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#エッセイ

中央線は朝の色

中央線は朝の色

深夜2時半まで売れ残っていたおでんの大根は痩せなきゃ、と思いながら頬張るチョコバナナクレープと同じくらい美味しい。朝焼けと中央線のオレンジのグラデーションがあまりにも綺麗で、ああ中央線のその色は夕焼けじゃなくて朝の色だったんだ、と思った。夜明けを知らせる鳥の声に希望を見たことなんて一度もない。朝焼けと夕焼けはちゃんとピントを合わせないと今自分がどっちに生きているのか見失いそうになる。だから飛び込ん

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この一歩を証明したくて

この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂い

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透明な屍体

透明な屍体

飛行機に乗った時、私はかみさまになれた気がした。
上空から眺めるあの街の灯りひとつひとつに生活があり命があり、私もこの灯りのひとつであるのだと思うと自分が普段見ている世界がどれだけちっぽけなものであるのかということに気付いちゃったんだ。同時にこの広い世界の中で君に出会えたことがどれだけ奇跡であるかということにも気付いてしまったんだ。人が一生のうちで誰かと出会う確率は0.0004%とか誰かが言うから

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id1

id1

わたしたちはそれが何百年前の光なのかも知らずに、今はもう消滅しているかもしれない星々を見上げては綺麗だと呟く。今かがやいている星の光を、果たしてわたしたちが死んだ何百年後かに生きるひとびともわたしたちと同じようにこの地球から眺めているのだろうか。
今この瞬間をまっとうに生きている人は一体どれくらいいるのだろう。わたしたちは少しだけ明日を待ちすぎている気がするし、過去や未来に縋りすぎている。ひとは脆

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透明な冬を白く染め上げ、

透明な冬を白く染め上げ、

冬、気温と体温の差異で白く染まる息を見るたびに生きていることをつよく実感させられる季節。この季節になると私はよく生死について考える。冬はどの季節よりもひとりひとりが地に立って生きているような気がする。一人一人というよりは、独り独りという感じだし、生きているというよりは、みんな必死に生き延びているという感じで。人々が生に全うしていて、ひとの帯びる熱と生命力を感じるこの季節が好き。
空気の冷たさの中に

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