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本とZINE・春から編集のお仕事 恋愛と病について物語を書いています Instagram:@ammesometime

マガジン

  • 恋愛エッセイ『ダーリンとあたし』

    このマガジンでは難病とADHDをもつあたしと、おじさんみたいだけど可愛いダーリンの日々のお話をまとめました。こんな恋もあるんだな、と楽しんでいただければ。

  • amme のここ一番

    amme の人気記事をまとめました。

  • 創作小説『つぼみのままの白百合』

    不定期で更新している、成人向け小説『つぼみのままの白百合』をまとめたマガジンです。 ※この小説には性的な表現が含まれます。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。

  • 創作小説『狗たちの一生』

    約1万文字の創作短編小説。2022年、ある文学賞に応募するために書いたものです。

  • 0101 ショート・ショートプロジェクト

    2024年に起きた能登半島地震に際してスタートしたプロジェクトです。能登半島の一日も早い復興を願いながら、101話を目指してショート・ショートのストーリーを書き続けます。 note を通してサポートいただいた金額は、すべて「令和6年能登半島地震災害義援金」に寄付させていただきます。能登半島に祈りを込めて。

最近の記事

あたしは三毛猫ちゃん

 あたしの恋人は、あたしのことを時々「ねこちゃん」と呼ぶ。  「よしよし、可愛いねこちゃんね」「ねこちゃん、こっちにおいで」  それは、たいていあたしを甘やかすときだ。あたしは、迷わず「にゃあ」と答えて彼の腕の中にすっぽりと収まる。 「あたしをたとえるとしたら何だろう?」 あたしはその時、今春会社に提出する自己紹介用のテキストを書いていて、恋人にそう尋ねてみた。 「猫かなぁ」 恋人は即答した。 「猫みたいな人、というか」 「ふぅん」 猫みたいな人。それは何だか良い面と悪い

    • あたしの恋人とあたしをめぐる男たち

       どういうわけか、異性の知り合いの数は多い。あたしが長らく在籍した大学院という場所は、今なお男性ばかりの世界だから、こればかりは仕方がない。  恋人は、研究をきっかけにして知り合ったが、研究者ではない。このことにあたしは、毎回心底安堵する。研究者たちはみんな一癖も二癖もある人ばかりで、とにかく油断ならない。恋人は頭がいいけれど、実利的な考え方を好む。研究者にはならないタイプの人間だから、信頼できるのだ。  恋人に出会って数年経つ。あたしは、1センチの疑いの余地もなく幸福だ

      • 【創作小説】つぼみのままの白百合09

        ↓ 08話はこちらです ↓  翌日の午後、麻里亜は再び江村家を訪れた。 「ごめんください」 玄関で呼びかけると、今日は中から「あがってください」と返事があった。どこから声が返ってきたのかと訝しんでいると、音を立てて二階の窓があいた。今ではもはや見かけない繊細な模様が入った重厚なガラス窓だ。 「いらっしゃい」 軽やかな声がして、静が顔をのぞかせている。梢が影を落としているせいか、心持ち顔色が冴えない。 麻里亜が台所で身支度をしていると、静が階下に降りてきた。 「悪いんだけど

        • 小さな奇跡を積み重ねる日々

           恋人は、きっと気付いていない。あたしたちがしょっちゅう「シンクロ」していることに。  恋人の思考とあたしの思考は、深層心理のクラウドの中でたぶん同期されている。 「そういえば、昨日はどうだったの?」と恋人から連絡がきたのは、今日の夜だった。昨日、あたしは仕事仲間たちが集まるパーティーに参加していて、よくあたしたちの話題に登場する女の子とのツーショットを恋人に送った。  しかし、そのころ(おそらく)睡魔に襲われていたのであろう恋人は、短い返事を寄こしたのみで、そのまま眠って

        あたしは三毛猫ちゃん

        マガジン

        • 恋愛エッセイ『ダーリンとあたし』
          12本
        • amme のここ一番
          3本
        • 創作小説『つぼみのままの白百合』
          10本
        • 創作小説『狗たちの一生』
          2本
        • 0101 ショート・ショートプロジェクト
          4本
        • 恋愛エッセイ『過ぎ去ったいくつもの夜』
          5本

        記事

          【創作ショート・ショート04】いつか始まる長い恋の予言

           土曜日の午後は川べりに座って、スケッチブックを開く。14:00ごろには、公園をジョギングしている男の子とすれ違う。たぶん同い年くらい。あまりにも毎週顔を合わせるので、何となくお互い会釈する。  そして15:00を少しすぎたところで、「小さな世界」のメロディーとともにアイスクリーム屋さんがやってくる。アイスを食べるときもあるが、たいてい私は川べりに座ったまま絵を描くことに熱中している。  都内から電車で30分ほど離れた場所にあるこの川の水面には、驚くほど様々な生き物がやって

          【創作ショート・ショート04】いつか始まる長い恋の予言

          読みたいメモ:川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

          読みたいメモ:川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

          【創作小説】狗たちの一生(後編)

           とはいえ、ここへ来るのにずいぶんと勇気がいった。ようやく息子が通う高校にたどり着いたというのに、私は当の息子を見つけられずにいた。  待ち合わせ時間が迫ってきて、私はいっこうに落ち着かず弱気に笑ってみせたり校舎の方をうかがったりしていたが、上手いとは言いがたい管楽器の音色が流れてくるばかりで、息子らしい少年は現れない。  無理もなかった。私はこの十五年間、一度も息子に会ったことはない。蓉子と臨に関わらないことは唯一の離婚の条件で、むろん私は経済的な援助を申し出たが、それは

          【創作小説】狗たちの一生(後編)

          【創作小説】狗たちの一生(前編)

           受話器を取った瞬間、向こう側に別れた妻がいるのだと分かった。だから私は言った。 「蓉子なのか?」  彼女は一瞬沈黙し、そして自嘲気味に小さく笑った。 「そうよ、私。あなた、相変わらず鋭いのね。鼻がよく利くというか、何というか」 「鼻は君らと変わらないじゃないか」  とっさに答えてしまってから、私は口をつぐんだ。彼女が苛立っているのが分かった。そうよ、あなたはいつも何かに怯えて身構えているせいで、冗談の一つも理解する余裕がないのよ、と。  私たちは十五年前に別れたきり一度も

          【創作小説】狗たちの一生(前編)

          【創作小説】つぼみのままの白百合08

          ↓ 07話はこちらです ↓  麻里亜と静の間に沈黙が訪れた。官能小説というものを麻里亜も知らないわけではない。それでも、目の前にいる静という一人の男性――それも自分といとこちがいの男――と性愛のイメージがあまりにも結び付かない。麻里亜の反応をみて、静はどこか慌てた様子で「あの」と言葉を継いだ。 「驚くよね、官能小説なんて。申し訳ない、忘れて」 静の言葉に、麻里亜はふと我にかえった。 「あ……ごめんなさい。たしかに少しだけ……驚いたものだから」 でも、と麻里亜は言葉を続けた

          【創作小説】つぼみのままの白百合08

          あたしを所有しないでね

          「養ってあげる」と、ある人から言われたことがある。  その人が冗談とも本気ともつかない表情だったので、あたしは束の間困惑した。  そう言った彼は、恋人ではない。かと言って友達でもないので、あたしたちはやや複雑な関係性なのだ。  彼とは、共通の知人を通して知り合った。素晴らしく頭の切れる男性で、仕事仲間の間でも実力者としてよく知られている。  そんな彼はどういうわけかあたしを気に入ってくれていて、たびたび好意をほのめかす。あたしは恋人の存在を説明して断交を宣言したが、彼はどこ

          あたしを所有しないでね

          「似たもの同士」になっていくけれど

           友人へのプレゼントを買いに、あたしは町の本屋さんに向かった。お目当ては、題名は伏せておくが、タイトルからしてノアールな雰囲気が漂う小説だった。  「ゴシック小説でね、ずっと読みたい本だったのよ」友人はすでにずいぶんとその本の虜だった。「とんでもなく天才的な書き手でね、大きな文芸賞を射止めた、それはもう伝説的な著作なの」そう力説する。友人の話では、ナチやら古城やら、人体実験やらが登場する話らしい。  生返事を返しながら、あたしは何だか薄気味悪くて陰気な小説だな、と思うのだっ

          「似たもの同士」になっていくけれど

          そばにいるのに、いない人

           あたしは安らいで、恋人の体にもたれる。恋人の体は頑丈で大きく、あたしがもたれかかったところで、びくともしない。彼はTVから目を離さずに器用に缶ビールを持ち替えて、片手であたしの体をなでる。額やら、胸やら、唇やら、顎やら。あたしは目を閉じて恋人の体温と匂いを感じながら、あたしたちが今ともに生きていることを確信する。  ともにいる時間を幸福に感じることが、そもそも幸福なのだ、とあたしは知っている。一緒にいればいるほど、孤独が深まっていく人もまた、他方で存在しているということ。

          そばにいるのに、いない人

          【創作ショート・ショート03】アヴィ

          「うちの猫が危篤だから、あなたと別れようと思うの」 電話口でそう告げると、恋人は絶句した。ややあって、彼はこの上もなく慎重な声で答えた。 「今、なんて言った?」 「だからね、アヴィが死ぬかもしれないから、あなたとは別れる」 「どういう意味?」 私は、たった今雨が上がった中央大通りを急ぎ足で横切る。動物病院に向かっている最中だった。アヴィの容態が急変したとオフィスに電話があって、バタバタと帰り支度をしている間、私の体は絶望に浸かっていた。雨上がりの通りは、まだ10月の頭だという

          【創作ショート・ショート03】アヴィ

          【創作ショート・ショート02】猫が来る日

           その猫が来るのは、きまって晴れた日の午前7時半ごろだった。その猫は、白と黒のまだら模様をした大きい体をしていて、ちょうど牛のように見える。牛のような猫は、僕の自宅の窓から見える位置――となりの家の屋根のはしの方――で丸くなり、日が高くのぼるまでの時間そこで過ごしていた。  猫がどこから来て、どこへ帰るのかは、全く分からなかった。  不思議なことに、猫の来る日はたいてい晴れになるのだった。天気予報で晴れ時々雨と報じられていても、猫の来る日は好天気が続いた。 「猫って天気が分

          【創作ショート・ショート02】猫が来る日

          【創作ショート・ショート01】時計屋の古い暗号

           ここから北に30キロほど先にある町は、かつて大きな銀行が林立する金融街だったんだ。今から60年は前の話か。もうすっかり忘れ去られた町になってしまったが、裕福な銀行屋が行くような豪華なレストランや宝飾店が当時はいくつも並んでいた。  昔その町で、時計屋をやっていた建物がある。重厚な石でできた4階建てのビルだ。ビルの壁面に使われた黄色に近い色合いの石は、わざわざ西の海岸から取り寄せたものだと聞いている。それだけ羽振りのいい時代があったということだ。  そのビルが今では小さな

          【創作ショート・ショート01】時計屋の古い暗号

          一年のはじまりに祈りをこめて

           2024年1月1日午後4時すぎに発生した能登半島地震で、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。  現地にて救助・救援活動に取り組まれている方々を含め、被災地域の皆様のご安全と、一刻も早い復旧をお祈りしております。  何かできることはないだろうかと考えてみたものの、あたしにできることはほとんどなく、せいぜい微々たる額の義援金を寄付することぐらいでした。  能登半島は近いようで遠く、苦悩のさなかではありますが、この note の中でこれから新しい物語を書きたいと思いま

          一年のはじまりに祈りをこめて