見出し画像

時間の浪費が好きな僕らと箱根旅行の話。


「せっかく遠出してきたのに、なんでわざわざ寝るんだろう。」

幼い頃、両親によく連れて行ってもらった都内の大きなスパの記憶を、ロマンスカーの中で思い出した。

そのスパの温泉に入った後、両親は十中八九、子どもには自由時間と称して、仮眠室で2〜3時間の眠りこけていた。子どもの頃は、意味が分からなかった。そこには、ゲームセンターもあったし、マンガコーナーや的屋もあった。数々の娯楽を差し置いて、仮眠を選択する両親を見て、幼いながらも時間を浪費している感覚を覚えていた。

小学校の頃のキャンプも、テント内で先生たちの監視を盗んで、夜明けが来るまで友だちと内緒話をしていたし、土日の夜中も親の目を盗んでゲームボーイアドバンスでポケモンをするという、絵に書いたような子供らしさあふれる思い出が、今でもよみがえる。

年端もいかない頃の自分は眠ることがあまり好きでなかった。意識がない状態は、なんだか時間に置いてけぼりにされている気がして、少しでも長く起きていたかった。


齢二十七。本格的にアラサー領域に突入する自分が立てた今回の箱根の観光計画を、あの頃の自分が見たら、どう思うだろうか。

腰に手を当てながら、人差し指を前へと突き出し、「せっかく行くのに、それだけしか回らないの!?」と怪訝そうにこちらを睨む小学生の自分が目に浮かぶ。


前回の箱根に比べて今回の箱根の予定は、予定どうしがソーシャルディスタンスを意識しているのかというくらい、非常に簡素なものだった。


戻りつつある生活。これまでせき止めていた様々な滞留物が、一気に経済の流れに押し出され、てんてこまいとなりながらも、それらが適切な場所に流れ着くよう、捌いて行く自分たち。社会の一端を担うと聞いて思い浮かんだイメージ。


大人というのは案外大人でもない。これは自分が社会人3年目に気づいたことだ。自分が想像していた大人よりも、今の自分は遥かに子どもに思えてくる。ひとまわり上の人生の先輩を見て、大人だと感じていたあの頃。当時の先輩の年齢に自分自身がなった時、想像以上に成長していない自分に絶句する。自分よりもっと若い世代が自分を見て、大人だと思うような、そんな大人になれているのだろうか。

大人になるに連れ、不思議なことに自由な時間が減り、不自由な時間が増えていると感じてしまう。仕事も自分の生活も、すべては自分がどう生きるかを考えるための行動であり、子どもの頃から変わらない価値、ベクトルであるはずなのに、何故だか子どもの頃より窮屈と感じてしまう。

大抵の大人がこの感覚を持ち合わせていると思う。どんなに仕事が楽しくとも、どれほど生活に満足していようとも、こびりつく縛られた感覚。親のもとを離れ、社会の一端を担うようになった自分たちは、自由になったのだろうか。大人の自由とは子どものそれと比べて、想像以上に難しさを孕んだ自由である気がする。


画像1



相方の誕生日祝いを兼ねた今回の箱根旅行に、あえてテーマをつけるとするならば、「無理をしない。ゆっくりする。」といったところだろうか。

泊まった場所は、前回と同じフォーレ。自分たちにとっては、少し背伸びをする価格帯だけれど、自分たちの好きが詰め込まれたホテル。素敵という言葉を使うほかないホテルだと思う。


今回交通系の切符はすべてEMotというアプリを利用したのだが、これが非常に便利なアプリだった。

スマートフォンでアプリをダウンロードすれば、スマホ1つでロマンスカー特急券の予約のほか、箱根フリーパスも利用できたし、支払いはひとりが行っても、同行者がアプリさえダウンロードしていれば、チケットを共有できる仕様だ。

当日はアプリを起動し、画面を提示するだけで、箱根のほぼすべてのエリアが乗り降り自由となる。これが非常に便利で、アプリのUXも自分好みで使いやすかった。箱根に行くならこのアプリは手放せないなと感じた。




箱根湯本に着き、箱根登山バスに乗り換えて、揺られることおよそ30分。ガラスの森美術館前で降車して、少し歩くとフォーレの看板が見える。

坂道をすこし登ると、そこにはフォーレのスタッフがいた。途中の駐車場でホテル専用のランドカーに乗せてもらい、ホテルまで送ってもらった。

画像2


チェックインの時間よりも2時間ほど早く到着したのだが、「部屋には入れないものの、先に手続きすることは可能」といったような案内を受けた自分たちは、先に手続きを済ませて、荷物を預けた。

ホテルを後にし、身軽になった僕は、すーっと空気を吸い込む。鼻から鼻腔と気管を通り過ぎて、肺めがけて深秋の山の空気を送り込む。

画像3


身体を動かす空気と気持ちを新たに、向かうは前回も訪れたポーラ美術館だった。



つづく。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?