たかつじ楓@小説家・漫画原作家

小説家・漫画原作家。 『推しのための異世界ウェディングプロデュース!』LINEマンガ連…

たかつじ楓@小説家・漫画原作家

小説家・漫画原作家。 『推しのための異世界ウェディングプロデュース!』LINEマンガ連載中! 『後宮の華、不機嫌な皇子』『こちら鎌倉あやかし社務所保険窓口』アルファポリス文庫より発売中。 少年漫画、音楽フェス、お笑い好き。 鎌倉出身、横浜在住。

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霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第11話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

 駅を挟んで私の勤めているホテルからは真逆に位置する建物。  横はファッションビルになっており、眩いほどの光が私を迎えてくれる。  切れ切れの息を直すために大きく息を吸うと内臓が痛んだ。  扉に寄りかかりながらホテルの中に入る。  ドアボーイが物凄く不審な目で見てきた。  これで私がぼろぼろの服を着ていたら完璧に連行されるところだが、とりあえずワイシャツにネクタイをしていたので見過ごされた。  息つく暇もなく、左右を見渡した。  ホテルの中は暖房がきいていて、走った後で

    • 霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第10話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

      今日は12月24日である。 朝からニュースをつけると、どれもこれも今日は絶好のデート日和ですね、とかオススメデートスポットはここです、などと聞いてもいない情報を教えてくれる。 まだ昼だというのに、何やら街の空気がピンクがかって見えるのは私だけだろうか? 浮き足立った雰囲気。道行く人、みんなが浮かれている。 そんな雰囲気の中では、私とてミニスカサンタのコスプレをしてチキンを売っている女の子に「貴女をここで召し上がります」と言いたくなってしまう。それほどの魔力が今日はあった。

      • 霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第9話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

         前に来たときは、壁一面に神ノ木シンのポスターが貼られていた。  一瞬にして客人を帰る気にさせる破壊力を持ったポスターの数々。  それが、ひとつ残らず剥がされていたのだ。  ごく普通の白い壁がむき出しになっている。 ごく普通ではあるが、異常な時を見てしまっているため、その普通さが逆に不気味だった。 「どうぞ、寒かったでしょう」  彼女が持ってきたコーヒーカップも、シン様がプリントされているやつではない。無地の物であった。  早坂さんは何も言わずにコーヒーに口をつけ

        • 霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第8話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

           私は夢を見ている。  瓦屋根の並ぶ町並みを、袴姿の男が歩いていた。  伸びっぱなしでぼさぼさの頭、腰には刀を持っている。  あごに無精ひげを生やした三十路前の優男だ。  飛脚が忙しそうに走り回り、町商人たちの威勢のいい声が響いている。  武士は堂々と闊歩し、着物姿の女たちは談笑しながら通り過ぎていく。  男は草履で砂利道を踏みしめながら立ち止まる。  その視線の先には、たくさんの客でにぎわっている団子屋。  繁盛しているその店を、慌しく駆け回って切り盛りしている一人

        霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第11話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第7話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

           食べ終わって食器を片付けて時計を見ると、夜中の十一時であった。  ふふふふふ、もうこれからは大人の時間ではないか。私はにやけそうになる。 「あ、あたしシャワー浴びてきていいですか?」  食器を洗いながら言う早坂さんの言葉が再び超ド級ストライクで飛んできた。  パードゥンミー?リアリー?と激しいボディランゲージ答えてしまうところであった。  動揺して、「いえこの家は早坂さんの家なので客人の私になど聞かずにいつでも入っていただいて結構です、はい」と早口でまくし立ててしま

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第7話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第6話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

           顕微鏡で血眼になって探しても、一ミクロンも短所など見当たらない完璧な私が、ここ最近恋愛のことで心を悩ませているなど、一体誰に想像できようか?  寝ている間も食事の時もトイレの中でさえ、私の考えを占めることはたった一つだ。    どうすれば、早坂さんを私の物にできるか。  それだけである。    純真可憐で花のように美しい彼女、私の意中の人、早坂奈々さんを、一般大衆に向かって声を大にして「恋人です」といえる関係になりたいだけなのだ。    彼女が毎日うちのレストランに来てい

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第6話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第5話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

           数日後、スマホに電子チケットが届いたのを確認して仕事場へと向かう。  インターバルを空けて襲い掛かってきた筋肉痛に、体の衰えを感じながら。  体中がぎしぎしと軋み、まともに歩くことができない。私の働きっぷりを見てオーナーは「ロボットダンスでもしているのか」と呆れていた。  ラストオーダーの時間まで待ちきれず、人気の無い時間に、仕事がなく手持ち無沙汰な早坂さんに話しかけた。 「早坂さん、ちょっといいですか」 「ええ、えっと…大丈夫ですか」  ものすごく不自然な歩き

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第5話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第4話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

           美しい夕日が差している。  私は海辺に立っていて、潮風が横にいる早坂さんの髪を優しく揺らしている。  彼女はどこか遠い、海の向こうを眺めている。 「早坂さん」  私が声をかけると彼女はゆっくりと振り返り、なんですか、と優しく微笑んだ。  高鳴る胸を押さえながら、彼女の目を見据え、一歩、また一歩と近づいていく。  手を伸ばせば届く距離で、わたしはゆっくりと、そしてはっきりと言った。 「私と付き合ってください」  驚いたのか、彼女は目を見開いた。  しかしすぐに目

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第4話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第3話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          「説明してもらおうか」  ぐらつく視界で天井を見上げる。  私は急遽スタッフの控え室のソファに寝かせられることになった。  風邪を引いたことがないことが取柄だったこの私が、仕事場で倒れることになるとは思いもしなかった。 『うむ、すまない…拙者も少々暴走しすぎたな』 「黙れ。次に会う時は法廷だ」  腹が立ってそんな言葉を吐き捨てる。  拙者を訴える気か、という声を聞きながら、あまりの体温の熱さにすっかりぬるくなってしまった額の上の濡れタオルをひっくり返した。 『彼女

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第3話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第2話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          『無視をするな。 拙者の名前は氏原陣八だ』  私は無心で納豆を練る。百回以上練るとさらに栄養価が上がるという、日本が誇るべき完全食を練る。  やはり朝は和食に限る。カフェオレにクロワッサンのブレックファーストもなかなか捨てがたいが、和食は譲れない。 「おかわり」  坊主頭が車座で畳の上にあぐらをかいて食事をしている。  周りがみな袈裟姿で私だけスーツなので浮いているが。  姿勢を正して右手に箸、左手にお茶碗を持ってもくもくと納豆ご飯を食す。 『私は病死してしまい、庭

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第2話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第1話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          【あらすじ】 【第1話ストーリー】  私の名前は遠野彰文。  都心に位置するお洒落なレストランのウェイターをしている。  自分で言うのもなんだが、容姿淡麗でスポーツ万能、頭は切れるし生まれながらに身に付いている気品。  挫折など経験したこともなくまさにエリート人生に乾杯! といったところなのだが、こんな私にも少々悩みがある。 「そもそもお前には落ち着きがない。  いい歳してフラフラしおって、全くもって自覚が足らん」 上から辛辣な言葉が振りかかる。 爺さんの説教は長

          霊憑き男子は推し活女子に恋をする 第1話【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第12話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

           やはり主食の米を一番に増やしていかねばいけないな、などと考えていたら、「本島からの使者が来圏した」という情報が圏邸内を駆け巡り、朝から護衛隊が出動して大忙しとなっていた。  春奈が圏邸のふもとにある船着場に向かうと、スーツに眼鏡のお堅い中年の男性が佇んでいた。  入社したばかりで暴言を吐き干された春奈に、冷たくした上司であった。  春奈はご無沙汰しております、と挨拶をするが、相手は小さく会釈をしただけで、鞄の中からタブレットを取り出し、画面を春奈へと向けた。  何やら

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第12話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第11話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

          「はーあ、しっかし暇ですなぁ」  一方その頃、圏邸でお留守番をしている柳之介はつまらなそうにあくびをした。だらしなく四肢を投げ出し、千歳の間でごろごろしている。  「わらわも行きたかったのじゃ」 「全くですな。こんな暇なら見物にでも行けばよかった。町で買い物もできますしなあ」  一人でぱちぱちと意味もなく将棋の駒を並べながら柳之介が言う。鶯は不服そうに部屋中を走り回っていた。 「それより、藤川殿は大丈夫でしょうか。心配です」 「ああいう神経の図太い方は意外としぶと

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第11話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第10話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

           数時間後、千歳の間にて。  部屋に入ると、お菊にいきなり着ていた服を脱がせられた。  なになになにすんの! と春奈は下着姿になりながら肌を隠していたら、今度は次から次へと服を着せられていった。突飛な行動に眠気も全て吹っ飛んだ。  長月の儀のための圏主の格好にさせられるのだろう。  最初は抵抗していたが、最終的には成すがままになってしまった。  何枚も重ねて着る着物は、身動きは取れないし重くてたまらない。  しかも、ぎゅうぎゅうときつく着付けるものだから、体中が締め

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第10話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第9話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

           時雨によって、千歳の間に長たちが緊急収集された。 「皆、忙しいところ集まってもらってありがとう。由々しき事態だ。今朝正門にこれが置かれていた」  時雨が袂から巻物を取り出し開くと、そこには短い文体で、 『長月の儀にて圏主の命を狙うで候。御覚悟あれ』  と書かれていた。 「なに、この安い脅し文句は」  春奈が呆れたように言うも、他の者は絶句していた。  特に藤次郎などは、信じられないといわんばかりに口をぽかんと開けている。 「長月の儀とは、年に一度、圏主が町を

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第9話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第8話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】

           千歳の間の庭に、夕日が落ちている。  縁側に座ってぼんやりと空を眺めて、春奈は今日見て来た街並みや、行き交う人々の言葉を思い出していた。朱色に染まる空は、東京よりも高く感じる。 「少し疲れたな。『ぷりん』はどうじゃ?」  そうして座っていたら、後ろから鶯の声がした。  作り置きをして冷やしておいたプリンを、調理場から持ってきたのだろう。鶯が小さい手で持った器を差し出してきた。 「春奈が眉間に皺を寄せているときは、難しいことを考えている時じゃからな」  鶯はそう言

          左遷先はサムライだらけの横浜でした 第8話【創作大賞2024お仕事小説部門応募作】