見出し画像

引き裂かれた恋 (連載小説 2) 




アパートに帰宅すると、郵便受けに1通の封筒が入っていた。丸みを帯びた筆跡で記された亜矢の住所と名前を不思議な思いで眺めた。

(誰からだろう?)
裏を見ると、雅人の名が記されている。
(えっ、雅人からの手紙?)
手紙が届くことなど想像すらしたことがないため、驚いた。ドキドキしながら封を開けた。
便箋には、将来亜矢と結婚したい。今は寂しい思いをさせるけど、必ず迎えに行く、と書かれていた。
丁寧に書かれた雅人の文字には、誠意のようなものが滲み出ていた。
寂しさと不安でモヤモヤしていた感情が、一気に晴れ渡っていった。


翌朝、電話の着信音で目覚めた。
こんな早くから誰? と思い、電話に出てみると、雅人からだった。

「ゴールデンウィークに会えなくて、ごめんね。
これから、毎日電話するよ」
思いがけない雅人からの電話に、亜矢は驚いた。
元々、雅人から電話をかけてくることは、ほとんどなかった。彼の心境の変化が嬉しかった。
幸福感が、じわじわと亜矢を包み込んだ。

約束通り、雅人は毎朝電話をかけてきた。
出勤途中の短い会話だったが、会えない寂しさも
かなり和らいだ。
これで、何とかお盆休みの頃まで生きていける。
そう、亜矢は思うのだった。
だが、物事は予定通りにいかないということを、
この後まざまざと思い知らされることとなった。


その日、雅人から届いた手紙を読んだ亜矢は愕然とした。お盆休みに会いに来るという計画は、どうやら無理なことになりそうだと書かれていた。
理由は、雅人の母親だ。私達の交際を反対しているというのだ。
亜矢の写真を見た母親は、
もう少しスタイルのいい子はいないの?
服装もちょっと派手だし、それに年上なんでしょう? と、眉をひそめたらしい。
雅人がお盆休みに私と会うことを母親に告げると
会いに行くなと反対された。だから、残念だけど会えないと……。

今度こそは、と期待していた亜矢は落胆を通り越して、投げやりな気分に陥った。と同時に怒りさえも湧いてくる。
子供じゃあるまいし、いい大人が親の言いなりになるなんて。
雅人にそんな一面があったとは、今まで気づかなかった。どうにも納得し難い理由だ。
翌朝いつものように電話をかけてきた雅人に、不満を訴えてみたが、
仕方ない、親に逆らって強引に会いには行けない、
の一点張りだった。

(もう、限界だわ。遠距離で雅人と付き合うなんて無理。別れを切りだそうか?)

本気でそう思った。
だが、しばらく経つと決心が揺らぐ。
大好きな雅人と別れるなんてイヤ、寂しい、耐えられない、という結論に至ってしまうのだ。

雅人と会えないお盆休みをアパートで1人きりで過ごすのは寂し過ぎるため、亜矢は実家に帰省した。
モヤモヤした気持ちを引きずってスッキリしないまま、休みは終わった。

亜矢は考えた。
そして、行動に移すことに決めた。
雅人が会いに来るのを黙って待っているだけだと、いつまでたっても会えない。だったら、自分が会いに行くしかない、と。
9月に入ると有給を取得し、新幹線のチケットを予約した。事前に雅人の予定は聞いてある。
会うのは半年ぶりだった。こんなに長い期間、会えなかったのは今までなかった。

大阪に出発する当日、ちょっと気がかりなことがあった。西から近づいてくる台風が、新幹線の乗車時刻と重なる可能性があった。

(なんて、タイミングが悪いんだろう。でも、もう後戻りできない)

台風の進路がずれることを祈った。


     つづく









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?