死ぬことすらできない辛さ 13 〜退院当日 前編〜

進行方向と逆向きだと酔う人いますよね。
平坦な線路上でも気持ち悪くなるのに、坂や凸凹道で上下運動も加わったら拷問に近いと思いませんか?

同じことに耐えられる人って居るのかしら。

介護タクシーから降ろされて家の中へ。

やっと帰って来られました。

自室のベッド上に移動し、姿勢を整えてもらう。

あー、やっぱり我が家が一番いいわ・・・。

気持ち悪いのを抑えながらも寛ごうと思ったが、ベッドの周りにうっすらと白っぽい物
が見える。

入院中にあれだけ掃除しているのかと確認し、していると答えていたのにこの埃はなんなの!

介護タクシーの運転手への怒りはいつの間にか夫に向けられた。
ベッド周囲から始まりタンスの上や目につく所を掃除するよう依頼する。

依頼すると言えば聞こえが良いでしょ。

在宅診療をするクリニックとA訪問看護事業所が来訪予定のため、きれいにしておく必要があるでしょ。

すでに契約時に上がったようなので手遅れかも知れないけど。

到着予定時間より早く着いたからどちらもまだ来ないはず。
早くやるようにと夫を急かす。

「 はいはい。これで良いですか? 」

何ともやる気のない夫。
やらされていると思っているのでしょうね。

寛ぐことを忘れてきちんとやっているか監視の目を光らせる。

掃除が終わり寛ごうとした時にチャイムが鳴った。

クリニックとA訪問看護事業所が来たようだ。

「 おじゃまします 」
3人くらいの声が聞こえた。

どうやらみんな男性のようね。

扉を開けて入って来たのはやはり3人の男性だった。
クリニックから医師と看護師。
A訪問看護事業所から看護師。
全員男性だったが私のタイプはクリニックの看護師。
線が細い感じがとても良い。

挨拶されても一度に3人は覚えられないからまた後で名前を聞かなきゃね。

何をするのかと思っていたら、医師が話しかけて来た。

病院から紹介状をもらい、入院中と同じ点滴をします。時々採血をして腎臓や肝臓、貧血などの状態を見ながらここで出来ることをしていきましょう。
まずは、ポートから点滴をして水分を入れていきます。

クリニックの看護師は医者の説明と並行して何かをガサガサやっている。
まぁ、点滴の準備なのでしょう。

訪問看護の人は・・・見てるだけなのね。

クリニックの看護師が準備を終え、点滴台に点滴をかけた。

「 針を刺すのでポートを出しますね。 」

右鎖骨下に埋め込まれたポートを露出させるため服を捲り上げる。
普通の人なら自分で身体を捩ったりと動かしてアシストするのでしょうが、私は無理。

全介助でよろしくね。

と、好みの看護師に心の中で呟くが、現実では

「 もっと優しくやってよ! 」

声を荒げてしまった。

「 ごめんなさいね。これで大丈夫ですか? 」

びっくりした看護師は恐る恐るゆっくりと行い、訪問看護師も手伝いながらの作業となった。

ポートをイソジンで消毒し、針を垂直に刺す。
これだけでは抜けてしまうため幅10cmくらいある透明なテープを上から貼って固定する。

「 痛い痛い痛い! 」

固定が強すぎると痛みが出る。

「 違うわよ!もっとふんわりと貼ってよ! 」

「 え!?でも、きちんと貼らないと抜けちゃいますよ? 」

「 別にそんなのどうでも良いのよ!痛いからやり直して! 」

痛いのを我慢しながら過ごしたくないですよね。
何だかんだ言わないで早くやり直せばいいのよ。

推しの看護師は固定したテープを剥がした。

しかし、少し待ってもなかなか貼り直そうとはしない。

「 早く貼って 」と催促をする。

「 ちょっと待って下さい。テープがなかなか剥がれなくて。 」

点滴の管についたテープがなかなか剥がれずにもたついていたようだ。

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