吉高たかよし

音楽・小説・演劇愛好家。

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最近の記事

怪談師論6 研究家系怪談師

作家系とどう違うの?な枠ですが、作家系は怪談を収集してそれを「物語る」ことに主軸を置いている。それに対し、単に話すだけではなく、その歴史的な背景とか、民俗学的な考察なんかを加えて、「解釈」したり「分析」したりする方が軸足があるタイプの怪談師です。 それとは厳密に言えば違うんだけど、コレクター系の人もこの枠に入れました。 怪談の収集ではなく、呪物などのオカルト的な「モノ」をコレクションする人。大量に集められたそれらの「モノ」自体が何かを「モノ語る」という部分もあります。 本人

    • 怪談師論5 芸人系怪談師

      本稿の1にも触れましたが、案外「怖い」と「笑い」はコインの裏表。 実は怪談系動画を見て、爆笑することはしょっちゅうあります。 むしろ、それが楽しみだったりして。 もちろん、怪談そのものではなく、前後のしゃべりだったり、聴き手のビビリだったりが笑いを誘うのですが、語り口自体も決しておどろどろしいとは限らず、むしろヒョウキンで軽快なトークの怪談師もたくさんいる。 それが、根本的に「怖い」と「笑い」の親和性を示している気が。 だからこそ、一見相反するようなお笑い芸人に、優秀な怪

      • 怪談師論4 職業を活かした怪談師

        怪談師になる前、あるいはなってからも、他の職業を持っている。その仕事が、怪異に極めて近いもので、必然的に自身がさまざまな体験をしたり、同僚などから聞かされたりする。そんなケースの怪談師がいます。 怪異に近い仕事、というのは、つまり、死に近い仕事。 例えば、本来釈迦は死後について一切語らなかったのですが、葬式仏教などと言われるように、特に日本ではお寺が「死」に近い場所であり、そこで働くのがお坊さんです。 そこでまず一人目は、怪談和尚の異名をとる、 三木大雲京都、日蓮宗光

        • 怪談師論3 スリラーナイト出身怪談師

          スリラーナイトは、専属怪談師が1時間に一回、15分のステージを務め、合間の休憩時間には怪談師との歓談も楽しめるアミューズメントバー。 そこで話芸を磨き、他のイベントなどでも活躍するようになった人も多く、いわば養成所としての役割も果たしていますから、現在の隆盛に大きく貢献したと言えるでしょう。 中でも、札幌店のオープン当初から関わっている、 匠平低く、よく響く声だけど、口調はフランクで、まるで友だちが自分の体験談を話してくれているような距離感で怪異を語る。 自身も多少霊感が

        怪談師論6 研究家系怪談師

          怪談師論 2 作家系怪談師

          本来「怪談」というくらいだから、語り物のはず。 しかし、江戸時代から「書かれた怪談」として『耳袋』のような例もあります。 インターネット以前の昭和四十年代は、雑誌が全盛だったせいでしょうか、むしろ「読む怪談」の方が主流だった感も。 その後五十年代に至ると、「口裂け女」「人面魚」「人面犬」などの小学生を中心に流布した都市伝説系の怪談が雑誌の誌面を賑わせたりもしました。 ちなみにオカルト雑誌の老舗『月刊ムー』の創刊も、昭和五十四年です。 そうした怪談を書く作家から出発し、やがて

          怪談師論 2 作家系怪談師

          怪談師論1  序論

          この10年隆盛の怪談界猛暑止まらぬ2023年、夏。 日本の夏と言えば、怪談です。 イギリスでは、むしろ冬の風物詩らしく、寒い夜、暖炉の前に集まって話すイメージだとか。 しかし、日本では、やっぱ怪談の夏、緊張の夏。 今年は、線状降水帯の影響で、降るところと降らないところが極端に分かれていますが、一般に高温多湿の季節であり、幽霊が湿気を好むというのは、景山民夫の名作『ボルネオホテル』にもありましたっけ、 加えて、仏教国としては夏の大イベントお盆が欠かせない。これ、すなわ

          怪談師論1  序論

          告げ口AIと少女の左手⑩(最終回)

          9 みひろ  マンションの玄関前には植え込みがあり、背の高い庭木が数本聳えていた。その少し先に路上駐車しているスバルWRX。その陰に身を潜めた二人の女。  雨は降りしきっているが、傘は差せない。と言うより持っていない。ホームセンターで買ったレインコートで凌いでいる。  地下駐車場に降りるスロープを挟んで、向かって右がみひろ、左が麻里子。  もう長い時間、こうしてじりじりと夜を待ってきた。雨が激しくなると、雨音で会話もできなくなった。その中でじっと彫像になっている。  何台も

          告げ口AIと少女の左手⑩(最終回)

          告げ口AIと少女の左手⑨

          3 友坂澄生 「澄生、静香、芦ノ湖、行くぞ」  帰って来たナオ先輩が、突然言った。  澄生はびっくりした。 「え? 芦ノ湖?」 「ああ、知ってるか、箱根の、でかい湖だ」  知っているも何も、ブラックバスを釣りに行く父親のお供で、小学校に上がる前から何度も行っている。  そして、二年生の夏休み、家族でそこに向かう途中、事故で……  運転席にいたパパと助手席にいたママが、死んだ。朝早かったのでまだ眠かった澄生は、後部シートで寝ていて助かった。  もう二度と、行きたくない。  だ

          告げ口AIと少女の左手⑨

          告げ口AIと少女の左手⑧

          第四部 静香を巡る人々 1 みひろ  シャワーを浴びた増見は、体が乾くとすぐに服を着始めた。下着と靴下を身につけ、シャツに袖を通し、スラックスを履き、ネクタイを締める。  その一連の動作を、まだベッドの中から見上げて、みひろは言った。 「今夜はやけに急ぐのね」 「ん? いや、そういうわけじゃ……」 「いいのよ、奥さんの誕生日でしょ」  増見の手が止まる。「なんだ、知ってたんだ」 「知ってるわよ。ディナーの約束でも?」 「まあな。九時だから、そろそろ行かないと」 「なんでわ

          告げ口AIと少女の左手⑧

          告げ口AIと少女の左手⑦

          あすいく園  静香は、知らない女に手を引かれて、知らない場所に着いた。  家だとしたらやけに大きい。学校だとしたら逆に小さい。庭にはこんもりと樹木が茂り、門を入るとすぐのところにバスケットボールのゴールポストがあった。  知らない女が案内を乞う。八月の終わりで、外はまだ蒸し暑いが、屋内はほどよく冷房されていた。  奥の部屋に、痩せたおじさんが待っていた。 「チャイルド・ネットワークの者ですが」 「園長の貝原です」  大人二人が小さな紙きれを儀式ばった手つきで交換する。静香は

          告げ口AIと少女の左手⑦

          告げ口AIと少女の左手⑥

          《幕間狂言》左手縁起  今宵、鬼を退治た、と父は言った。 「その証がこれよ」  差し出されたものを見て、何もえ言えず、怯えて泣いた。  父は舌を打ち、「武者の子が情けないのう」と呟くと、まだいとけない稚な児を睨み下ろした。  されど、どのように言われても、やはりそれはあまりにも醜く、あまりにも世の常ならず、あまりにも禍々しい気を放っており、稚な児は震えがとまらなかった。  斬り落とされた、左手であったのだ。  それも、いぼに覆われた、太く逞しい、人ならぬ異形の手。 「怖いの

          告げ口AIと少女の左手⑥

          告げ口AIと少女の左手⑤

          12  小中井のクルマで自宅まで送ってもらい、そのまま眠れずに朝を迎えた。  たっぷりとした朝食をつくり、異常な食欲だという三輪静香のことを考えた。  澄生と話した後、この点については職員にも確かめた。 「ネグレクトがあったみたいで、そういう子にはまま見られるんですよ。食事をちゃんと与えてもらえてないと、次はいつ食べられるかわからないんで、詰め込もうとする。その癖がまだ抜けないんですね」 「ここへ来たのはいつですか?」 「つい先月ですよ。父親が亡くなって、母親も行方不明。祖

          告げ口AIと少女の左手⑤

          告げ口AIと少女の左手④

          9  ――大路だ、むろん。  増見は早口に言う。  ――と言っても捜査は非公式だから、逮捕じゃない。聴取自体も極秘だ。警視庁じゃなく、公安が持ってるダミー企業のひとつに監禁して尋問中だ。第一秘書の森戸以外には、過労で倒れたことにしてある。 「本人は何か話しましたか?」  ――いや、否認してる。そう簡単に口は割らないさ。 「検死の結果からすると、実行犯ではなさそうでしたが」  ――ああ、検死まで立ち会ったんだって? 熱心ですねって向こうさんが驚いてたよ。いや、公安でも実行犯と

          告げ口AIと少女の左手④

          告げ口AIと少女の左手③

          4  小中井が呆気に取られたのは、和藤と木月が突然サングラスをかけたからだ。  正確にはピンホールグラスである。  黒い部分に小さな穴がいくつも空いている。これを通して見ると、視野が限定される代わりにピントが合わせやすくなる。眼精疲労を軽減し、ブル―ライトもカットできるので、長時間パソコンに向かう職種に普及している。  次いで和藤はヘッドホンも付けた。ベッキオが集めた《対話》を聴くためである。  室員二人が軽快にキーボードを叩き始めると、小中井は立ち上がった。 「どちらへ?

          告げ口AIと少女の左手③

          告げ口AIと少女の左手②

          第二部 凌野みひろ 1  男の汗と、自分の汗が混じり合って、ぬるぬると肌を覆っている。それをシャワーで洗い流してさっぱりした凌野みひろは、バスタオル一枚にくるまって浴室を出る。  すると、まだベッドにいる男が呼んだ。「みひろ……いや、凌野室長」  男はちょうど通話を終えてスマホを切ったところだ。名前を姓と肩書に呼び変えたことで、仕事上の緊急連絡とわかる。女の表情からも甘さが消えた。 「雉沢が、死んだ」  さすがに、驚く。 「心筋梗塞だそうだ」 「雉沢、心臓が悪かったんです

          告げ口AIと少女の左手②

          告げ口AIと少女の左手①

          あらすじ会話能力を持つAIスピーカー・ベッキオは、実は大規模な国民監視システム。ユーザーとベッキオの対話を傍受し、テロなどを未然に防ぐ試みだ。折から外務大臣・雉沢が急死。ベッキオ担当の凌野みひろは公安小中井警部と極秘捜査に当たる。雉沢は小児性愛者で、死亡当時、孤児二人が傍にいた。ベッキオの情報でその一人、三輪静香の父親も殺されていたことが判明。さらに孤児院の園長も謎の死を遂げる。一連の犯人は小六の少女か? 捜査はその左手にまつわる、奇怪な真実を浮き彫りにする。ミステリー仕立て

          告げ口AIと少女の左手①