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告げ口AIと少女の左手⑩(最終回)
9 みひろ
マンションの玄関前には植え込みがあり、背の高い庭木が数本聳えていた。その少し先に路上駐車しているスバルWRX。その陰に身を潜めた二人の女。
雨は降りしきっているが、傘は差せない。と言うより持っていない。ホームセンターで買ったレインコートで凌いでいる。
地下駐車場に降りるスロープを挟んで、向かって右がみひろ、左が麻里子。
もう長い時間、こうしてじりじりと夜を待ってきた。雨が激し
告げ口AIと少女の左手⑨
3 友坂澄生
「澄生、静香、芦ノ湖、行くぞ」
帰って来たナオ先輩が、突然言った。
澄生はびっくりした。
「え? 芦ノ湖?」
「ああ、知ってるか、箱根の、でかい湖だ」
知っているも何も、ブラックバスを釣りに行く父親のお供で、小学校に上がる前から何度も行っている。
そして、二年生の夏休み、家族でそこに向かう途中、事故で……
運転席にいたパパと助手席にいたママが、死んだ。朝早かったのでまだ眠
告げ口AIと少女の左手⑧
第四部 静香を巡る人々
1 みひろ
シャワーを浴びた増見は、体が乾くとすぐに服を着始めた。下着と靴下を身につけ、シャツに袖を通し、スラックスを履き、ネクタイを締める。
その一連の動作を、まだベッドの中から見上げて、みひろは言った。
「今夜はやけに急ぐのね」
「ん? いや、そういうわけじゃ……」
「いいのよ、奥さんの誕生日でしょ」
増見の手が止まる。「なんだ、知ってたんだ」
「知ってるわよ
告げ口AIと少女の左手⑦
あすいく園
静香は、知らない女に手を引かれて、知らない場所に着いた。
家だとしたらやけに大きい。学校だとしたら逆に小さい。庭にはこんもりと樹木が茂り、門を入るとすぐのところにバスケットボールのゴールポストがあった。
知らない女が案内を乞う。八月の終わりで、外はまだ蒸し暑いが、屋内はほどよく冷房されていた。
奥の部屋に、痩せたおじさんが待っていた。
「チャイルド・ネットワークの者ですが」
告げ口AIと少女の左手⑥
《幕間狂言》左手縁起
今宵、鬼を退治た、と父は言った。
「その証がこれよ」
差し出されたものを見て、何もえ言えず、怯えて泣いた。
父は舌を打ち、「武者の子が情けないのう」と呟くと、まだいとけない稚な児を睨み下ろした。
されど、どのように言われても、やはりそれはあまりにも醜く、あまりにも世の常ならず、あまりにも禍々しい気を放っており、稚な児は震えがとまらなかった。
斬り落とされた、左手で
告げ口AIと少女の左手⑤
12
小中井のクルマで自宅まで送ってもらい、そのまま眠れずに朝を迎えた。
たっぷりとした朝食をつくり、異常な食欲だという三輪静香のことを考えた。
澄生と話した後、この点については職員にも確かめた。
「ネグレクトがあったみたいで、そういう子にはまま見られるんですよ。食事をちゃんと与えてもらえてないと、次はいつ食べられるかわからないんで、詰め込もうとする。その癖がまだ抜けないんですね」
「ここ
告げ口AIと少女の左手④
9
――大路だ、むろん。
増見は早口に言う。
――と言っても捜査は非公式だから、逮捕じゃない。聴取自体も極秘だ。警視庁じゃなく、公安が持ってるダミー企業のひとつに監禁して尋問中だ。第一秘書の森戸以外には、過労で倒れたことにしてある。
「本人は何か話しましたか?」
――いや、否認してる。そう簡単に口は割らないさ。
「検死の結果からすると、実行犯ではなさそうでしたが」
――ああ、検死まで立
告げ口AIと少女の左手③
4
小中井が呆気に取られたのは、和藤と木月が突然サングラスをかけたからだ。
正確にはピンホールグラスである。
黒い部分に小さな穴がいくつも空いている。これを通して見ると、視野が限定される代わりにピントが合わせやすくなる。眼精疲労を軽減し、ブル―ライトもカットできるので、長時間パソコンに向かう職種に普及している。
次いで和藤はヘッドホンも付けた。ベッキオが集めた《対話》を聴くためである。
告げ口AIと少女の左手②
第二部 凌野みひろ
1
男の汗と、自分の汗が混じり合って、ぬるぬると肌を覆っている。それをシャワーで洗い流してさっぱりした凌野みひろは、バスタオル一枚にくるまって浴室を出る。
すると、まだベッドにいる男が呼んだ。「みひろ……いや、凌野室長」
男はちょうど通話を終えてスマホを切ったところだ。名前を姓と肩書に呼び変えたことで、仕事上の緊急連絡とわかる。女の表情からも甘さが消えた。
「雉沢が、
告げ口AIと少女の左手①
あらすじ会話能力を持つAIスピーカー・ベッキオは、実は大規模な国民監視システム。ユーザーとベッキオの対話を傍受し、テロなどを未然に防ぐ試みだ。折から外務大臣・雉沢が急死。ベッキオ担当の凌野みひろは公安小中井警部と極秘捜査に当たる。雉沢は小児性愛者で、死亡当時、孤児二人が傍にいた。ベッキオの情報でその一人、三輪静香の父親も殺されていたことが判明。さらに孤児院の園長も謎の死を遂げる。一連の犯人は小六の
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