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Essay

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#翻訳

ZINEフェス吉祥寺で出会ったひとたち、なぜひとり出版社をやるか

ZINEフェス吉祥寺で出会ったひとたち、なぜひとり出版社をやるか

土曜日は、雨雲出版の何度目かのイベント出店だった。
武蔵野公会堂で開催されたZINEフェス吉祥寺は、大勢の出展者と来場者でにぎわっていた。

イベント出店のたびに多くの方と交わす会話が、雨雲出版にとってもわたし自身にとっても貴重だなぁと毎回感じている。

それぞれ、アフリカに関する思いだったり、雨雲出版のキーワードで思い起こされるご自身のことだったり。そんな言葉を交わす中で、様々なひとの人生にほん

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重なり合う「プロ」と「アマ」の世界~京都のシェア型書店

重なり合う「プロ」と「アマ」の世界~京都のシェア型書店

今年の祇園祭のころ訪れた京都で、いくつかの書店に足を運んでみた。

旅先でわりと訪れるお決まりの場所といえば図書館だったのだが、ひとり出版レーベルの雨雲出版を始めた昨年からは、あらためて小規模な書店を巡ってみたくなったのだ。

パートナーが関わっている仕事についていく短い滞在だったのもあり、ひとりでの自由時間は限られていたが、その中でチャンスを見つけて電車やバスを乗り継いで気になるお店に行った。

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ベーカリーカフェで声をかけたそのひとは、人生で必要なひとだった

ベーカリーカフェで声をかけたそのひとは、人生で必要なひとだった

もう二年近く前、お気に入りのベーカリーカフェで知らないひとに声をかけた。
その女性は、ステッカーで飾られたマックブックを広げていて、傍らには分厚い学術書らしき本が置かれていた。

アフリカンルーツを思わせる見た目に、ドレッドをきれいにまとめたお洒落なヘアスタイル。その知的なオーラと雰囲気になんだか話しかけたくなってしまい、あなたのバッグかわいいですねと声をかけてしまったのだ。アフリカンプリントのバ

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鎌倉ハイキングでじん帯を損傷したら迷いが消え失せたかもしれない

鎌倉ハイキングでじん帯を損傷したら迷いが消え失せたかもしれない

二週間以上も前なのだが、鎌倉へひとりハイキングに行ったときに足を怪我してしまった。

旅に出たくて仕方がない気持ちが強すぎるのに、現在取り組んでいる小説の翻訳出版に向けた原稿で忙しく家を離れられない。
パスポートをつかんで空港から飛行機に飛び乗らんばかりの勢いだった自分をとりあえず落ち着かせようと、曇り空の平日の朝、鎌倉のハイキングコースを歩くことに決めたのだ。
東京の外に出て、緑の中にいれば気持

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人と会い深まる気づきと広がる世界~ZINEフェス浅草(雨雲出版)

人と会い深まる気づきと広がる世界~ZINEフェス浅草(雨雲出版)

昨日6月23日は、ZINEの大きなイベントZINEフェス浅草に参加した。
雨雲出版としては4度目のイベント出店となる。

あいにく、10日ほど前にハイキング中に足を怪我し、整形外科に行ったらじん帯を損傷していると言われ、安静にする必要があったためずっと自宅に引きこもっていたから、けがして以来の外出となった。

足の痛みが不安だったため、いつも大変にお世話になっている方に恐縮ながらお手伝いを頼んだ。

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[ベッシー・ヘッド] 出版するための翻訳作業は孤独だがようやく次の段階へ

[ベッシー・ヘッド] 出版するための翻訳作業は孤独だがようやく次の段階へ

南アフリカ生まれでボツワナに亡命した作家ベッシー・ヘッドというひとを知ってから四半世紀以上。

彼女の長編小説の一冊を日本語に翻訳して出版したいと具体的に考え始めたのは、それから少し後だったかもしれない。2004年には、ある翻訳スクールで文芸翻訳基礎コースを受けているのだから、少なくとも足掛け20年は経っている。

何度も数えきれないくらい翻訳をやり直し、自分でも信じられないほど人生の時間と労力を

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辰年が来たということは

辰年が来たということは

昨年末から、いつもの喫茶店や雑貨店などでちらほら見かけるようになった。
2024年の干支、辰のモチーフを。
そして、はっと気づいた。そうわたしは辰年生まれなのだ。
つまり、年末にはいよいよ作家ベッシー・ヘッドが亡くなった年齢に追いつくということだ。
(作家ベッシー・ヘッドについてはこちらを参照してほしい)

G.S.アイラーセンが執筆したベッシー・ヘッドの伝記によると、彼女が小説を最初に書いたのは

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生きている限り心に寄り添う本と出会って、ジンバブエへ行った『ゼンゼレへの手紙』

生きている限り心に寄り添う本と出会って、ジンバブエへ行った『ゼンゼレへの手紙』

心の奥深くにいつもひっそりと生きている本がある。
何度でも読み返し、そっとカバンに忍ばせ、ふとした瞬間にその本の言葉を思い出す。
長い年月のあいだ、ずっと一緒に生きているような本。
わたしにとってその一冊とは間違いなくJ.ノジポ・マライレ氏著の『ゼンゼレへの手紙』だろう。(ベッシー・ヘッド作品とは別だ)

最近、もう何度も読んでいるのだけれど、またこの本を味わいつつ丁寧に読み返していた。

『ゼン

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翻訳スクールに通っていた記憶は消えかけていた

翻訳スクールに通っていた記憶は消えかけていた

両親の家のクローゼットにある自分の資料や荷物を整理していると、見覚えのないファイルがあった。
半透明のグリーンのファイルの表紙から、「修了証書」の文字が見える。

まるで記憶になかったが、それは2004年に受けた某翻訳スクールの「文芸翻訳基礎コース」のものだった。そんなことすっかり忘れてしまっていることに驚いた。
自分は、大学生の頃に出会った作家ベッシー・ヘッドのある長編小説をどうしても自分で翻訳

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翻訳原稿をお友だちに読んでもらった

翻訳原稿をお友だちに読んでもらった

今まで、ずっと大人ぶって黙ってきたことだけれど、わたしは多分淋しかったのだなと最近すなおに認めることにしている。
ベッシー・ヘッド作品を日本語で読んで一緒に感動してくれるひとがいなかったことだ。
どれほど応援してくれるひとがいても、原文をわざわざ読んでくれる日本のお友だちはいなかったから、ベッシー作品のすばらしさを知っていて応援してくれているわけではない。ほぼ全員が、肝心の小説そのものの中身を知ら

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