マガジンのカバー画像

読書感想文

40
読んだ本の話
運営しているクリエイター

記事一覧

「みどりいせき」を読んで

「みどりいせき」を読んで

〇〇賞受賞作だから読むということは普段しないが、たまたまXで目にした著者の三島由紀夫賞受賞スピーチが魅力的だったので読んでみたくなった。

読み始めたらもう著者のことは忘れて作品の世界にのめり込んだ。
ジャンルでいえば青春小説になる。
私は青春小説が大好物なのだ。
古くはサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、ジャンディ・ネルソンの『君に太陽を』も大好きな小説だ。

青春小説といえば、周りとうまく

もっとみる
現代詩手帖2024.5|パレスチナ詩アンソロジー

現代詩手帖2024.5|パレスチナ詩アンソロジー

私は残酷な映像を直視できない。
けれど詩を読むことはできる。
自分事ではないどこか遠くの出来事として画面越しにみるニュース
もはや流れても来ないニュースよりも
文学は直接心に届く
文学の力
翻訳の力を
これほど感じたことはなかった。

生きるか死ぬかという時に、文学になんの意味があるのか?
文学が、
翻訳者の熱意で翻訳された文学が
どんなテクノロジーよりも
人と人を繋ぐのだ

現代詩手帖 2024

もっとみる
ミステリー日和

ミステリー日和

〜晴耕雨読〜

晴れたからって耕すわけではないけれど

雨が降ったら読書なんていいですね

こんな風に降り込められた日には

ミステリーなんていかがでしょう

📖

「そして誰もいなくなった」

アガサ•クリスティーはオリエント急行とアクロイドは読んでいたけれど「そして誰もいなくなった」は読んでいなかった!
あまりにも有名すぎて、それにタイトルがもうすべてを語ってるし!
後世多くのオマージュ作品

もっとみる
「荒野のおおかみ」を読んで

「荒野のおおかみ」を読んで

ヘルマン・ヘッセ
「荒野のおおかみ」
(Der Steppenwolf) 1927

狼好きなので、タイトルに惹かれて読んでみた。

動物の狼ではなく、「荒野のおおかみ」を自称するヘッセ自身を投影した五十歳男性の物語だった。
巻末訳者(高橋健二)解説によれば《小説としての構想もととのっていない》《当初は読者を失望させ、嘆かせた》《いろいろな点で波乱を巻き起こした問題の多い作品》ということで、かなり

もっとみる
「人間にとって科学とは何か」を読んで

「人間にとって科学とは何か」を読んで

湯川秀樹/梅棹忠夫「人間にとって科学とはなにか」を読んだ。
知の巨塔みたいな二人の対談は、意外にも「ようわからん」と言い合っているフワフワとしたものだった。1967年の対談なので古いといえば古い。しかしその中でも、未来を予見していたり、真理を探究していく道筋に驚きを感じる部分も多かった。

という問いから始まる。
今現在の私達にとって科学は、生まれた時から身近にあって、それがなんであるかなど考えた

もっとみる
吉原遊郭と遊女の歴史

吉原遊郭と遊女の歴史



廻れば大門の見返り柳いと長けれど…

樋口一葉「たけくらべ」の冒頭部分である。大門は吉原遊郭の唯一の出入り口、見返り柳は門の外にある柳の木で、遊廓で遊んだ男が帰りに名残惜しんで後ろを振り返ったことからこの名がついたとされる。「たけくらべ」は淡い初恋の物語だが、14歳の主人公美登利はもうすぐ妓楼に出されることが決まっている。
私は短大の卒論で樋口一葉について書いたのだが、二十歳の小娘は「たけく

もっとみる
落合陽一「日本再興戦略」を読んで

落合陽一「日本再興戦略」を読んで

デジタル化した社会について、

このあたりを読んでいて連想したことは、ゲームのことです。
綾野つづみさんの記事に、ゲームでの経験が実際の経験に感じられることについて書かれていました。

私はゲーマーではありませんが、昔どうぶつの森にハマっていた頃は、そこらへんで見かけるパンジーやら雑草やら蝶にゲーム内と同じ感覚を抱いていたことがあり、それは他のプレイヤーも同様のことを言っていました。
私たちの脳は

もっとみる
【ガルシア=マルケス】いやぁ、文学って本当にいいもんですね

【ガルシア=マルケス】いやぁ、文学って本当にいいもんですね

G・ガルシア=マルケス「出会いはいつも八月」読了。
晩年、認知症で書けなくなった著者の、最終的にOKにはならなかった「未完」とされる遺作。

ひとくちで言ってしまえば人妻不倫ものだろうが、ひとくちで言うのが目的で小説を読むわけではないのだ勿論。

例えばこんな文章が私は好きだ。

話としてはラストまでいっているものの、後半部分はまだ完成形ではないので、やはり完成作品というよりは小説の成り立ち方の研

もっとみる
「ライティングの哲学」を読んで

「ライティングの哲学」を読んで

この本は山門文治さんのこちらの記事で知りました。

記事で一番目に紹介されているのと、表紙があらゐけいいちなのが決め手で購入しました。

私は文筆で身を立てている訳じゃなし、noteも本能の赴くまま書き散らかしているだけで、書けなくて困るということもありません。
だからこの本のメインテーマ部分は私にとってほぼ関係のないことです。
それなのに何故この本に引かれたのでしょうか。
この本の中で「書くこと

もっとみる
「宇宙思考」を読んで

「宇宙思考」を読んで

Uniさんの読書記録で紹介されていた「宇宙思考」が面白そうだったので読んでみました。

量子

宇宙に漠然と興味はあるものの知識は小学生レベル(自分の)なので、天文物理学者である著者の説明文は難しかったです。

例えば、

という文章なら読めばどういうことかすんなり理解できますが、

という文章を読んでもすぐには飲みこめません。
これは、例えば画面にオシログラフ的な波形があってタッチペンで波形上の

もっとみる
吉田棒一の文体について|議事録tweet分析

吉田棒一の文体について|議事録tweet分析

吉田棒一「第三のギャラガー」(2022年9月発行)読了。
前回読んだ「ブロッコライズド」(2019年8月発行)からさらにパワーアップしている。

◼️言葉遊び

偏執狂的に言葉の連想を繋ぐスタイルは一層度を越して止まらない。

ここだけ取り出されても不可解かもしれないが、とにかく言葉の泉が溢れ転じていく様は、読者の方も経験知識教養を試されることとなる。

◼️詩情

この詩とは詩情のことだと思う。

もっとみる
「ブロッコライズド」を読んで

「ブロッコライズド」を読んで

私のイチ推し作家である吉田棒一さんの本「ブロッコライズド」を読んだ。

外見サイズは厚めの文庫本。厚めの文庫本な時点で読み応えがありそうだが、実際に読み始めるとMr.インクレディブルの赤ちゃんの特殊能力並に見た目と質量のバランスがおかしく内容がズシリと詰まっている。常日頃の吉田棒一さんのtweetで垣間見られる言葉の氷山の水面下部分はこんなにも膨大だったのか。内容はエッセイ的なもの、小説的なもの、

もっとみる
言語技術って知ってますか?

言語技術って知ってますか?

「大学生・社会人のための言語技術トレーニング」という本を読みました。

Twitterで、論文を書く大学生にお勧めされてた本ですが、面白そうな匂いがしたので。
私は自分でも会話の受け答えが下手だなと思うことがよくあります。特に緊張する相手だと、質問が来るとそれが頭の中で半回転してしまい、口から出るのは明後日な方から来た言葉。
そいういう癖を治すヒントがあるかなと思って読みました。
驚いたことに、言

もっとみる
落合陽一「現代の魔法使い」

落合陽一「現代の魔法使い」

「これからの世界をつくる仲間たちへ」
落合陽一
2016年4月初版発行

約8年前の本である。
落合氏の本は書かれてから数年後に読むくらいが一般人には丁度良いかもしれない。そんなことを思っていたら、noteに同じことを言っている人がいた。

この本は、これから未来を作る若者に向けて書かれたものだ。コンピュータが浸透した世界で「魔法をかける人」になるか「魔法をかけられる人」のままになるか。
当然「魔

もっとみる