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エッセイ:彼岸花の純愛。【高校生エッセイ】


私は高校生だ。
文芸部と写真部に所属している、女子高生。

ただ、ちょっとばかりこの辺りでは頭の良い高校に通う、それ以外普通のどこにでもいる女子だ。


私には何にもない。
その高校では勉強は普通、容姿も普通、運動も普通、コミュ力も普通。



特徴がない。


このことに、私は囚われている。
所謂、コンプレックスだ。



そんな私にとって、文化祭は正直そこまで楽しいものじゃない。

私の高校の文化祭では、当たり前のようだが文化部が活躍する。


だから、写真部と文芸部に入っている私は、この時ばかりちょっとだけ忙しい。

両方とも、販売するからだ。


文芸部では、部員が書いた小説を1冊にまとめて、300円近くで売る。


有り難いことに、私の高校は偏差値だけが取り柄で、卒業生の方や先生方が毎年、買ってくれるのだ。


写真部では、部員の撮った写真を教室で展示し、お客様に気になった写真があれば、それを買ってもらうというシステムだ。


これも、割と売れたりする。
まぁ、私の高校の写真部は全国大会に出場する人も多く、特に先輩方は撮るのが上手いから。



まぁ私には、あんまり関係ないかな。


私は、文化祭当日、写真部のシフトに当たっていた。



そのシフトが16時ピッタリで終わると同時に、学校のチャイムが鳴った。


「生徒の皆さん、並びに文化祭にお越し頂いた皆様に連絡します。


これにて、文化祭の一般公開は終了です。
生徒の皆さんは、片付けを始めて下さい。


今日は、はるばる遠いところから、文化祭に足を運び下さり、ありがとうございました」



あ、終わった。


文化祭が終わった。
来週からまた普通の学校か、嫌だなぁ。


そう思いながら、ゆっくり息を吐き、私は展示している写真の片付けに移った。



この文化祭で写真部は、展示教室に来てくれた方に、丸くて小さいシールを3枚、配布していた。


目的は、客観的評価のため。


お客様に、展示している写真に、お気に入りのものがあれば、その写真の作者と作品タイトルが書かれた、所謂「作品詳細シート」にそのシールを貼ってもらうというもの。


さらに、その作品にコメントしたい場合(この写真のここがいい、など。)、
作品の近くに置いてある細長い付箋に、なにかコメントを書いてシールと同様に貼ってもらうというイベントもやっていた。


私は、特に先輩方の写真に、沢山シールやコメント付箋が貼られているのを見て、やはりすごいなと舌を巻いた。



先輩の素晴らしい作品より、自分の作品から片付けてしまおうと思い、


自分の作品か飾られている机に向かった。


私の写真は、赤い彼岸花が沢山咲いている写真だ。


自分の作品詳細シートを見る。

それなりに、シールが貼られていることにびっくりしたが、


隣の同級生は、紙におさまらないくらいにシールが沢山あって驚いた。


なんなら、1枚の作品詳細シートではシールを貼るスペースが足りず、もう1枚作品シートが重ねて貼られていた。


いいなぁと思いながら、自分の作品から片付けようと、


作品詳細シートが貼られているテープを、机から丁寧に剥がした。


裏に、なにか引っかかりがあるのに気が付き、


作品詳細シートを裏返すと、


私は思わず息を飲んだ。


そこには、たった1枚の細長い付箋に、こう書かれていた。




君のように美しい。



私は身震いして、思わず辺りを見回した。


ドクンとなった心臓を、片手で抑えながら。


これを書いたのは誰??


そう思う前に、ふと自分の作品を見る。



彼岸花。


私はハッと導かれるように、携帯を取りだして、



彼岸花を検索した。


彼岸花の花言葉は、情熱。
恋愛的な意味なら、「想うならあなた1人」
しかし、このような意味もある。
「悲しき思い出」「あきらめ」


まさかとは思うが。


私は、そっとその作品詳細シートをポケットにしまいこんだ。


そして、


友達のドッキリかな、と思い、


数少ない友達にそれとなく聞いてみた。


でも誰もしていないと言う。


「君のように美しい」


とても綺麗な文体だった。


それこそ女子のような。


でも、女子なら、私の事を「君」とは呼ばないだろう。


なら男子か。


でも、こんな付箋に書くぐらいだったということは、


「あきらめ」ていたのかもしれない。


もしくは。



直接、伝える勇気がなかったのかも。

こんな平凡で普通な私に。


君のように美しい。


たった8文字。


もちろん、心当たりはない。


それでも、彼岸花の花言葉が過ぎる。


「想うならあなた1人」


なんて素敵な言葉だろうか。


純粋で、真っ直ぐで。


私にも、ほんの少し、自信を持っていいのだろうか。


自惚れている自覚はある。


でも、



こんな私にも、



美しいと言ってくれる人がいた。



私は、ポケットに入れたそのシートに貼られた付箋を優しく取りだして、


もう一度見た。


私の心は、燃えているように熱く鼓動を鳴らしていた。


展示教室の窓に写る、自分を見る。


私の姿はそれこそ、



赤い彼岸花のように、


頬に朱が差していた。


同時に、赤く傾いた夕日が、


握りしめた付箋を、穏やかに照らしていた。


これは、平凡な私の、




ちょっとした、紅く優しい物語だ。




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