連載小説「三角公園」第1話
創作大賞2023 中間選考通過作品
プロローグ
先生の細い背中は、どんなに遠くからでも見分けられる。私は、上がっていく心拍数に急きたてられるように足を速める。ぴんと伸びた紺スーツの背中が、少しずつ大きくなる。あと数メートルというところで、決まって桜子が飛び出してきて、そよ風のような声で「菖蒲先生!」と呼び止めるのだ。私は心のなかで舌打ちする。振り返った先生は、後ろでふてくされている私にも、「やあ、瑞穂」と物憂げに微笑んでくれる。私はつられるように笑顔をつくってしまう。桜