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『怨名』プロローグ

【あらすじ】
東京から高知に引っ越してきた転校生の少年、須藤梓沙すどうあずさは、クラスメイトの叶光一かのうこういちに映画部の撮影の協力を頼まれ、とある廃墟マンションで『ケンちゃん遊び』という降霊術を行う。 それが一つの呪いの始まりであり、そして、梓沙自身が抱えるもう一つの呪いの始まりだった……。



 目の前は真っ暗で、状況も何も分からない。そんな自身の体を襲うのは、下腹部の強烈な痛みだ。
 硬い台の上に仰向けになって、両足を広げて固定されている。両腕も動かせず、完全に身動きがとれない。この痛みから逃れることができない。

ぼこっ、ぼこっ

 腹の内側が強く蹴られた。
まるでそこから外に出たいというように、生き物が肉壁を何度も何度も蹴ってくる。
ものすごい違和感と、激痛。
悲鳴は声にはならない。
この先に待ち受けることを想像して戦慄く。
想像は、現実になる。

ぼこっ、ぼこっ、

––––グチャッッ…‼︎

 腹の内側の生き物が肉壁を突き破った。
小さな両手で腹の穴を広げるように、ブチブチと腹の肉が引き裂かれる。麻酔にかかったかのように不思議と痛みは感じなくなり、違和感だけが残る。

ずるっ

 誰かの力で、腹の中から生き物は外に取り出された。

––––…ぎゃぁっ……おぎゃぁっ、おぎゃぁっ

 赤ん坊の泣き声がする。
やがて視界が、黒以外の色をぼんやりと写し出す。すぐ真横に立っていた人影がゆらりと揺れた。

「おめでとうございます、須藤さん。元気な女の子ですよ」

 手術着姿の女性が、マスクから見える目元を三日月のようにして笑っている。
女性の不気味な笑顔から視線を移すと、その腕の中に抱かれた赤ん坊は、真っ赤な血に染まったまま産声を上げ続けていた。

おぎゃあっ、おぎゃぁ…

「お名前を、呼んであげてください」

 女性に言われて、無意識に唇が開いた。
うっすらと開いたそこから声を絞り出し、



その赤ん坊の“名前”を、呼ぶ––––


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