マガジンのカバー画像

29
運営しているクリエイター

#随筆

揺らぎの狭間で

揺らぎの狭間で

“きみ”と“彼”とでは解像度が違う、その揺らぎの狭間で恋をしていたい。空気は冷たいのに春の匂いがするし、北風も心なしか少しだけやわらかくなった気がする。2月の冷たい春風、明日までの払込票、どれだけ探しても片方しか見つからないイヤリングと靴下、結局いつもお気に入りのセーターしか着ないからずっとクローゼットの奥に仕舞われたままの冬服たち、折り合い、妥協、いつまでも出しっぱなしの扇風機、30℃の冷房、蠢

もっとみる
中央線は朝の色

中央線は朝の色

深夜2時半まで売れ残っていたおでんの大根は痩せなきゃ、と思いながら頬張るチョコバナナクレープと同じくらい美味しい。朝焼けと中央線のオレンジのグラデーションがあまりにも綺麗で、ああ中央線のその色は夕焼けじゃなくて朝の色だったんだ、と思った。夜明けを知らせる鳥の声に希望を見たことなんて一度もない。朝焼けと夕焼けはちゃんとピントを合わせないと今自分がどっちに生きているのか見失いそうになる。だから飛び込ん

もっとみる
この一歩を証明したくて

この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂い

もっとみる
冬は答え合わせの季節

冬は答え合わせの季節

早朝の澄んだ青は絶望の匂いがする。冬の雲ひとつない乾いた空気は絶望の匂いがする。だけど冬の朝っていちばん光に近いんじゃないかな。絶望って眩しすぎるから。絶望した時に何も見えなくなるのは光のなかにいるから、そこが爆心地だから。眩しくおどるプリズムたち。鋭く透明なその空気をきみは簡単に白く染め上げてしまう。そこにきみは生きていることを証明する。きみの温度が上がるほど、空気の温度が下がるほど、きみはきみ

もっとみる
透明な屍体

透明な屍体

飛行機に乗った時、私はかみさまになれた気がした。
上空から眺めるあの街の灯りひとつひとつに生活があり命があり、私もこの灯りのひとつであるのだと思うと自分が普段見ている世界がどれだけちっぽけなものであるのかということに気付いちゃったんだ。同時にこの広い世界の中で君に出会えたことがどれだけ奇跡であるかということにも気付いてしまったんだ。人が一生のうちで誰かと出会う確率は0.0004%とか誰かが言うから

もっとみる
夜に溶けるわたしの身体、きみの欠片

夜に溶けるわたしの身体、きみの欠片

眠りにつく前の朦朧とした意識の中で思考がぼやけて浮遊してゆく感じがすき、わたしときみの言葉がだんだん絡まり合って溶け合って、最後にはnの音しか出せなくなっちゃうくらいにまで知能が低下してゆく感じがすき。夜だけは、融解と昇華が許される気がする。わたしがこの星に固体として存在していなくても誰にも責められない気がする。
AM2:00、街は海に沈む。わたしをまるごと飲み込む水が、わたしの耳を塞いで、わたし

もっとみる
透明な冬を白く染め上げ、

透明な冬を白く染め上げ、

冬、気温と体温の差異で白く染まる息を見るたびに生きていることをつよく実感させられる季節。この季節になると私はよく生死について考える。冬はどの季節よりもひとりひとりが地に立って生きているような気がする。一人一人というよりは、独り独りという感じだし、生きているというよりは、みんな必死に生き延びているという感じで。人々が生に全うしていて、ひとの帯びる熱と生命力を感じるこの季節が好き。
空気の冷たさの中に

もっとみる