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【教育ニュース最前線】総合型選抜の現実とこれから/注目の論説「大学不信と多様性へのバックラッシュ」林 香里 著

:::【教育ニュース最前線! 】:::

日々報じられる教育関連情報から、
教育業界への影響が高いと思われる内容を、
代ゼミ教育総研 研究員が厳選してピックアップ。
それぞれの分析・私見を述べます。

本日は「総合型選抜」「大学不信」がテーマ。

教育・学校・入試について関心がある方々の、
考えるヒントとなりましたら幸いです。

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🔽総合型選抜の現実とこれから

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文部科学省の先導的大学改革推進委託事業調査研究のうち、令和 5 年度に終了した研究の報告書が公表されています。

大学入試関係は二つの調査研究があります。

一つは株式会社リベルタス・コンサルティングによる「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」であり、182 ページに及ぶ報告書において、実態把握に必要な調査結果が示されています。ガバナンスに係る調査もあります。

▼「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」(文部科学省・4/26)

 
もう一つがイノベーション・デザインアンドテクノロジーズ株式会社による「大学入学者選抜における総合型選抜の導入効果に関する調査研究」です。

▼「大学入学者選抜における総合型選抜の導入効果に関する調査研究」(文部科学省・4/26)

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大学の選抜方法には、一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜、その他(帰国生入試、社会人入試など)があります。

総合型が占める割合は、大学全体では 17.8 %です。

「その他」を除くと 20.6 %となり、学校推薦型の 30.5 %と合わせると、
「年内入試」が半分を超えています。

総合型の導入率を見ると、大学の85.1%に上ります。

”目的”については「学力の評価だけではなく、受験者を多面的・総合的に評価する選抜を実施するため」が最も多く、次いで「アドミッション・ポリシーに適った入学者をより丁寧に選抜するため」「主体性・多様性・協働性を持って学ぶ姿勢や態度を持つ入学者を選抜するため」となっています。

”効果”については「他の選抜方法と比較して、受験者を多面的・総合的に評価する選抜を実施できた」「他の選抜方法と比較して、学力検査を重視した入試では選抜できない資質を持つ入学者を選抜することができた」という回答が多いです。

概ね、期待どおりの成果を上げることができているようです。

他方、”課題”としては「他の選抜方法より、評価する観点の設計が難しい」「他の選抜方法より、選抜に関係する業務時間の負担が大きい
他の選抜方法より、評価結果の点数化が難しい」といった回答が多くなっています。

なお、”目的”について「入学定員が充足されるよう早期に入学者を確保するため」の「大変当てはまる」「やや当てはまる」率は 66.1 %となっています。2023 年度春の入学者が定員割れした私大は 320 校に上り、初めて全体の 5 割を超えています。選抜方法への影響は小さくないと言えます。

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💡研究員はこう考える

 ▷「評価」とは?

入試において、大学は受験者を「評価」することになります。

「評価」は難しいものです。

現行の学習指導要領改訂においても、「評価」が大きなテーマとなりました。

 ▽新学習指導要領の全面実施と 学習評価の改善について(令和元年度地方協議会等説明資料・文部科学省初等中等教育局教育課程課)

新学習指導要領の全面実施と 学習評価の改善についてPDF

「指導と評価の一体化」があらためて強調され、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点で、観点別評価を学習指導要録に記載すること、3観点の「ABC」を「総括」して「評定」することとなりました。
※A「十分満足できる」B「おおむね満足できる」C「努力を要する」
 詳細はPDFのp.39「各教科の学習評価の改善点」をご参照ください

 

 ▷高校の「評価」と大学入試における「評価」

高校現場では、特に「主体的に学習に取り組む態度」をどう評価するか、
3観点をどう「総括」して5段階の評定を行うかで頭を悩ませました

趣旨は理解しつつも、具体的な実施方法や作業時間で苦労しています。

そして「ABC」は調査書には反映されないことになりました。

多くの大学では、5段階での評定の平均を出願の要件等としています。
つまり、高校の「評価」は大学入試における「評価」には、そのまま活用されないということです。

生徒は、学校の「評価」が受験で直接使われないならば、行きたい大学が行う「評価」に向けた準備をすることになります。

「総合型」は「学校推薦型」とは異なりますが、多くの高校では「総合型」についても、指導・助言、サポートを行います。

したがって、生徒も教員も「日常の学び」と異なることに力を費やすことになる現実があります。

  

 ▷「評価の共通性」と「学びの接続」を考える

私は「総合型」に反対するものではありません。

高校教育がすでに多様になっている現実を踏まえれば、入試に多様な尺度があるのは望ましいことです。

ただし、高大接続の観点からは、多様性のみならず、共通性が必要だと思います。

高校の学びが大学の学びとより一層重なりを持つということです。

話を広げますが、小中高大、さらに卒業後の仕事と真の接続を図るべきだと考えています。

小学校の学びは中学に入ると「高校受験があるから」と変わる面があります。

義務教育段階の学びが不十分であっても、自動的に進級、卒業し、高校では高校の学びをしなければなりません。

高校の学びは大学の学びと切断されている面があり、そもそも大学での学びの時間が平均的には激減することが明らかになっています。

また、大学での学びは就職する際にはあまり関係がないと指摘されており、したがって「就活」のために、学びの時間を削ることになっています。

このように、進学から就職までの間、学びにおける分断が生じている側面があります。

高度経済成長期のように、国全体に勢いがあれば、分断を飛び越えていけたかもしれません。

また、社会全体に余裕があれば、大学生は全く違う世界に飛び込み、
分断の穴埋めを経験と研修で補って仕事ができるようになっていけるかもしれません。

しかし、現在の社会の状況からは、一つひとつの接続を丁寧に行い、子どもから大人へとより円滑に移行し、成長を実感できるようにするべきではないでしょうか

 ▷大学入試への提言

話を戻します。

高校の評価の実態を踏まえるならば、大学入試においても3観点による評価を行うべきです。

「知識・技能」「思考・判断・表現」はペーパーテストでも測ることができますが、「主体的に学習に取り組む態度」は面接、パフォーマンス評価、論文等で見るしかありません。

つまり、私は、全員がペーパーテストと面接等により大学入学資格を問われるべきだと考えています。もちろん、その比率は各大学のアドミッション・ポリシーにより異なっていて構いません。

予想される反論は、高校側も大学側も準備、実施のための余裕(人、時間、金、エネルギー)がないというものでしょう。

しかし、私は、接続に重きを置きます。
したがって、そうした入試が可能になるように、余裕をつくりだすべきだと思います。

「オーバーロード」(過積載)と言われる学習指導要領の学習内容の削減であれ、予算配分の変更であれ、優先すべきことのために創意工夫する。
そうした舵取りが必要ではないでしょうか。

 ▷生徒の真の成長のために

高校現場においては、指導方針は明確です。

基本的なことは、生徒の学力を3観点、つまり、3つの切り口で見て、育成を図ること、そのために、生徒自身が3観点で自己の学びを評価しながら改善を図るよう促すことです。

その上で、本当に行きたい大学を見つけ、その入試の考え方と内容を深く理解することです。

生徒が自分に相応しい選抜方式を選ぶとともに、どの方式でも合格できる力を身につけようとするべきです。

それは理想に聞こえるかもしれませんが、生徒の成長のためには「易きに流れる」傾向に釘を刺そうとしなければなりません。

大学の方では、単に「年内」の早い段階で「数を確保」するためのものではないことをより強くアピールする必要があります。

改善を重ねる共通テストや個別試験では絶対に測れないものがあり、また、単なる数的な多様性ではなく、真の質的な多様性のために、一般とは異なる選抜方式を採用していることを強調するべきです。

もしも、高校も大学も、大人が「その方が楽」「助かる」といった姿勢を持っているならば、そのことは生徒に伝わります。
一つの価値観を示してしまいます。

入試を実施するのは大学です。
VUCAの時代であり、学生募集上の危機があるからこそ、本質を問う思考が大学組織全体に求められていると思います

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なお、学習評価をめぐっては、学習指導要領三年目にしてすでに中教審でも意見の相違が明らかであり、激しく議論されています。

▽今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第11回・4/26)配付資料(文部科学省)

高校の学びと大学の学びが真に接続されるような評価のあり方、入試制度となるのか、動向を注視したいと思います。


🔽【注目の論説から読み解く】
 「大学不信と多様性へのバックラッシュ」
林 香里(『世界』2024.04.岩波書店)


今回は東京大学大学院 林香里 教授の論説より、
「大学不信」について考えます。
論説は『世界』2024年4月号にてご確認ください。

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\begin{array}{|l|l|} \hline\ \small形態 & \small論説\ \\ \hline\ \text{\small名称} & \text{\small大学不信と多様性へのバックラッシュ} \\ & \text{\scriptsize ハーバード大学学長辞任事件から考える} \ \\ \hline\ \small出版元・雑誌名 & \small 世界2024.04 \scriptsize(岩波書店)\\ \hline\ \small著者 & \small林 香里 \scriptsize(東京大学大学院情報学環教授) \\ \hline\end{array}
$$

💡研究員はこう考える

 ▷他山の石で済まされない米国大学の深刻なDEI崩壊

副題に「ハーバード大学学長辞任事件から考える」とあるように、東大現執行部でダイバーシティ&インクルージョン担当の理事・副学長をされている林 香里氏は、現在米国のキャンパスで続いている学長辞任連鎖の状況や深刻な背景について、わかりやすくレポートしています。

近年、米国では大学への信頼が大きく下がっている。
その背景には、政治的世論の二極分化がある。

『世界』2024年4月号  p.84

2023 年 6 月、広く衝撃を与えた米国最高裁判所によるハーバード大学入試についての違憲判決は、長年行われてきた「アファーマティブ・アクション」の相次ぐ撤廃をもたらしていますが、ハマスのイスラエル奇襲攻撃は、米国においてDEI(多様性、公正性、包摂性)の伝統が大きく揺らぎ出している最中に起きたのです。 

米国の多くの大学(私立大学)の経営については、卒業生からの多額の寄付金を運用して基金とするエンダウメント方式が有名ですが、実はこの経営システムは高額寄付者の意見や圧力の影響を受けるため、こうした論争に巻き込まれる要因となっている側面があります。

財務基盤が脆弱でこれからどう資金を獲得するかばかりが大学の喫緊の課題となっている日本人としては、驚きであり、集金や資金の運用と言ってもそんな簡単な話しではないことを痛感させられます。

それはともかく、一つの理想とも思えていた米国大学におけるDEI運動や人種差別克服の議論が、今後はたしてどうなってしまうのか・・・
とても気になるところです。

 

 ▷日本国内のジェンダー・バックラッシュ、ジェンダー・バッシング現象

しかし、この記事で注目したいのは、論考の最後に、安倍元首相や旧統一教会が絡んだ日本国内のジェンダー・バックラッシュ、ジェンダー・バッシング現象にも言及していている点です。

事情や背景は違うにしても、過去同様の経験をした我々にとっても米国の騒動は看過できるものではないのです。

というのも、日本の大学におけるDEI推進は数十年遅れとも言われ、まさに緒についたばかり。

林氏は、「日本はDEIに関しては世界に比して周回遅れ」とし、
「ようやく動き出したDEI推進の勢いを止めないよう」(p.89)と、
クギを刺しています。

東大「現」執行部の一員である林氏は、以前ご紹介した矢口副学長による『東大はなぜ男だらけなのか』(集英社新書)と同様、あくまでも「意見・見解は、私の個人的なもの」と断りを入れながら、最後に次のメッセージを発信しています。

今後も一丸となって意識を高め、取り組んでいかなくてはならない

『世界』2024年4月号  p.89


ここに、DEI推進に向けた東大の本気度が垣間見えるのです。


vol.04-1はこちら👇

次回、vol.05 もお楽しみに📓

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▼ラジオ番組・SNS紹介📣

教育ニュース最前線「研究員はこう考える」ライター、
林 正憲がパーソナリティを務めるラジオ番組のご紹介❕

毎週木曜日の午後9時から代々木ゼミナール提供、
ラジオ「教育の夜明け」を生放送中🎧

よろしければ、ゆる~く、お聴きください。

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メッセージ、感想、質問等送っていただけると嬉しいです。
「夜明け」に相応しい曲のリクエストもお待ちしております🎵
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