死ぬことすらできない辛さ 1 〜始まりは突然〜
初めにお伝えしておきます。
この作品は実話をもとに個人が特定できないように所々手を加えて作成されております。
始まりは突然だった。
家族旅行を楽しみ、帰ってきた時からおかしくなった。
私ではない。兄だ。
突然足に力が入らなくなった。
普通に歩けていたし、走ることもできていた。
それが、歩くと足がもつれ転びやすくなった。
旅行疲れからきた症状かと家族みんなが思っていた。
しかし、何日経っても症状は変わらなかった。
おかしいと思い近くにある病院を受診した。
採血やレントゲンの結果は異常なし。
検査結果に問題はないから大丈夫と医者に言われても安心することは出来なかった。
何日経っても症状は変わらない。
他の病院を受診して検査をしても医者から言われるのは「 特に異常はない 」だった。
県内の病院ではダメなのか
もっと大きな病院に行く必要があるのか
当時はネット環境が整っていないため簡単に検索することが出来ない。
近隣の医者に聞いてもわからないとなれば、遠方の医者に聞くしかない。
東京ならもしかしたら・・・
東京なら電車で数時間
行けない距離ではない。
母と兄と3人で東京にある病院に向かった。
もしかしたらいつもと同じように特に問題はないと言われるかも知れない。
期待をしながらも不安は大きい。
病院に着いて受付。
外来で待つ
初診だと長時間待たされる
まだかまだかと待つこと数時間
やっと呼ばれて診察室へ
いつものように検査をする
結果が出るまでまた時間。
再度診察室へ呼ばれて結果を伺う
ドキドキ
ドキドキ
ドキドキ
医者はゆっくりと話し出した。
「 身体の遠い箇所から筋力が衰えていく珍しい病気です。
筋力が衰えていくため転びやすくなっています 」
聞いたことない病名であり、筋力が衰えていく病気。
兄も母もショックを受けている。
私もショックだが先生が説明している言葉を頭に留めておかなければならない。
思考を止めるわけにはいかない。
治療薬も治療法もない
筋力が低下していけば歩けなくなる。
自分でご飯を食べられなくなる。
ご兄弟も検査を受けることをお勧めします。
え?
兄弟?
何を言っているのだろう?
自分は大丈夫だよ。
不安になるようなこと言わないでよ。
当時兄は30歳。私は20代前半。
人生これからなんだから。
19歳頃から付き合っている人がいる。
一緒になろうと思ってくれているかは分からないけど、先生が言ったことを伝えなければならない
別れようと言われるだろうか・・・
発症するとは限らないけど、もしものことを考えると迷惑はかけたくない。
歩けなくなったらどうする?
万が一があるかも知れない。
もしかしたらがあるかも知れない。
考えると悲しくなる。
彼に伝えた。
兄のこと。
医師に言われたこと。
さよなら・・・
覚悟はできている。
「 まだ発症すると決まった訳じゃないから大丈夫だよ 」
「 今は大丈夫かも知れないけど、今後発症したらどうするの? 」
「 その時また考えるよ 」
その返答に救われたかどうかは分からない。
不安は残るが考えても仕方ないのは確か。
両眼から溢れ出るものが抑えられなかった。
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