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箱根を撮る。

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箱根の旅の途中です。
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やわらかな虚像。

やわらかな虚像。

バスが来るまで15分あった。

西日がさらに強さと角度を失い、あたりはすんとした空気に包まれている。ふと愛用しているイッセイミヤケの腕時計に目をやると17時になろうとしていた。

バスでも歩いてもホテルへの到着時間は、さほど変わらないことをグーグルマップで知った僕らは徒歩で戻ることにした。

こうして歩いてみると下り坂が多く、ホテルよりも美術館の方が標高の高い場所にあったことに気づかされる。

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私のなかの水と、水のなかの私。

私のなかの水と、水のなかの私。

彼女のように世界の機微を見つめ続けたら、自分は間違いなく死を選ぶだろう。それがテムズ川への入水でなかったとしても。

そう思わざるを得ない展示だった。

この世界を廻すのに、なんら必要のない人の作為、自然の現象。
それらの微々たる動きを、狂いなく確実に捉える繊細さと、タフネスな精神力。その2つを持ち合わせているのがロニなんだと感じた。

水と聞いてイメージするものはなんだろうか。

水道水であるか

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時間の浪費が好きな僕らと箱根旅行の話。

時間の浪費が好きな僕らと箱根旅行の話。

「せっかく遠出してきたのに、なんでわざわざ寝るんだろう。」

幼い頃、両親によく連れて行ってもらった都内の大きなスパの記憶を、ロマンスカーの中で思い出した。

そのスパの温泉に入った後、両親は十中八九、子どもには自由時間と称して、仮眠室で2〜3時間の眠りこけていた。子どもの頃は、意味が分からなかった。そこには、ゲームセンターもあったし、マンガコーナーや的屋もあった。数々の娯楽を差し置いて、仮眠を選

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森と共生するホテルで、哲学の一角を垣間見る。

森と共生するホテルで、哲学の一角を垣間見る。

ホテルに着いたのは6時前くらいだろうか。ちょうど黄昏時で、ここら一帯の茜色が透けて消えていき、濃紺が表情を豊かに僕らを木々を、そして空を包み込んでいく。

ホテルに到着して早々、ウェルカムドリンクのコーヒーをいただいた。宿泊中は無料て提供されているとのことで、この時点で二人のテンションは爆の文字が着くほどに上がっていたことを思い出す。チェックインの手続きを、カフェアンドバーのラウンジで行う。

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自然はアートなのか。

自然はアートなのか。

仙石原すすき草原を後にした僕らは箱根初日のメインスポット、ポーラ美術館へと向かった。

この旅行で、メインとなった交通手段はバスであり、このポーラ美術館もバスで行くこととなった。途中乗り換えが必要で、グーグルマップと格闘しながら、なんとか乗り換え先のバス停まで辿り着き、ポーラ美術館行きのバスに乗ることができた。

箱根の山道。揺られること十数分。バスから降りると、まだ日は出ているというのに、あたり

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感情が滲んだ風景。

感情が滲んだ風景。

昼すぎには箱根湯本駅に着いた。改札を通り、歩いてすぐにところに川が流れている。前に訪れたのは社会人1年目の5月。

選考時、新規テレアポはないと聞かされながら、入社から3週目でバリバリテレアポをやらされ、入社早々に社会人の洗礼を浴びて、大学受験ぶりのストレスに心の余裕を奪われていた矢先、助けを求めるようにやってきた場所。それが箱根だった。

変わらぬ風景を見て、あの頃のずっしりとした気持ちを思い出

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グッドマウンテンを目指して。

グッドマウンテンを目指して。

箱根初日。新大阪を出たのは6時半くらいだっただろうか。前日は夜中の2時に寝床に着くも、移動教室前日の小学生顔負けのワクワク感が募ってしまい、脳も体も眠ってくれなかった。そのままおそらく3時くらいに就寝したはずで、目が覚めた時、スマホの表示は5時38分であった。

待ち合わせは9時30分に新宿南口。朝の支度は諸々省略しないと間に合わない。Youtubeを観ながらセットするはずの髪の毛。悩むはずだった

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奇妙な感覚をなぎ払いに。

奇妙な感覚をなぎ払いに。

今回の話は遡ること半年前、4月に端を発する。

大阪に住む自分と、東京に住む相方。

世の中はまさに緊急事態宣言下で、窮屈な生活を強いられていたものの、遠距離という自分たちの世界線で特に大きな変化はなく、いつもと同じように仕事終わりのどちらかが先に「おつかれさま」とLINEを送り、時計の針が上を指す頃には、当たり前のように電話をしていて、それがたまにビデオ通話になる時もあった。こうして1年。それが

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