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怪談師論1  序論

この10年隆盛の怪談界

猛暑止まらぬ2023年、夏。

日本の夏と言えば、怪談です。

イギリスでは、むしろ冬の風物詩らしく、寒い夜、暖炉の前に集まって話すイメージだとか。

しかし、日本では、やっぱ怪談の夏、緊張の夏。

今年は、線状降水帯の影響で、降るところと降らないところが極端に分かれていますが、一般に高温多湿の季節であり、幽霊が湿気を好むというのは、景山民夫の名作『ボルネオホテル』にもありましたっけ、

加えて、仏教国としては夏の大イベントお盆が欠かせない。これ、すなわち、死者が生者の世界に還って来るわけですから、霊界への扉開きまくりの時期。やはり怪談には相応しい。

そしてエアコンなき時代の納涼手段、怖い話でぞっとして暑気払い。百物語なんかが盛んに催されたのもむべなるかな。

けれど、近年――恐らくここ十数年。
徐々に怪談は盛り上がって、いまや年中怪談イベントが行われているかのような勢い。売れっ子怪談師は全国を飛び回り、中にはぶっ倒れる人も出るという活況の様子。

まず、その流れをざっと振り返ってみると……

怪談BAR、選手権、Youtube

スリラーナイトという、お酒を飲みながら怪談師の話を楽しむアミューズメント型のバーが、札幌ススキノに誕生したのが2011年頃。その後、東京に進出、六本木や歌舞伎町に店舗展開しています。

この頃から、いわゆるJホラーのような映画とか小説による「創作怪談」と、事実か虚構かはともかく、「ある人物が実際に経験したお話」という体で語られる「実話怪談」とが、ジャンルとして意識的に区別され始めた気がします。

さらに、2018年、いまや事故物件住みます芸人として有名な松原タニシの発案で、怖い話を語るコンテスト『OKOWA選手権』が開催。初代チャンピオンが、これもいまや押しも押されもせぬ怪談界の第一人者、現役住職である三木大雲ですが、このイベントを通じてさまざまな怪談師が登場。

他にも、竹書房主催の『怪談最恐戦』など、さまざまな登竜門が生まれて、怪談師が続々と現れるきっかけになったと思われます。

さらに、折しもYoutubeが盛んになり、怪談も動画コンテンツのひとつとして定着。コロナ禍で人前に出る機会を奪われた怪談師たちがこぞって配信を始めたこちょもあって、幅広い層に怪談が広まったと考えられます。

こんな辺りが、ここまでの概況じゃないでしょうか。

もちろん、それ以前から、レジェンド稲川淳二のようなパイオニアがいたり、1995年の映画『学校の怪談』のヒットでトイレの花子さんなどの小学生怪談が話題になったり、1999年夏、フジテレビが放送した『本当にあった怖い話』略称『ほんこわ』があったりもするんですが。

実話怪談番組のキモは司会者?

少し横道に逸れますが、現在、テレビ局が放送している実話怪談番組は、狩野英光司会の『怪談のシーハナ聞かせてよ』と、兵頭大樹司会の『実話怪談俱楽部』です。

それぞれさまざまな怪談師が登場し、交代で話していくスタイル。女の子タレントが聴き手になって、きゃあ、と怯えるのを楽しむのも定番として共通ですが、案外重要なのがMCのビビり方である気がします。

『シーハナ』初期の狩野英光は、時々本気でビビるんです。怪談師が急に大声を出したりすると、明らかに素でビクッとする。それが非常によいのですね。
兵頭大樹も、大きな体に小さな心、実はビビり、という、これは素なのか、設定なのか、多分素じゃないかな。怪談師の話を、「嫌そうな顔をして聴いている」のが絶妙です。

ただ、MCがビビることで、視聴者の恐怖感が増す、ということではなくて、観ている方はそこで笑っちゃいます。
ですが、実は恐怖と笑いは表裏の関係にあって、かのスティーブン・キングも「自分の小説のアイデアはギャグにもなるようなものが多い」とのたまわっています。

怖いから笑う。そんな妙なところが、人間にはあるものです。

さて、次回は、現在活躍中の怪談師を、いくつかの方向性に分けて、紹介してみたいと思います。

to be continued





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