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夜に溶けるわたしの身体、きみの欠片

眠りにつく前の朦朧とした意識の中で思考がぼやけて浮遊してゆく感じがすき、わたしときみの言葉がだんだん絡まり合って溶け合って、最後にはnの音しか出せなくなっちゃうくらいにまで知能が低下してゆく感じがすき。夜だけは、融解と昇華が許される気がする。わたしがこの星に固体として存在していなくても誰にも責められない気がする。
AM2:00、街は海に沈む。わたしをまるごと飲み込む水が、わたしの耳を塞いで、わたしはどう足掻いたってひとりなんだと分からせる。息が、くるしい、だけどそうやってもがくうちに、徐々にわたしの体が融解して夜に溶け込んでゆく、そうして眠りに落ちてゆく。
AM4:00、水面に淡い光が差し込み、辺りは青い光に包まれる。光の具合の変化でぼやけていた世界がだんだん明瞭になっていくのがこわい、夜があけたら、液体でいることが許されなくなるから。じわじわとわたしが凝固して、わたしという固体がふたたび形成されてゆく感覚が、こわい。
AM7:00、夢から醒める。きっと街は海に沈んでなんかいないし、わたしはずっと固体のままだ。それにきみもわたしも、nだけが浮遊する時間のことは忘れてる。うそだよ、ほんとうは覚えているけれどふたりで忘れたふりをしているだけ。その感じがどれだけ心地良いかを、わたしたちは何処かで知っている。
「覚えているよ」の裏には「好きだよ」って書かれてるって知ってた?ねえ、ほんとうは全部覚えてるよ、きみの口癖も、息遣いも、足の大きさも、初めて話した日も、きみから電話がかかってきた日も、あの日きみがなんて言ったかも。きみの落としていった欠片のこと、ちゃんと覚えてる。そしてこれがきみに対するわたしの全て。きみに関するわたしの全て。覚えているということが、全て。だからもう、甘ったるい言葉なんて求めないからさ、その代わり、わたしを見逃さないで、わたしを捉えて、わたしのことをちゃんと脳裏に焼き付けて。
わたしの欠片を、覚えていて。

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