芳川雄人

思ったことを書き連ねます 用途はほぼ長めのツイッター

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記事一覧

THE BARR BROTHERS

「ねえ、もうちょっとだけやっていい?」 タバコが吸えるバーの様な、喫茶店の様な店で彼女はそう言った。 バールブラザーズというその奇妙な店名のバーで彼女はしばらく…

芳川雄人
3日前

欲望の翼/脚のない鳥類について

ウォンカーウァイ監督の「欲望の翼」という映画を観た。 母の愛、或いは女性性がもつその母愛に飢えるヨディは何かと地獄のオルフェウスの一片を語る。 僕の人生は振り返…

芳川雄人
8日前
2

その「美しき時」を閉じ込めた瓶の流れ行く先に

父と母は離婚した。 僕らは長年住んだ家から離れ、散り散りになって生活をしている。とにかく、僕たち家族の形は「間違っていた」という烙印を押され、終了したのだ。 そ…

芳川雄人
3週間前

午前3時54分

下唇の辺りに、穴を開けた。 リップ、と呼ばれるピアスの部位だ。 針の太さは14Gだ。透析をしている親父が、あまりに透析に使う注射針は太くて、とても痛いという。その注…

芳川雄人
1か月前

名もなき花に弔いを

彼は年がら年中寝そべっていた。 丁度僕の通勤路にある高架下、やけに積もった吸い殻と段ボール、それが彼の居場所であった。 どうやら道行く人達は彼を見ない様に歩いて…

芳川雄人
1か月前
3

トカゲ人間と呪術、またはその狂想詩

偶然、久しぶりにとある友人に出会った。 性懲りも無く、馴染みの喫茶店で。 少し疲れた表情で気怠げにドアを開け、水を飲み干した彼女は言う。 「ねえ、レプティリアン…

芳川雄人
1か月前
2

愚痴愚痴しい駄文

リアル知人は一人しか居ない僕のnoteだからこそ、本日は全力で禍々しいネガティブな愚痴を吐こう。珍しいぞ! 先日、とある友人からライブに誘われた。 それ自体は嬉しい…

芳川雄人
1か月前
5

どん底と絶望、或いはタンガフリーク

さあ、どうしようか。一旦笑うしかないな。 現在の私のお財布事情からお話しよう。 まず次回の給料から研修給が終わる。蓋を開けてみれば研修中は時給1000円であった。 …

芳川雄人
2か月前
3

祝福/呪い

およそ23年前、僕は母の胎盤から出てきた。 最初に発した言葉は「天上天下唯我独尊」らしい、父はそう言っていた。 なお、僕は人がそのままでいて尊いだなんて事は思わな…

芳川雄人
2か月前
1

Once upon a time in 【××××】

時計は深夜1時44分、かつて一緒に暮らしていた元恋人から一本の電話がかかってきた。 知人から勧められた、全裸でお見合いする外国のバラエティショーをエロ動画サイトで…

芳川雄人
2か月前
1

負け犬の倫理学

「勝ち負けじゃないよ!」 何でもかんでもそういう奴いるよね。特に音楽なんかではそう。 こんなこと書いたら全方位射撃になっちゃうけどさ。歳食って売れなかった奴とか…

芳川雄人
2か月前
2

SEE YOU, SPACE COWBOY

例に漏れず、馴染みの喫茶店に居た。 「カウボーイビバップとかサンプリングしてるんですよ」 僕が何かしら音楽を作るとマスターである彼はいつも聴いてくれていた。たま…

芳川雄人
3か月前
1

南米のエリザベス・テイラー、そして極東の料理人

「いやあ、実は俺7股しててね」 何を隠そう、僕が成人し両親の離婚が成立した後、父が僕と2人きりのファミレスで放った衝撃の一言である。 僕が幼い頃、父は荒れ狂ってい…

芳川雄人
3か月前
4

パンク・ロッカー・レコーズと天使の涙

「ロックンロールだけが世界を揺らすんだよ」 田舎の片隅の街、13歳の僕達は初めてハードオフで、スプライトも買えない様な安い値付けのビートルズのレコードを買った。ブ…

芳川雄人
3か月前
6

うそが本当に

今月末、親友が僕の後任のバーテンダーをやっているミュージックバーでライブをする。 「俺ら出会ってもう5年経つんだよ」 あの頃僕たちは19歳だった。僕はキャバクラの…

芳川雄人
3か月前
2

幸福な朝食 退屈な夕食

上京する前、僕らはワクワクしていた。 それは新天地での生活もそうだし、何か大きな事が始まる予感、人生が全て変わってしまう様な予感だった。 どうにもそれは始まりで…

芳川雄人
4か月前
4

THE BARR BROTHERS

「ねえ、もうちょっとだけやっていい?」

タバコが吸えるバーの様な、喫茶店の様な店で彼女はそう言った。

バールブラザーズというその奇妙な店名のバーで彼女はしばらくボール・ソリティアをしている。

木製の台には碁盤の目の様に穴が空いていて、そこにびっしりとガラスの玉が並んでいる。空いているポイントにボールを動かしては、飛び越したボールを捨て、それを繰り返しボールが残り一つになればクリアという古典的

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欲望の翼/脚のない鳥類について

ウォンカーウァイ監督の「欲望の翼」という映画を観た。

母の愛、或いは女性性がもつその母愛に飢えるヨディは何かと地獄のオルフェウスの一片を語る。

僕の人生は振り返るとヨディに似ている。ヨディほどハンサムではないが。

僕にはかなり躁鬱のきらいがあって、今は落ち込んでいる状態だ。人に会う気力も、音楽を作る体力も無くなり、ひたすらに塞ぎ込んでしまう時期が定期的に訪れる。それまではあらゆる万能感に包ま

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その「美しき時」を閉じ込めた瓶の流れ行く先に

父と母は離婚した。

僕らは長年住んだ家から離れ、散り散りになって生活をしている。とにかく、僕たち家族の形は「間違っていた」という烙印を押され、終了したのだ。

そんな父から今日、仕事終わりに電話が掛かってきた。新たに自分の店を出すのに、その物件が決まった事や、店名が決まった事、新たに始めるコースの内容など、嬉々として喋っている。

そうして、病気のせいで強力な睡眠薬を飲まないと寝れない父は段々と

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午前3時54分

下唇の辺りに、穴を開けた。
リップ、と呼ばれるピアスの部位だ。

針の太さは14Gだ。透析をしている親父が、あまりに透析に使う注射針は太くて、とても痛いという。その注射針より太い針だ。

近づいてみるとそれはほとんど細い筒と言って良いかもしれない。

下唇の左側から、上顎に目掛けて針を通す。
鋭利なその鋒が私の柔らかい肉を切り分け、口腔内の薄紅色をした箇所から頭を出す。

鏡でその様子をまじまじと

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名もなき花に弔いを

彼は年がら年中寝そべっていた。

丁度僕の通勤路にある高架下、やけに積もった吸い殻と段ボール、それが彼の居場所であった。

どうやら道行く人達は彼を見ない様に歩いている。僕は昼下がりの15時、出勤する時に彼を見て、夜中23時過ぎ、退勤する時も彼を見る。

どうやらあそこに住み着いているホームレスの様であった。僕が風俗店のボーイを始めてから、彼を見ない日は殆ど無かった。

ところが今日、彼はいつもの

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トカゲ人間と呪術、またはその狂想詩

偶然、久しぶりにとある友人に出会った。
性懲りも無く、馴染みの喫茶店で。

少し疲れた表情で気怠げにドアを開け、水を飲み干した彼女は言う。

「ねえ、レプティリアンって知ってる?」

僕は豆鉄砲を食らった事も無ければ、鳩でも無い。
だがそう形容してもらっても構わない位に、脳内のクエスチョン•マークの数は多かったであろう。そんな顔をしていたはずだ。

話を聞けば、彼女に好意を寄せている男性と今日は遊

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愚痴愚痴しい駄文

リアル知人は一人しか居ない僕のnoteだからこそ、本日は全力で禍々しいネガティブな愚痴を吐こう。珍しいぞ!

先日、とある友人からライブに誘われた。
それ自体は嬉しい事である。が、参加費が5000円かかるとのことであった。

内心「は?」と思ったが、優しく断る。だが続いて「じゃあ金払うんで僕らのバンドの同期音源作ってもらえますか?笑」と来た。

こいつは心底俺の事を舐めているな、と思ってしまった。

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どん底と絶望、或いはタンガフリーク

さあ、どうしようか。一旦笑うしかないな。

現在の私のお財布事情からお話しよう。
まず次回の給料から研修給が終わる。蓋を開けてみれば研修中は時給1000円であった。

家賃は65000円
携帯の分割や通信費が10000円
借金の返済 30000円
水道光熱費 25000円
交通費 10000円
食費 頂き物のカップ麺を一日一個
その他支払い 20000円程

計16万円程

今の手持ち:2857円

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祝福/呪い

およそ23年前、僕は母の胎盤から出てきた。
最初に発した言葉は「天上天下唯我独尊」らしい、父はそう言っていた。

なお、僕は人がそのままでいて尊いだなんて事は思わない。「君はそのままで良いんだよ」なんてセリフは、“そのままの君を愛せる【僕】”という卑しいペルソナを内包している。そして彼はそのペルソナ、自分自身を愛しているに過ぎない。

話が逸れたが、それなりにおちゃらけた父であった。そんな彼も同じ

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Once upon a time in 【××××】

時計は深夜1時44分、かつて一緒に暮らしていた元恋人から一本の電話がかかってきた。

知人から勧められた、全裸でお見合いする外国のバラエティショーをエロ動画サイトで見ようとしたらウイルス詐欺のポップアップが出てきて、普段それを見ない彼女は驚いて僕に電話をしたそうだ。

「ダメだよ、人間らしい生活をしなきゃ」

僕は途中まで見ていたタランティーノ映画を止め、彼女と話していた。

そう言われるのも無理

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負け犬の倫理学

「勝ち負けじゃないよ!」

何でもかんでもそういう奴いるよね。特に音楽なんかではそう。
こんなこと書いたら全方位射撃になっちゃうけどさ。歳食って売れなかった奴とか、20も半ばに早々に諦めちゃう奴とかさ。
慰めで他人に言う場合もあるし、「売れる売れないじゃないってことに気付いたんだ!」みたいな。
音楽産業やビジネス自体について、「俺はそこに屈しない」みたいなスタンスをやたらと大声で主張してくる奴いる

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SEE YOU, SPACE COWBOY

例に漏れず、馴染みの喫茶店に居た。

「カウボーイビバップとかサンプリングしてるんですよ」

僕が何かしら音楽を作るとマスターである彼はいつも聴いてくれていた。たまたま行きの電車で見たブルージャイアントの話になる。

「あれは泣いたねぇ」

ミュージシャンを目指す僕も、ジャンルは違えどご多分に漏れず、鑑賞した時はぼろぼろと号泣した。思えば僕はずっと音楽に熱中していた。いや、熱中せざるを得なかった。

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南米のエリザベス・テイラー、そして極東の料理人

「いやあ、実は俺7股しててね」

何を隠そう、僕が成人し両親の離婚が成立した後、父が僕と2人きりのファミレスで放った衝撃の一言である。

僕が幼い頃、父は荒れ狂っていた。三代続く老舗料理店の看板を背負わされ、常人では耐えられない労働をこなしていた。そしてその果てには暴力があった様だ。

鏡月のビンやらフライパンやらを母に投げる父の姿が、朧げながら記憶に残っている。父はかつて、柔道で全国5本の指に入

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パンク・ロッカー・レコーズと天使の涙

「ロックンロールだけが世界を揺らすんだよ」

田舎の片隅の街、13歳の僕達は初めてハードオフで、スプライトも買えない様な安い値付けのビートルズのレコードを買った。ブルジョワなそいつの家でガタガタのレコードを聴いて、僕らはそんな風に目を輝かせた。

時は10年後、僕は今東京に居る。
今朝パンクした自転車を引き摺り今日も帰路に着く。駅から家までの短い道のりでも、周りにいる人間のストレスレベルをおよそ2

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うそが本当に

今月末、親友が僕の後任のバーテンダーをやっているミュージックバーでライブをする。

「俺ら出会ってもう5年経つんだよ」

あの頃僕たちは19歳だった。僕はキャバクラのボーイをしていた。彼はマックの店員だった。

こよなくヒップホップを愛していた彼と、ビートメイカーになりたかった僕が仲良くなるにはそう時間は要らなかった。田舎の片隅に生まれ、音楽が好きなやつなんて周りにいなかった僕らの共鳴は「青春」と

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幸福な朝食 退屈な夕食

上京する前、僕らはワクワクしていた。
それは新天地での生活もそうだし、何か大きな事が始まる予感、人生が全て変わってしまう様な予感だった。

どうにもそれは始まりでしかなく、その予感を現実にする為には僕の努力が必要らしかった。予感だけで大口を叩くのはノストラダムスだけで良いらしい。

なんだか眠れずにいた日の朝、馴染みの喫茶店で僕は空中に言葉を呟く。

“なんだか退屈なんですよね”

どうやら朝まで

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