うそが本当に

今月末、親友が僕の後任のバーテンダーをやっているミュージックバーでライブをする。

「俺ら出会ってもう5年経つんだよ」

あの頃僕たちは19歳だった。僕はキャバクラのボーイをしていた。彼はマックの店員だった。

こよなくヒップホップを愛していた彼と、ビートメイカーになりたかった僕が仲良くなるにはそう時間は要らなかった。田舎の片隅に生まれ、音楽が好きなやつなんて周りにいなかった僕らの共鳴は「青春」と呼んで良かっただろう。そしてその「青春」を僕たちは駆け抜けていた。

そう、文字通り“駆け抜けていた”のだ。田舎で出来る青春はきっと全てやり尽くした。僕らは地元で1番イケてるミュージックバーに入り浸り、一晩中ソウルからディスコからジャズから、果てはR&Bからヒップホップまで、あらゆる黒人音楽を浴びていた。そして営業が終われば深夜から次の日の昼までボロボロの中古車で、爆音でヒップホップを浴びながら爆走していた。いつも暴力的なスピードで新4号国道を駆け抜けていたのだ。

見渡す限り他に何もないド田舎の道の駅で疲れ果て2人コーヒーを飲む昼下がり、暗闇に蠢く波が余りにも怖すぎた茨城の海、寝起きで煙草を吸う彼を横目に爆音で耳舐めASMRを流してブチギレていたあいつんちの実家の和室。そういえばお前の実家の周りは工場ばっかりで常に薬品の臭いが充満してたな。後お前週七で違う女抱いてたな。

それから僕がそのミュージックバーで働き、暫くして同じオーナー、同じ建物の二階にあるセッションバーで僕はバイトを始める。そして僕と入れ替わりで彼が、僕が立っていたカウンターに入った。

2人して営業終わり、先輩と腹パツパツになるまでラーメンを食い、気絶寸前までサウナに入り、朧げな朝日を浴びて帰る。そんな毎日だった。

「オレはさ!ビートメイカーになって世界中の人のクビを揺らすんだよ!ウソじゃねえよ!」

僕はいつもそうやって2人してそんな事を語っていた。女にも仕事にもチャランポランな僕らだったが、誰よりも音楽を愛していた。

たまにすげーダサくて、いつもちょっと背伸びしてて、負けたくなくて若干イキっちゃう安い青春映画コンビだった。けどそういうのって楽しいよね。

そうして上京した僕は久しぶりに彼の働くミュージックバーでビートライブをする事になったのだ。訳わかんねえオーナーに怒られて悔しかった事も、皆んなで毎週末死ぬ程盛り上がってた事も今じゃ良い思い出である。ゆらゆら帝国を聴きながら、そんな事を思い出していたのだ。

“彼の砂漠の中に そっと山を作る
そこにひとさし指で ちいさな川をひくの
一粒の涙が海にとどくかも とどかないかも
明日雨がやんだら どこかに出かけようか
雲が切れたらすぐに そこまで かけて行こうか
バラの花捧げるような はずかしいこともできるし
好きな人裏切るような 残酷なこともできるし”

いつの日か
うそが本当に
なるように

なりますように

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