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あたしを所有しないでね
「養ってあげる」と、ある人から言われたことがある。
その人が冗談とも本気ともつかない表情だったので、あたしは束の間困惑した。
そう言った彼は、恋人ではない。かと言って友達でもないので、あたしたちはやや複雑な関係性なのだ。
彼とは、共通の知人を通して知り合った。素晴らしく頭の切れる男性で、仕事仲間の間でも実力者としてよく知られている。
そんな彼はどういうわけかあたしを気に入ってくれていて、
ただの偶然であって運命ではなかった話
それを見つけた時、「あ」と声が出た。
もうずいぶん前の話だ。あたしがまだ今のパートナーと出会っていなかった頃の話。あたしはその頃、肌が浅黒い背の高い男の子と恋をしていた。
それは彼の部屋の本棚の中にあった。サキというイギリス人の作家の短編集だった。サキという作家がどれぐらい人に知られているのか、不勉強なあたしには検討がつかないけれど、どこでも見かけるような本でないことは確かだった。
「