【書評】『凍』、沢木耕太郎と山野井泰史
数年前、登山界の最高の栄誉とされるピオレドール生涯功労賞を、アジア人として初めて受賞された、”世界最強のクライマー”山野井泰史
この細身で柔和な顔立ちの山野井泰史が、高難度で”人食い”の異名も併せ持つ、世界の名峰鬼峰を、最小限の装備で登攀するアルパイン・スタイルでこの受賞を受け、ついに世界の頂点に立ったということにもなるはずだ
今さらここで山野井さんの登山歴を書くつもりはないし、日本の低山登山しか経験のないわたしには、その業績の論評は不可能に近い・・・
ヒマラヤの難峰ギャチュンカンに妻と挑んだ記録が、この『凍』の骨子ではあるが沢木さんが山野井さんから聞いた小さなエピソードが、読んでいる最中にもずっと頭の片隅に居座り続ける・・・
山野井泰史が登山に興味を持つきっかけとなったのが、小学生のときにたまたま観たテレビ映画の『モンブランへの挽歌』(フランス/1974年)に強い衝撃を受け、その翌日から早速近所の山を登り始めている
この衝撃が直線的な行動力となり、その後彼の人生を決定づけていることに大きな驚きを覚えると言いたいのだ
一本の映画が、その後の人生の道筋をくっきり浮かび上がらせ、それに従って自由に生きる
それも、登山界で最高の栄誉を受賞するまで・・・
全くぶれない人生!!
現実社会で、このようなことが起こりうるということの驚きと尊敬の中に、山野井泰史の栄光は存在しているに違いない
沢木さんの書き出しも”ギャチュンカンという山は知っていた”
で始まり、その硬質ともとれる書き出しにこの『凍』の世界の山野井夫妻の、文字通り命がけのギャチュンカン攻略の困難さが透けて見える
2回目の再読だが、読みだすと止まらなくなる一冊
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