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『天使の翼』第12章~吟遊詩人デイテの冒険~

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サンス大公国の秘密警察機関SSIPのデビルハンター捜査に巻き込まれたデイテ、シャルル、ローラの一行は、指揮官クラレンス少佐の計らいでハイアンコーナまでパトロールエアカーに同乗させ…
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『天使の翼』第12章(63)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(63)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 『近くの村まで連れてってあげる……村と言っても、人間たちが何やら地面を掘り返してる所だけれど』
 鉱山町に違いなかった。……すぐにエリザとお別れとは寂しかったが、ありがたい話だ。わたしは、余計なものは置いてくことにした――水の入った背負い鞄、食糧もそんなにたくさんはいらないだろう、救急キット……ちょっと迷ったが、捨てていくことにする。
 エリザが、前脚を伏せて、首筋を傾げてきた。
 (よし、乗っ

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『天使の翼』第12章(61)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(61)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。
 『見て!』
 エリザは、彼女の首筋の鱗を、バリバリ、バリバリと立てて見せた。
 わたしは、あっ、と声をあげていた。
 子供のデビルの鱗は指先ほどの大きさだったが、彼女の鱗は、改めて見ると優に30標準センチはある。立った鱗のしたには、毛のようなものが密生していた――
 『デビルは、思春期を迎える頃、子供のころあった鱗とは別に、大きな鱗が生えてくる……そして子供

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『天使の翼』第12章(57)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(57)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 マウンテン・デビルは、四本の脚を水平に広げ、脚に生えた被膜を一杯に広げて風を受けていた……被膜には軟骨のような骨組みがあるようで、どちらかというと短い彼らの脚よりもずっと広く張り出していた……
 その舞う姿は、遠く見れば優雅で音もなく、しかし、時に目の前を岩棚すれすれに飛んでいく様は、荒々しく、バタバタと被膜を風にはらませる……飛んでいる時の彼らの目、巨大な目玉は、真剣そのものだった――
 『私

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『天使の翼』第12章(56)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(56)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、前を行くデビル達と湿りを帯びた洞窟の壁との間の狭い隙間を、デビル達の横っ腹にぶよっぶよっと手を突きながら駆け抜けた――一匹、二匹……四、五、六……八匹……九!
 パッとまぶしく周囲が開け、わたしは、断崖絶壁からせり出した岩棚の上に走り出ていた――危うく急ブレーキをかけ前のめりに立ち止ったわたしの全身を、夏とまではいかないが、明らかに初夏の風が吹き抜けた。強い風……。
 わたしの眼前に、

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『天使の翼』第12章(55)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(55)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 それは、最初肉眼で見た遠くの星雲のようにはかなく、そして、徐々に明るさと広がりを増していった。わたしは、ゴーグルを外した。
 登りの為か、そのぽっかりと空いた洞窟の出口から見えるのは、燦々と陽の照る青空だけだ……何故か、標高の高い山の上なはずなのに、アンコーナの海べりで感じたより、余程暖かく……いや、暑い位に感じる……洞窟の入り口から流れてくる空気は、初春のものではない……
 と、何か大きな影が

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『天使の翼』第12章(54)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(54)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 洞窟……わたしが運命の導きで迷い込むことになった洞窟は、気流などの不可抗力で、マウンテン・デビルが本来の生息地の外にランディングしなくてはならなくなってしまった時、彼らの王国へと取って返すための避難路のようなものだった。
 手早く食事を済ませ、暗視ゴーグルを装着して、わたしは、デビル達の後を追った。彼らは、幼獣の気配にただならぬもの、つまり、わたしの存在を察知して、9匹で山を――もちろん、洞窟の

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『天使の翼』第12章(53)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(53)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 しばしの沈黙の後、デビルが、その巨大な瞳をパチリと瞬きして見せた。
 『あなたとは仲良くやれそう……お礼がしたい』
 わたしは、思わず彼女の瞼の上をさすっていた。
 『私と一緒に飛んでみたいと思ったことはない?』
 「えっ!」
 わたしは、驚いた。……そんな夢を見たことがある……。デビルは、人の心に入ってこれる……人間でも、そうそう勘のいい人はいないのに……
 わたしは、この時ばかりは、離れ離れ

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『天使の翼』第12章(52)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(52)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「ハンターの悪戯?」
 『いえ、いえ、あの娘が、まだ飛ぶのに慣れてなくて、ハンターの予想を裏切る動きをしたのだわ……それで、ハンター……まだ、子供みたいだったけど……墜落死した』
 「絡まったロープを残して……」
 『私達の体、指では、解くなんて無理だった』
 「……そう言えば、幼獣と母獣は、狩ってはいけないのでは?」
 『よく知ってるのね。初心者のハンターが、狩る目的でなく、私達の体に乗り移る

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『天使の翼』第12章(51)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(51)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、彼女の鼻息に我に返って、改めて、人の頭位も大きい彼女の丸い目と見詰めあった。妙な話だが、この近さだと、彼女の両目を見るのは無理で、右目だけを見詰めた。
 『あなたは、とても優しい人、感謝するわ』
 わたしの心の中に――何とも表現しようがないのだけど、わたしの胸の辺りに声がするのだ――労せずして言葉がこだました。
 「とんでもない。良くなるといいのだけれど……いったいあの娘に何があったの

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『天使の翼』第12章(50)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(50)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしの心を読んだかのように、母獣が、光の中に進み出てきた――
 (なんて立派なの!)
 8標準メートルではおさまらない……10メートル以上あるわ!
 堂々たる体躯、そして、1メートルはあろうかという角の生えた威厳のある顔……でも、女性であることは間違いない、絶対に。
 (女性とは何なのか、定義を書き直す必要があるわね……)
 わたしは、彼女に歩み寄った。
 彼女も、頭をわたしの眼前に下げてきた

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『天使の翼』第12章(49)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(49)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 その擦る音は、吟遊詩人の耳を持たずともすぐに分かる、複数の……いや、とても多くの擦る音の混じり合ったものだった。
 それが、だんだん大きくなってくる。
 地響きとまではいかないが、かなり大きなもの……生き物が、たくさん、近付いてくる。
 ……
 音が止まった。
 それは、もうすぐ目の前にいる。
 目を凝らすが、光が足りない。
 と、わたしの傍らのデビルが、目を覚まして、すぐさま、わたし同様洞窟の

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『天使の翼』第12章(48)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(48)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「また飛べるようになるわ」
 わたしは、彼女の鼻面を撫でた。
 彼女の傷を、洗うべきか、わたしは悩んだ。下手に水をかけて洗っていいものやら……それは、きっとこの子のお母さんが――

 「えっ?」

 わたしは、声をあげていた。――なにか、感じた。間違いなく、何かを……
 わたしの前腕から、肩、全身へと、鳥肌が走った!
 わたしは、洞窟の入り口の方を向いていたから、まるでスローモーションになっ

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『天使の翼』第12章(47)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(47)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ……その後の残酷な過程は省略する。彼女は、うめきながらも、ぎゅっと目を瞑ってよく耐えた。切断されたロープがはらりと肉体を離れ、どさっと洞窟の床に落ちた時、彼女は、まるで人間のような、万感こもった溜息を吐いて、うつ伏せにくずおれた。かわいそうに、気絶したのである。
 わたしは、改めて、恐る恐る彼女の痛めつけられた肉体を見た。ロープで圧迫を受けていた部分は、ロープがなくなったことによって早くも盛り返

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『天使の翼』第12章(46)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(46)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (どこかに結び目があるのかしら?)
 わたしは、人間の子供を相手にするのと全く同じ心持ちで彼女に接していた。
 「今助けてあげる!」
 すぐに分かったのは、仮に結び目、絡まったところが分かったとしても、肉に深く埋もれ癒着したような状態では、ほどくようなことはとても無理……場所を選んで、ナイフで少しずつ切れ込みを入れていくしか方法は……
 わたしは、彼女と視線を合わせた――苦痛を伴う作業だ……
 

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