見出し画像

特発性正常圧水頭症(iNPH)。「手術で改善できる認知症」。主な3つの症状とは?

こんにちは、翼祈(たすき)です。
まずは、この記事の本題である、「特発性正常圧水頭症(とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう)」について、説明をしたいと思います。

「特発性正常圧水頭症」(iNPH)とは、頭蓋内に脳脊髄液(のうせきずいえき)が何らかの原因で蓄積し、脳が圧迫され、歩行障害・尿失禁・認知症などの主な3つの症状が出現する病気で、「治療(手術)で改善できる認知症」としても医学界から注目を集めています。

また、“idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus”の頭文字を取ってiNPH(アイエヌピーエイチ)とも呼ばれています。

歩行障害・尿失禁・認知症などの症状は、脳血管性認知症やパーキンソン病、アルツハイマー病などで見受けられますが、数%の割合で、「特発性正常圧水頭症」(iNPH)という病気が含まれています。この「特発性正常圧水頭症」は適切な診断ができると、髄液シャント術という手術で症状の改善が確認できると想定されています。

「特発性正常圧水頭症」は60歳代以上に好発し、50人に1人以上に発症するとされていて、男女差はありません。

「特発性正常圧水頭症」の患者さんは全国に日本の高齢者人口の1.1%(およそ37万人)いると推定されていますが、その特徴が加齢に伴った症状に類似することから、「歳のせいだから」と見落とされ、「特発性正常圧水頭症」の治療を受ける患者さんは全体の1割にも満たない現実があります。

今回は、「特発性正常圧水頭症」(iNPH)の主な症状、診断基準、治療法などを特集します。

▽症状

画像引用・参考:高齢者の水頭症 iNPH.jp

「特発性正常圧水頭症」を発症しているサインは、歩行障害・尿失禁・認知症の3つ(3徴候)です。特に歩行障害が最も多く出現する症状で、最初に現れることが多く、認知症の発症で出現する、それ以外の病気と区別するポイントにも焦点となります。

歩行障害に加えて、認知症や尿失禁の症状が重なって出現した時には「特発性正常圧水頭症」の恐れが大いに高まります。

歩行障害・尿失禁・認知症の3つの症状は、パーキンソン病やアルツハイマー病でも見受けられる症状なので、診断を受けずに「特発性正常圧水頭症」(iNPH)を見逃されているケースがあります。


他、
嘔吐、頭痛 など

▽主な症状・歩行障害

画像引用・参考:水頭症外来 医療法人 新松田会 愛宕病院

すり足になる、膝を上げにくい、歩幅が小刻みになるなど、歩行が不安定になります。また、膝が外に開いたガニ股の様な状態で歩くことも大きな特徴とも言えます。特にUターンしたり曲がったりする時に強くよろめき、転倒する場合があります。

障害が強くなると、起立の状態を保持できずに、一歩目が出せずに歩くことが始められなくなります。歩行障害が初期症状として出現するケースが多いとされて言われていて、3徴候の中で、治療で最も改善が得ることができる症状でもあります。

初期には、バランスが悪くなってふらつく様な歩き方だったり、歩くのが遅くなったということで見つかる場合もあります。

パーキンソン病の歩行とやや類似していますが、手拍子の様な外的刺激を与えても歩行の改善は確認できません。また、パーキンソン病の歩行と異なり、足を開いて歩くのも特徴の1つと想定されています。

・開脚歩行(足が少し開き気味で歩く動作)
・小刻み歩行(小股でよちよち歩く動作)
・不安定な歩行(特に方向転換する時)
・すり足歩行(足が上に上がらない状況)
・歩き出せない(第一歩が出ない)
・転倒する
・突進現象(上手に立ち止まることができない)

▽尿失禁

トイレが凄く短くなったり、トイレを我慢できる時間が短くなります。歩行障害もあることから間に合わなくて失禁してしまうケースもあります。

特徴では、切迫性尿失禁や尿意切迫感、頻尿といった過活動膀胱の症状を確認できます。

・尿失禁
・尿意切迫感(トイレを我慢できる時間が凄く近くなります)
・頻尿(トイレに行く感覚が凄く短くなります)

▽認知症

自発性がなくて、行動面や思考面での緩慢さが特に目立っていきます。一日中、ボーッとして過ごし、日課としていた散歩や趣味などをしなくなるといったことが発生し、物事への興味や集中力を失い、物忘れも次第に強くなります。

初期には軽い物忘れから始まり、少しずつ認知症の症状に進行し、場所や時間が分からなくなるケースがあります。

また、反応や表情が鈍くなったり、気分の落ち込みが出現するケースもあります。

高齢者ではアルツハイマー病みたいな、人物誤認や人格の変化といった高度の認知症ではなく、注意力の低下や物忘れといった軽度の認知症の場合が多いと想定されています。

・自発性・意欲、集中力が低下(趣味や散歩などをしなくなる、呼びかけに対して反応がしなくなる、一日中ボーッとして過ごしている)
・物忘れする傾向が徐々に強くなる

▽セルフチェック

・少しガニ股で不安定な歩き方をする。
・足が上げにくく、少しずつ小刻みに歩く。
・歩く時に、第一歩が出なかったり、床に張り付いた様な足取りをしている。
・歩くことができない。または、立ち上がると不安定な体勢にある。
・不意に転んでしまったり、つまづきやすくなったりする。方向転換する時にふらついてしまう。
・最近、トイレがとても近い。
・尿を漏らしてしまうケースが多くなった。
・トイレを我慢できる時間が凄く近くなった。
・最近、物事を覚えにくい。
・表情が乏しい。
・集中力、注意力を維持していくことが難しくなった。
・怒りっぽくなった。
・日課とする趣味や習慣としていることなどを行わず、ボーッと過ごしてしまう。

▽原因

画像引用・参考:特発性正常圧水頭症センター 社会福祉法人康和会 久我山病院

正常圧水頭症の中で、およそ40%を占めるのが、原因は特定できないに関係なく脳室の拡大が確認できる「特発性正常圧水頭症」(iNPH)です。

主な症状は、原因不明な上に、高齢者によく見受けられる症状が多いことから、見落とされる場合も少なくありません。

パーキンソン病や認知症と思われている患者さんの中で、この「特発性正常圧水頭症」(iNPH)の病態であるにも関わらず正確に診断されずに別の疾患だと言われています。

▽診断基準

水頭症は脳実質の中にある貯水池の様な脳室が拡大している時に疑われます。専門科を受診した後も再度、検査、診察を実施します。画像検査では頭部CT頭部MRIを活用して脳室の拡大所見を評価します。

また、MRIでもCTでも脳室拡大のあることが「特発性正常圧水頭症」(iNPH)を疑う前提条件になります。元々、脳全体の萎縮があっても脳室拡大は見受けられるので、疾患の区別は困難だと考えられてきました。

アルツハイマー型認知症も脳萎縮により脳室が拡大している様に見受けられますが、「特発性正常圧水頭症」(iNPH)では高位円蓋部・正中部と呼ばれる部位の脳溝(頭頂部の脳の溝)が狭くなっている点がアルツハイマー型認知症と違います。

また、脳血流SPECT検査を実施し、「特発性正常圧水頭症」(iNPH)でみられる所見があるか無いか、それ以外の認知症性疾患を疑う所見はないかどうかを確認する場合もあります。

近年の研究成果では、脳室拡大に加えて、高位円蓋部(頭頂部)に髄液腔の縮小があり、そのこととは対照的に脳底部の髄液腔が拡大しているのが特徴だと想定されています。この所見を確認するにはMRIが有効的な診断基準です。

画像と症状の所見から「特発性正常圧水頭症」(iNPH)が疑わしければ、次の髄液タップ・テストを実施します。

これまでの診察や検査で「特発性正常圧水頭症」(iNPH)が疑われる場合には、入院して髄液タップ・テストと呼ばれる検査を実施します。

①診断に有用な髄液タップ・テストとはどんな検査ですか?

画像引用・参考:認知症の原因となる正常圧水頭症 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(2024年)

髄液タップ・テストとは少し太い針を腰から刺し入れ、髄液をおよそ30ml排除し、その後の症状、特に歩行の変化を確認する検査です。この検査は病室で30分程度で行う処置で、局所麻酔も使用することから痛みも少なく行えます。

「特発性正常圧水頭症」では歩行は数日以内に改善しますが、その効果は一時的で、次第に元に戻ります。一時的にせよ明確な症状の改善が分かれば、髄液をよく流す手術で、「特発性正常圧水頭症」の症状の改善に期待が持てます。この髄液タップ・テスト検査で症状が改善しなくても手術が有効な時もあります。

②髄液タップ・テスト以外にもよい検査法はありますか?

髄液タップ・テスト以外に有用な検査法として、髄液圧持続測定、髄液持続排除、髄液吸収抵抗値測定といった検査法があります。

持続髄液圧測定はシリコン管を腰から挿入して髄液圧を測ります。

髄液持続排除は腰からシリコン管を刺し入れて髄液を持続的に滴下させます。1日に150ー200mlを数日間排除して、その後に「特発性正常圧水頭症」の症状が改善したか否かを確認する検査法です。

▽治療法

画像引用・参考:特発性正常圧水頭症(とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう) 順天堂東京江東 高齢者医療センター(2023年)

治療法は、現時点では手術治療のみ行われています。手術は脳室内に蓄積した髄液を人工のシリコン管を通して他の部位に導き、髄液の吸収を手助けする髄液シャント術を実施します。1番多く行われている手術は髄液をお腹の方に導く脳室腹腔シャント術で、脳神経外科では数多く実施される手術の1つだと言えます。

「シャント(shunt)」とは透析でも使われる言葉です。液体を違う通路に流すという意味を持ちます。

このシリコン管の途中には圧調節バルブを設置しています。最近ではこの圧調節バルブは体外から設定圧を変化させる(圧可変式)ことが可能となっていて、微妙な圧調節が必要な「特発性正常圧水頭症」では圧可変式バルブの使用が望ましいと考えられています。髄液シャント術には脳室腹腔シャント術以外にも脳室心房シャント術、脳室腰部くも膜下腔シャント術なども実施されます。

全身麻酔で1〜1.5時間です。入院期間は2週間程度の予定です。

早期に効果が確認できるのは歩行障害で、およそ80%以上で有効と言われています。尿失禁もおよそ50%で有効と言われています。注意力低下、物忘れなどの認知症症状の改善は少し遅く、1年後で30-50%に有効と言われています。

参考サイト

特発性正常圧水頭症 公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院

特発性正常圧水頭症(iNPH) 東京逓信病院

特発性正常圧水頭症について 浜松医療センター

水頭症について 済生会滋賀県病院 水頭症センター 

この記事を書いたきっかけ

重要なのは患者さんや周囲の人たちが「『特発性正常圧水頭症』(iNPH)の症状の変化に気が付くこと」です。「特発性正常圧水頭症」はすぐに患者さんの生命に関わる病気ではありませんが、転倒しての骨折で「寝たきり」になってしまったり、尿失禁や認知症など、患者さん本人のツラさだけでなく、支援する周りの人たちの負担をさらに大きく増やしてしまう恐れがあります。

「特発性正常圧水頭症」は、早期発見・適切なタイミングで治療を実施することで、手術を遅らせた場合よりも症状の改善度合いが向上することが、臨床試験(治験)の結果で報告されています。早期に「特発性正常圧水頭症」(iNPH)を発見し、適切な治療を実施することが重要だといえます。思い当たる症状があれば、脳神経内科・脳神経外科を受診することが推奨されます。

この記事を書いたきっかけは、AKARIのSNSがフォローしているアカウントから、この情報を観たからでした。そのことで、「認知症とは違うけど、似ている『特発性正常圧水頭症』という病気があるんだ‼︎」と、驚いたからでした。

私の父は最近認知症っぽい症状があります。桁を間違えて、物の金額を覚えていたり、銀行の通帳がどこ行ったか分からないとか言って、探したり。

以前行ってた場所に、興味がなくなって、父は母を連れて行く場所も限りなく減ってしまったり。

今でも父は夜中2時に寝て、14時前まで寝ているのも悪いのですが。

この間母が、「実家に墓参りに行きたい」と言ったら、父は「15時に家を出よう」と、相変わらず寝てから行こうとしていて、母が父を怒っていました。

歩行困難もありますが、もしかしたら、父はこの「特発性正常圧水頭症」の可能性もあるのかもしれない?、と書いて、そう感じた記事となりました。

この記事に書いた通り、通常の認知症と見分けがつきにくいところがあります。この記事が病院受診を促すきっかけになれば良いなと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?