見出し画像

寓話【心臓の計量/商人の魂の場合】の話。捜索・行方不明の物語。後(教訓)編。


すみません長いので続きました、前後編です……!(2/2)

前編はこちらからお願いします……!
→『捜索寓話:悪徳商人の身の上話、前編。



捨てる魂あれば食べる怪物あり!です。

恐怖に腰を抜かし泣き出し喚き散らす商人の姿に、心臓に怪物の牙が届く寸前、一柱の神が真実側の皿に黒いパンを乗せました。商人がずっと取り扱う事を拒否し続けていた『安くて黒いコッペパン』です。すると先程まで動く気配すらなかった天秤が釣り合いました、怪物は持ち上がった皿には歯噛みしようとも届きません。


……
…………
………………?( )


為す術もなく目を閉じ、悲鳴を上げていた商人ですが、いつまでも意識は無くならず、そして痛みにも襲われません。……恐る恐る目を開けると眼前には釣り合う天秤、唸る怪物、表情の読めない神々。

ーー『死者の書、免罪符』の代わりに置かれた『黒いパン』、これは神によるの気まぐれの恩情でした。


『……黒いパンを配るのであれば、その間は地上に帰そう。これからは心を入れ換えて、死ぬまで貧しい者達に仕える様に生きよ。』


心臓は立ち消え白いパンと金貨の山も消え、真実の羽と黒いパンは横に立つ女神が回収しました。商人が降り注ぐ厳粛な、それでいて少しだけの笑いを含んだ声に見上げる前に、女神から黒いパンが手渡されます。
正義を。という言葉と共に『安くて黒いコッペパン』を受け取ると、商人の視界が揺らぎました。

そして世界は砂漠の国へーー…


正確には商人の部屋と寝台へ。ここまで来ての夢オチを懸念する中、物語は進みます。
吐き気と目眩頭痛、何に酔ったのかは二択ですが、三択目にはきっといつも酔っていました。胸の痛む不快感と共に目を覚ました商人が見たものは、細長い匙を目と鼻の先に構えた医者とその横に立つ自分の使用人、そして豪奢な調度品達の悉く消え失せた自分の部屋でした。

「ーー!!!?!」
「!!!」

死亡を確認したはずの商人が目を開けた事により、医者は驚きの表情を浮かべ、死後の処理を始める手を止めました。痩せている使用人は涙を浮かべ表情を崩し、どちらとも分からない感涙に咽び哭きました。

「奇跡……死者が蘇る奇跡だ……!」
「どうして……!何故ですか!っ神よ……!!!」

医者は復活を讃え商人の肩を叩き、使用人は膝から崩れ落ち拳を握り、床に伏せて零します。


「…………奇跡だ……」


広くなった部屋の寝台で呆然と呟く商人の手には、上掛けに代わり此処には有り得ないはずの『安くて黒いコッペパン』が握られていました。
そしてその『黒いパン』は、溢れる感動に湧き上がる涙を拭おうと商人が無意識に手を動かした時、使用人の眼前に落ちました。『白いパン』とは似ていても、少し硬い音が響きます。顔を上げたのは使用人で、顔を強張らせたのが商人です、医者は疑問符を浮かべるに留まりました。

商人の頭の中を夢かと思われた審判の光景が駆け抜けます。走馬灯の如くに一瞬で終わる回想と共に思い出される死と消滅の恐怖、そして条件付きの再生を告げる神の声ーー…

「ーーッ!!!( ) 」

次の瞬間、商人は寝台から跳ね起き飛び降り、そして床に跪きました。ーー『黒いパンを配るのであれば、その間は地上に帰そう。これからは心を入れ換えて、死ぬまで貧しい者達に仕える様に生きよ。』冥主の勅命です。
一介の商人に起きた復活、それでも心臓は痛みます。しかし神々の気まぐれの奇跡を無に帰すのは、損得勘定をする商人でなくとも有り得ません。
『黒いパンを配り、心を入れ換えて、生きる。』
我が身の奇跡に商人は、決意せずとも悪徳を濯ぎ更生する気持ちになりました。今までを後悔すると共に、告げるべき言葉があります。

ーー床に転がる黒パンを拾い、跪き直して視線を合わせ、まずは散々扱き使っていた薄給の使用人に。


「すまなかった……!」

「…………は、い……?」


天変地異……晴天の霹靂。使用人が衝撃に呆然とする中、商人は零す様に話し始めました。
本当なら昨晩の内に死んでいた事、夢と思われた冥界の事、金貨を積んでも魂は救われない事。濁り果てた心臓の事と、今も胸が痛い事。誰でもが買えるパンを配り、これからは心を入れ換えて生きる事。貧富で差別をしない事。

「……この『黒いパン』は私の『復活の書』だ。私は今までを改めて生き直す。財の高さがすべてではない、余計なものはすべてこのパンに変えて配り、誰もが飢えない様にする。その為に商売を続けたい。」
「私の商売の役目は金貨を積む事ではなく、『黒いパン』を広めて飢餓を無くす事だ……きっとその為の販路でその為の財で、私はその為に地上に帰された。」

まずは最も近い使用人に受け取ってほしい。と、商人は冥界産の『黒いパン』を両手で使用人に差し出しました。

……天気とは読めないものですが、転機もいつ訪れるか分からないものです。商人の口調には嘲りや嘘を騙る風はなく、言葉にも態度にも、本当に心を入れ換えた様子が窺えました。ーー使用人から見てそうなのです、悪徳商人の評判と蛮行を知っていた医者は、繰り広げられる慈愛に満ちたやり取りに思わず目頭を押さえ空を仰ぎます。
使用人は涙を零しながらも『黒いパン』を受け取り、晴れやかな笑顔を見せました。

ーー調度品や宝飾品が無くとも、世界はこんなにも美しい†††


運び出された調度品はそのまま売り払い、金貨の山も黒いパンに変え、その後も言葉の通りに商人は黒いパンを配りながら商売を続けます。
初めは『悪徳商人が胡散臭い!』と、批難とそしりを受けながら、それでも白いパンを望む者には白いパンを売り、黒いパンも買えない者には黒いパンを配りました。全員に配れる様にと商売の裾野を広げ、黒いパンを買えない者を正当な対価で雇いながら心を入れ換えて商売を続ける内、過去は消えないものの汚名を濯ぎ精算し、徐々に信頼を築いていきました。
商売は個人から商隊へ、商隊から商団へと規模も大きく成長しました。(ホワイト企業の未来はきっと明るいです、そうでないと困ります。もっと増えてくれ……!)

今はもう街を歩けば商人の周囲には笑顔で話しかけてくる人々の輪があります、それを見守る使用人も笑顔です。商人は憑き物の落ちたかの様な、以前からは想像も出来ない穏やかな笑顔で『黒いパン』を配り歩いていました。
気が付けばいつの日からか、商人の胸は痛みに襲われる事もなくなっていました。


……そうして『悪徳商人』改め『善良な商団主』は、本来の寿命で亡くなるまで『黒いパン』を配り続け、最期は人々に惜しまれながら召されましたとさ。おしまい。 


「…………概要覚えてるなら探す必要なくね?( ) 」
「いや。原典で読み直しておきたいから探しているのだが……( ) 」

とある田舎の居間にて。


何処かで元の話を見掛けたら、何卒、なにとぞよろしくお願いします。教えてください……!( )

ーーこの物語はフィクションで二次創作です。版権と著作権を懸念しています。ので、原典判明か著作権等お持ちの作者様の判明でこのnoteは消す予定です……!自分では見付けられませんでした……( )


「……にしても絶対こんなクソ面倒な文じゃねぇだろ ……( )」
「おっまえ俺の性格と言い回し把握してるだろうが……作り話前提で聞くなら面白い方が良くないか???」
「はいはいまあね……( )  」

「……取り敢えず縦書きで文字がでかいのと、白黒の挿絵で『両手でコッペパン持って朗らかに笑うターバン巻いたおっさん』が載ってた記憶はある、だから多分昔話系の本。(ドン★)」

「ーーっまずそれを言えよ!!!」

とある田舎の居間にて。

めでたしめでたし……?( )


そういえば今回の捜索時、余計な興味関心に脱線して調べたのですが、エジプト神話の死後の世界は『葦の原』という名前らしいです。そして日本は『豊葦原(の瑞穂の国)』で、どちらの国も信仰は以下略。はい。一言だけ感想置かせてください。

ーー『遊☆戯☆王』……ッ!!!( )



前後編とも画像お借りしました、共有ありがとうございます。需要ドンピシャの供給で使いやすく、とても助かりました!ありがとうございます……!

前編と他の小話を『#ノベルる手帳』のタグに纏めています。こちらもお読みいただけると嬉しいです。よろしければ……!


よろしければサポートをお願いいたします。 頂戴したサポートはnote内循環通貨と活動費(お茶代等)に充填予定です。