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【アーカイブ2020】エラーを受け止めるという選択肢~土田龍空(近江高校~中日ドラゴンズ)

『1番印象に残っている場面はー』。この質問、記者の想像と選手の答えはほとんど一致しない。だいたい記者は活躍シーンを想像し、選手は成長のきっかけになったシーンを答える。結果と過程。重視するポイントにズレがある。

つい最近、この質問に出くわした。聞かれた選手は近江の主将・土田龍空。想像して聞いていると、答えが土田とピタリと合った。ただ、このやり取りを掲載したメディアはほとんどない。土田の答えは『去年夏の甲子園、東海大相模戦のエラー』。確かに載せづらい。

高校野球でエラーを扱うのはタブー視される。防御率を重視しないトーナメントでは、【H】ランプが打者と野手を救う一方、【E】ランプは何も生まない。私がこの価値観を崩した試合こそ、東海大相模戦だった。

あの日、BBC本社で試合映像の編集をしていた私は、原稿を書いた現地の先輩に『エラー後の土田の映像を足してもいいですか?』と電話で聞いた。エース林優樹の失点はほとんどミス絡み。セカンドの見市智哉に土田が肩を叩かれるシーンこそ、試合を象徴していると思ったからだ。

『どうした盛岡大附属!』。私が岩手で聞いたベスト実況だ。伏兵の盛岡三相手にエラーを連発し敗れたモリフ。先輩が試合中に叫んだ一言は、モリフ関係者さえ納得するタイミングだった。これが言えるぐらい取材相手と信頼関係を築き、試合の流れを読めるようになろう。そう誓ったことを思い出す。

去年の夏前、土田に守備のこだわりを聞いた。『いろんな人に軽いと言われる。でもスピードは落とさない』。高校でアウトにできてもプロでは間に合わない。批判を承知で上を見ていた。土田が東海大相模戦のニュースを見たかは不明だが、あの編集は私なりの激励だった。

土田が主将に指名されたのは甲子園の直後だという。最近の中尾雄斗とも有馬諒とも全く違うキャラクターだったが、一抹の不安を県大会全勝で一蹴した。『甲子園中止後のTwitter見ましたか?ああいうことが言えるようになったんですね…』。夏の大会中、小森博之コーチがしみじみ話していたのも印象的だ。

名門で1年夏からレギュラーをつかみ、金足農業戦も経験した。米原出身、家族は近江高校OBばかり。コロナの自粛期間はびわ湖岸でトレーニング。いろんなトピックをくれる土田は、守備同様に【H(華)】があって【E(絵)】になる選手だった。

最後の夏、特に準決勝以降の打席は結果を求め、ボール球に手を出すシーンも目立った。『木のバットの違和感は?』と何回聞かれたんだろう。それでも苦しむ部分を見せず、土田は報道陣の前に立っていた。決勝前の緊張するタイミング、スタンドで昼食を取りながら会釈してくれた顔も忘れない。

『憧れられるプロ野球選手になりたい』。優勝インタビューで私の目(カメラ?)を見て話した夢を、これからはファンとして信じていく。頑張れ土田龍空!ユニフォーム買うわ!【2020年8月20日掲載】

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