見出し画像

グッドマウンテンを目指して。


箱根初日。新大阪を出たのは6時半くらいだっただろうか。前日は夜中の2時に寝床に着くも、移動教室前日の小学生顔負けのワクワク感が募ってしまい、脳も体も眠ってくれなかった。そのままおそらく3時くらいに就寝したはずで、目が覚めた時、スマホの表示は5時38分であった。

待ち合わせは9時30分に新宿南口。朝の支度は諸々省略しないと間に合わない。Youtubeを観ながらセットするはずの髪の毛。悩むはずだった初日の服装。淹れるはずだった一杯のコーヒー。別の世界線にあったであろう優雅な朝に思いを馳せながら、流れるように支度を進めた。

なんとか集合時間に間に合う時刻の電車に乗ることができた。初秋の空は日の出から少し時間の経った色をしており、体の目覚め具合とちょうどリンクしている。ふと、汗をかいていなかった自分に気づいた。

画像1


季節の変わり目という言葉がある。正確には季節は絶えず流れゆくもので、そこに留まるものではないのだから、変わり目なんてものは人間の杓子定規で便宜上加えた概念でしかない。それでも、僕は季節の変わり目、特に夏から秋に移りゆくこの時季が好きだった。

音も風景も心の動きも、人の動きも緩やかに小さくなっていく。世の中から徐々に熱が奪われていく感覚。削ぎ落とされていく夏の姿。残るのは柔らかな太陽と長い夜。自然が、四季が与える静寂に身を委ねる。深く深く沈んでいき、やがて冬が僕らを迎え入れてくれる。


9時過ぎに東京着。街もすっかり目覚めており、人も多かった。中央線快速で新宿駅へと進路を西へ変える。そして新宿駅南口。約束の時間。

「やっほう。久しぶり。」

胸のあたりで掌を揺らしながら、駅構内の柱のそばで待っていた彼女がそこにはいた。予定していた箱根行きの電車出発まであと25分。

新宿南口を出た僕らは、小田急ロマンスカーの特急券と箱根フリーパス、それとおにぎり弁当を1人前だけ購入して、電車に乗り込んだ。こういう時、彼女と僕の胃の状態は不思議なほどにリンクしている。小腹は空いているものの、弁当1人前を食べられるほどではない、あのなんとも言えない空腹感。そしてこういう時、僕と違って、彼女はいつもセンスの良いチョイスをする。だしおにぎり2つと厚焼きたまご、唐揚げ、明太高菜。だしおにぎりの優しい香りと質素であるがきちんとしたおかずの味に舌鼓を打った。

祝日でもなんでもない、平日の金曜日であったにも関わらず、ロマンスカーの席のうち、過半数は埋まっていた。そしてその大多数は社会人と思しき人々であった。

ロマンスカーは、悠久の刻を求める人々を乗せて、約90分かけて異空間へと入っていく。


画像2

(相方お手製、旅のしおりモドキ。)


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?