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二年目

121
2020年の詩まとめ
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#現代詩

雪の詩

雪の詩

SNSでみつけた「雪だ!」の投稿に愛しさを感じます
わたしの住む街にはまだそんな気配は微塵もないけれど、
確かに何処かでは雪が降っていることに感動してしまう

早朝、誰の足跡もついていない真っ白で神聖な雪を、おろしたてのレインブーツで踏み込む瞬間はこどもの頃からどきどきして、ちょっぴりいけないことをした気分になります
さくさくと微かに足裏に伝わってくる感触に寒さをすっかり忘れて玄関まわりの雪をひと

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迷子

迷子

秋の夕方、誰かに呼ばれた気がする

迷子になってしまいそうな空気のにおい
懐かしくて、すこし焦げくさい、でも嫌いじゃない

夕日を背にしてのびる影につられてどこまでも歩いて歩いて街のすみっこ
あと数歩進めば消えてしまえるかな
あかく燃える夕日にとけて一部になる

もうおうちに帰ろう、チャイムが鳴ります
誰でもないそれがわたしを現実に連れ戻す

何処からか漂う夕餉のにおい
わたしを迷わすにおいは消え

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東から

東から

きっとわたしが居なくなっても朝日の届かない部屋がひとつ増えるだけで
君にはちゃんと朝日が届く、そのくらいの変化しかないんだよ

線香のにおいがまだかすかに残る喪服をクリーニングにださなきゃ、

日常に戻る
わたしがいない世界がはじまることにきっと君は疑問を抱かない
君は生きているから

わたしはいつか誰かの記憶にしかならない
記憶のわたしは誰にでも優しくて大切な存在になってしまうでしょう

だか

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梅雨

梅雨

雨の日は無理して笑わなくても許されるような気がして
傘で表情の見えない君の機嫌をうかがわなくても許される気がして
雨音だけがふたりを隔てているのに、とても遠くに居るみたい
世界の音をかき消してくれるこの音が嫌いになれません
湿気でヘアスタイルが崩れるからと愚痴をこぼす君はかわいいよ
すべてが洗い流されてリセットされたらいいのに、と
スタバのカウンターから眺めながら飲むフラペチーノは味気ない雨の日に

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のこりもの

のこりもの

きっと神様はじぶんがいらない部分をあつめてわたしたちをつくったのだろうね

神様からの贈りものなのよ、って美しい言葉に包まれて生まれてきたわたしたち

人間になるたびにその存在が薄くなっていくよ

あなたもわたしもカミサマからつくられたのに
よっぽど汚い部分を捨てたかったのね、カミサマ

どうですか、清くなれましたか、
人間はいつだってアナタのこと美しい存在だと信じています

神様に祈っても届く

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魔女

魔女

何処にいるのか、なにをしているのかわからないけれど
なんだか毎日たのしそうだなぁ、と思われる人間に憧れます
朝日がのぼるすこしまえに目が覚めて
空気よりすこし重いカーテンを しゃっ、とあけてまだ誰にも汚されていない空気を吸って吐いて
おはよう
いつかの昼下がりにコトコト煮込んだジャムをちょうどいい焦げ目の食パンにたっぷりと
サクッと噛めば一日のはじまりの音がします
こどもたちが登校して静かになった

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あおい

あおい

空、青い 空っぽ 透き通って掴めない 落ちてくる 見透かされ
海、青い 暗い 潮のにおい 生き物の死んだ腐ったにおい 絡まって溺れて泡になって
青はわたしを消してくれるどんなにのみ込んでも歪むことなく濁ることなくまた誰かを誘って自分だけが青を知っていると錯覚させるこの世でいちばん美しくて醜い色

真実は

生きたかったから死ぬんじゃありません、死にたかったから死ぬのです、ってききたかったな君の遺言、そうしたら納得できたのに

白黒白黒

さいごのデートは冷たい視線を無視して冷たいくちびるにくちづけを、鯨幕が揺れて君の姿を探す

ともだち

僕は知らなかったよ、
左手で鉛筆を持って文字を書いても怒られないこと
食事のペースがゆっくりでも怒られないこと
声が小さくても笑われないこと
クラスメートの名前を全員覚えて友達にならなくても困らないこと
絵の具の使い方が下手でパレットを人一倍汚しても変な顔されないこと
君は知らなかったね、
移動教室の理科室でいつも右側に座ってくれたこと
おいしそうに食べるのねって食後の珈琲をのみながら微笑んでくれ

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アイ

ひらがなを習って初めて拾った言葉が「あい」だなんてここで知りたくなかった
「i」を消して僕らは生きていく、「愛」なんて誰が設定したのだろう

存在

君がいる世界は素晴らしいんじゃなくて、君がいたから世界が素晴らしくなったんだ

▶️

すきなシンガーソングライターのアルバムを買いました、発売は二年前だけれどわたしのなかでは最新の歌声、ライブに行ったことありません公式SNSもフォローしていません、それでもわたしはいつだっていちばんその人の音楽がすきだよ、アップされてる猫の写真も食事の写真も知らないし知らなくても困りません、だってシンガーソングライターだから、歌詞が音が声が、すきになるしかなかったんだ、CD離れって嘆かれるけどあのプ

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13:15ー

客数より従業員数が多い平日昼下がりのショッピングモール
三階の映画館で観た世界はここよりも輝いていた
エンドロールの先に行きたくて赤いシートにからだを預けたまま目を瞑るポップコーンは夢のにおい