずに済みそうだ。
深く考

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【小説9】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜嫉妬〜

【小説9】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜嫉妬〜

全話収録フィクションです⤵️

前日譚•原案ノンフィクション⤵️

9.嫉妬

 パート介護職員の前田麻子は、職場の異動と末息子進の大学進学が重なり疲れていた。
異動したばかりのユニットでは「入学式だから休みたい」とは言い出せなかった。
夫から進の入学金や授業料について「今は払えないけど必ず払うから一時的に立て替えておいて」と言われたのが心配の種。
会社を辞めても生活は変わらないと豪語したくせに。

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【小説10】麻子、逃げるなら今だ〜罠〜

【小説10】麻子、逃げるなら今だ〜罠〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

10.罠

 次男進の大学から封書が届いた。
 「もう後期の授業料かぁ…」
麻子のパート収入、長女由美が毎月入れてくれる5万円、つもり貯金で払えない訳ではない。
長男修は生活費こそ入れてくれないが、アルバイト先のスーパーでお米や野菜を買って帰って来てくれる。
それも絶妙なタイミングで。
進は定期代や昼食代を自分で賄っている。

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【小説11】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜落とし穴〜

【小説11】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜落とし穴〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

11.落とし穴

 「前田さん、良かったね」「もしかして未だ知らないの?」
朝から口々に言われるんだけれど?
前日が休みだった麻子には何のことだかさっぱり判らない。
 「谷川課長、本社に異動だって」
まさか、本当?
社内メールを確認したいが各ユニット2台しかないパソコンは夜勤明けと早出の職員が介護記録を入力するのに使っている。

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【小説12】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜波乱〜

【小説12】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜波乱〜

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12.波乱

 パート介護職員麻子の休職は2ヶ月半に及んだ。
勤務中の怪我なので労災だ。
給付金は支給されるし医療費負担もない。
当初は痛みで眠ることも自力で移動することもできなかったし、まさか自分が労災で休職するなんて夢にも思っていなかった。

 浴室清掃中に呼びかけられ排水溝に踏み外した右脚は、グレーチングを受けるステンレ

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【小説13】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜車酔い〜

【小説13】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜車酔い〜

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13.車酔い

 労災から復職した前田麻子は、デイサービスで働き始めた。
管理者に対しては嫌な感情を抱いてしまったが、職員は概ね歓迎ムードだった。
有料かデイかには関係なく職員には以前から挨拶をしていたし、休憩時間が一緒になると他愛ない世間話をするくらいには親しくしていたのが好印象だったようだ。
右脚の傷口は塞がっていたが、痛

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