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#創作大賞2024
小説「秘書にだって主張はある。」プロローグ、第一話(全二十話)
いわゆる「お仕事小説」を書きました。令和4年の暮れに上げたもので、舞台はその頃ですが、ちょっと異色でファンタジー要素もあったりします。71,768字
<あらすじ>
令和とよく似た、しかし隣国と休戦中という少しだけ違う海生日本の東京で。
主人公伊藤恭子は、「柊社」の総務部長秘書であり、やりがいを感じている一方で、実は異能力者であることを、周囲にひた隠しにしていた。
ある時、恭子は相談役と直
「カモメと富士山」7
夢のなかで電話が鳴っている。規則正しい間隔で鳴る音を聞くうち、それが夢ではないと気づく。頭が覚醒しないまま起き上がり、ベッドルームを出て、コードレスの受話器を取る。窓から差しこむ金色のヴェールのような朝日が、全身に注ぐ。ソファに横たわり、ハローと応答すると興奮した母の声が飛びこんでくる。
「何、こんな朝早く。こっちは、まだ7時前だよ……」
昨夜は授業の予習で2時まで起きていたのだ。寝ボケ眼を
『紫に還る』 第一話(Ⅰ-1.2)
【あらすじ】
カンターは小麦畑に紫草の蕾を見つけた。紫草が開花すると小麦の収穫はできず、部族民は餓死するしかない。祈るカンターの手が燃えるように熱くなり、その力で蕾は奇跡のように枯れた。子ども扱いされていたカンターは認められ、竜と戦う戦士になる。
父親の仇である竜を追うカンターは、川で溺れ死ぬところを何者かに助けられる。辿り着いた大国ユリシアでは、その征服を企むワン族と戦う。卑劣な王子に殺され
ファンタジー小説「W.I.A.」1-5
第1章 第5話
御者台に立ち上がったアルルが、警戒の声を上げた。エルフは精霊の力を借りて、ある程度の遠隔視が可能だった。カイルとガルダンが反応し、武器を手に馬車を飛び降りると、北へ向かって走り出す。アルルも手綱をエアリアに渡し、軽やかに地面に降り立つと、風のように走り去った。マールはどうしたらいいのかわからず、馬車の中でオロオロする他ない。
「このまま私たちも向かいますが、戦闘場所とは
小説:河川敷と、タバコと、瑠璃色と。第1話| [創作大賞2024] | 恋愛小説
あらすじプロローグ 夜の帳が降りたある夏の日。
鶴見川を一望できるJR綱島駅近くの河川敷には青々とした草原がまんべんなく茂っている。左手側に、車専用の往路復路と頑強な歩行者用通路が特徴的な大綱橋が対岸まで伸びていて、さらにその奥に、東急電鉄東横線が通るこぢんまりとした橋が並行してかかっている。しかし奥の橋には名前がない。その名もなき橋まで全部含めて「大綱橋」とされているかもしれないが、詳しいこ