■ 「そういえば、深ヶ集落ってとこで山火事があったこと、水野君知ってる?」 大学内にある食堂の一角で昼食をとっていた颯太は、食べる手をぴたっと思わず止めた。 …
■ 離れの和室にいる颯太と歌留多は、畳の上に置いて開いた正の日記に目を通していた。お互いに流し読みをしながら、歌留多がページをめくっていく–––。 【平成二十…
■ 深夜の車通りが少ない国道を、榛名と歌留多を乗せた車が走行している。 二人は互いに無言だ。榛名はヘッドライトに照らされた前方を見つめたまま運転をし、助手席に…
■ 夜十時過ぎ。 煙草を切らした出口は、自宅から徒歩十五分ほどの距離にあるコンビニまで歩いていた。車で行くか迷ったが、夜風にあたりたい気分だった。田舎の夜空に…
■ 令和五年 秋–––。 「ふぁあ…」 あくびをして、スマートフォンの時刻を確認する。九時ジャスト。 布団から体を起こして、枕元に置いてあった煙草の箱とライ…
【あらすじ】 東京のIT企業に勤めていた出口春は、心身ともに疲弊して仕事を辞めて愛媛に移住した。ある日、ドライブ中に見つけた深ヶ集落に初めて足を踏み入れた出口は、…
観覧ありがとうございます。 浅木ユウトと申します。 小説投稿サイト「エブリスタ」では一風ノ空という名前で執筆してます。(下記はエブリスタのリンクです) 四国の高知県…
■■■ 今年の春は、寒暖差も少なく過ごしやすい気温が続いていた。 高知は三月の下旬に桜が満開になった。 全国ニュースでも高知城や五台山の桜が特集で紹介され、…
■■■ 翌日。 目を覚ました梓沙は、首に残る圧迫感を不快に思いながらベッドから降り、制服に着替え始めた。シャツのボタンを留めながら、ふと見た鏡に映る自身の姿…
■■■ 穂乃香から連絡があったのは水曜日の夜、梓沙が風呂上がりで部屋に戻って来たタイミングだった。 向こうの候補の日時を聞いた梓沙は、問題ないと穂乃香に伝え…
■■■ ……………… …… 生後十ヶ月ほどまでに成長した裸の赤ん坊が、ベッドの横のカーペットの上で一人座りをしていた。 むくみのないすっきりとした顔立ちに、ぱ…
■■■ ピピピピピッ 「…ッ!」 耳元でスマホのアラームが鳴り響いたことで、須藤梓沙は夢から目覚めた。 「はっ、はっ…」 自室の天井を見つめたまま、口から乱…
【あらすじ】 東京から高知に引っ越してきた転校生の少年、須藤梓沙は、クラスメイトの叶光一に映画部の撮影の協力を頼まれ、とある廃墟マンションで『ケンちゃん遊び』と…
浅木ユウト
2024年7月23日 08:19
■「そういえば、深ヶ集落ってとこで山火事があったこと、水野君知ってる?」 大学内にある食堂の一角で昼食をとっていた颯太は、食べる手をぴたっと思わず止めた。 ちらっと視線を前に向ける。正面の席に座ってがっつりカレーを食べている女性は、オカルト研究会の部長、香山夏海だ。 ひとりで食堂に来て食事をしていた颯太に「あ、水野君だ。一緒に食べてもいい?」と夏海が気さくに声をかけてきたのだ。「えぇ
2024年7月21日 07:15
■ 離れの和室にいる颯太と歌留多は、畳の上に置いて開いた正の日記に目を通していた。お互いに流し読みをしながら、歌留多がページをめくっていく–––。【平成二十五年(冬)】 新年を迎えた。 歳のせいか最近物忘れが酷いと思い、今年から日記というものを始めてみる。 俺の性格からして続けられるかは分からん。 まぁこんなモンは気楽に続けていけばいい。【平成二十五年(春)】 俺が阿墨家に婿入
2024年6月29日 07:55
■ 深夜の車通りが少ない国道を、榛名と歌留多を乗せた車が走行している。 二人は互いに無言だ。榛名はヘッドライトに照らされた前方を見つめたまま運転をし、助手席に乗っている歌留多は頬杖をついて、暗い窓外をぼんやりと眺めている。「…あ」 ふと目に留まった前方のコンビニの明かりに気づいた歌留多が口を開いた。「あそこのコンビニ寄ってくれない?トイレ借りたいからさ」「……」 榛名は黙っ
2024年6月2日 16:25
■ 夜十時過ぎ。 煙草を切らした出口は、自宅から徒歩十五分ほどの距離にあるコンビニまで歩いていた。車で行くか迷ったが、夜風にあたりたい気分だった。田舎の夜空には都心では拝めない星が見える。田舎に移住してからお気に入りになっている時間の一つだ。 よく利用するコンビニに入った。 店員は中年男性のワンオペで、店内に客の姿はない。出口はカゴを持つと、先に朝食用の食パンとロールパンを入れ、そしてお
2024年5月16日 20:26
■ 令和五年 秋–––。「ふぁあ…」 あくびをして、スマートフォンの時刻を確認する。九時ジャスト。 布団から体を起こして、枕元に置いてあった煙草の箱とライターを握りしめて立ち上がる。 四畳半の和室から短い廊下に出ると、窓の向こうに広がる雲ひとつない青空をぼんやり眺めながら煙草に火をつけた。有毒な煙が肺を満たし、ふぅ、と息を吐く。 東京で働いていた出口春が仕事を辞めて、愛媛県の内子
2024年5月2日 09:33
【あらすじ】東京のIT企業に勤めていた出口春は、心身ともに疲弊して仕事を辞めて愛媛に移住した。ある日、ドライブ中に見つけた深ヶ集落に初めて足を踏み入れた出口は、その集落で古民家カフェを経営する若夫婦と出会う。そこで出口が目にしたのは、2人の背後に佇む着物姿の女と、2人の全身を染め上げる黒いマーブル模様だった。大学生の水野颯太は、友達の山本歌留多と休日のショッピングを楽しんでいた。そこに怪しい
2024年4月28日 06:00
観覧ありがとうございます。浅木ユウトと申します。小説投稿サイト「エブリスタ」では一風ノ空という名前で執筆してます。(下記はエブリスタのリンクです)四国の高知県生まれ。海と山のど田舎育ち。職業→グラフィックデザイナー好きな食べ物→チョコ・コーヒー(健康に害がないならお菓子中心の食生活がしたい)趣味→読書・小説の執筆・絵を描く・ひとり旅・神社巡り(特に稲荷神社が好き)電撃文庫とケータ
2024年4月24日 21:29
■■■ 今年の春は、寒暖差も少なく過ごしやすい気温が続いていた。 高知は三月の下旬に桜が満開になった。 全国ニュースでも高知城や五台山の桜が特集で紹介され、休日はお花見を楽しむ人々でどこも賑わいを見せていた。 土曜日。 この日は朝から、体育館で男子バスケ部の練習試合が行われていた。 ピーッと、試合終了のホイッスルが鳴り響く。相手チームと整列をして礼を交わした後、ベンチに戻る光一の真
2024年4月24日 21:27
■■■ 翌日。 目を覚ました梓沙は、首に残る圧迫感を不快に思いながらベッドから降り、制服に着替え始めた。シャツのボタンを留めながら、ふと見た鏡に映る自身の姿を見て、胸元のボタンを留めていた手が止まった。 首筋にそっと手をやる。 そこには、両手で首を絞められた痕が残っていた…。■■■ 母親とろくに口を利かないまま、三日が過ぎた。 水曜日の放課後。 この日は、朝からずっと雨が降
2024年4月24日 21:25
■■■ 穂乃香から連絡があったのは水曜日の夜、梓沙が風呂上がりで部屋に戻って来たタイミングだった。 向こうの候補の日時を聞いた梓沙は、問題ないと穂乃香に伝える。要件も済んだ為、お礼を言って通話を切ろうとしたが、穂乃香に阻止され、そこからはデートプランについて長々と話しを聞かされる羽目になった。■■■ 次の日。 梓沙はいつもより早く登校して、生徒玄関から渡り廊下を歩き到着した体育館の
2024年4月24日 21:24
■■■……………………生後十ヶ月ほどまでに成長した裸の赤ん坊が、ベッドの横のカーペットの上で一人座りをしていた。 むくみのないすっきりとした顔立ちに、ぱっちりとした可愛らしい目。色素の薄い髪も生えている。きゃっきゃっ 赤ん坊は笑っている。「まま、まま」 ベッドから上体を起した梓沙を見て、はっきりと、“ママ”と口にした。「まま、まぁま」短い両手を上下に振ったり、
2024年4月24日 21:23
■■■ピピピピピッ「…ッ!」 耳元でスマホのアラームが鳴り響いたことで、須藤梓沙は夢から目覚めた。「はっ、はっ…」 自室の天井を見つめたまま、口から乱れた呼吸を繰り返す。手のひらを当てた額には汗をかいていた。(嫌な夢だ…) 夢でありながらリアルな痛みを思い出し、梓沙は青ざめた顔のまま、スマホのアラームを何とか止めるが、身体を丸めて横になったまますぐにベッドからは抜け出せ
2024年4月24日 21:19
【あらすじ】東京から高知に引っ越してきた転校生の少年、須藤梓沙は、クラスメイトの叶光一に映画部の撮影の協力を頼まれ、とある廃墟マンションで『ケンちゃん遊び』という降霊術を行う。 それが一つの呪いの始まりであり、そして、梓沙自身が抱えるもう一つの呪いの始まりだった……。 目の前は真っ暗で、状況も何も分からない。そんな自身の体を襲うのは、下腹部の強烈な痛みだ。 硬い台の上に仰向けになって、両足