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文学系マジシャン

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2020年6月の記事一覧

【紹介】山本弘『プロジェクトぴあの』【SFはすごい!】

 天才アイドルがピアノドライブという宇宙船の新型エンジンを開発するお話です。アニメチックな装丁からSF〝風〟ライトノベルを想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、なんてったって著者は山本弘先生、相対性理論、タキオン(超光速粒子)、熱力学の第二法則の破る……などがっつりハードSFです。

 ヒロインである、結城ぴあのはアイドルを踏み台にしか考えていません。自分の夢を叶えるためにすべてを捨てている

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ノーベル文学賞と村上春樹

ノーベル文学賞と村上春樹

 現在、世界で最も権威のある賞として知られているノーベル賞を、ダイナマイトの開発で財をなしたアルフレッド・ノーベルが設立したことは有名ですね。面白い逸話としてまして、ノーベルの兄が亡くなった時に、フランスの新聞がこれを本人の死だと誤報、その時の新聞の見出しが「死の商人、死す」だったらしいのです。ダイナマイトが戦争に利用されることをノーベル自身も予期していたそうですが、それにしてもこの書かれようで、

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【紹介】ちょこっと近代日本文学系譜

【紹介】ちょこっと近代日本文学系譜

 前回の武者小路実篤『友情』の終わりに、さくっと近代日本文学の系譜のようなものを話したので、ここに残しておきます。私の覚えている範囲で、かつ細かいことは端折るので正確性にはかけるかもしれませんが、その点はご容赦ください。

 若き日の森鴎外が軍医として赴いたドイツで吸収してきたのがロマン主義と呼ばれる、美や善といったもののを誇張し、輪郭をはっきりと描くスタイルでした。ところが、19世紀の終わりから

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【紹介】ヘッセ『車輪の下』【マジで推薦図書?】

【紹介】ヘッセ『車輪の下』【マジで推薦図書?】

「ごきげんよう、ハンス。正しい道を離れぬように、主がおまえを祝福し護りたまわんことを! アーメン」

はじめに 日本ではもっとも読まれているヘッセの作品。小中高生の推薦図書とかにもよくなりますよね(同著者の『デミアン』も有名です)。しかし、推薦図書とかのことについても一言言わせてください。

著者 ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)、ドイツ生まれでその後スイスに移り住んだ、ドイツ文学界を代表す

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【紹介】村上龍著『限りなく透明に近いブルー』【こうやって読むとすごさがわかる】

【紹介】村上龍著『限りなく透明に近いブルー』【こうやって読むとすごさがわかる】

 いいかよく見ろ、まだ世界は俺の下にあるじゃないか。この地面の上に俺はいて、同じ地面の上には木や草や砂糖を巣へ運ぶ蟻や、転がるボールを追う女の子や、駆けていく子犬がいる。
 この地面は無数の家々と山と河と海を経て、あらゆる場所に通じている。その上に俺はいる。
 恐がるな世界はまだ俺の下にあるんだぞ。(作中より引用)

はじめに 村上龍は村上春樹と同時期にデビューした大型新人として、「W村上」なんて

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【紹介】武者小路実篤『友情』【男の友情と三角関係】

【紹介】武者小路実篤『友情』【男の友情と三角関係】

 これまで海外文学を中心に紹介していて、今回も本当はヘルマンヘッセをやるつもりだったのですが、甘いものばかり食べているとしょっぱいものが食べたくなる心理ってやつで、日本の古典文学をやってみたいと思います。私は明治から大正にかけての文学が特に好きで、その中からもっともエンタメ性の高い作品をひとつ紹介したいと思います。

 日本の文学って何となくじめっぽいイメージを持っている方多いんじゃないですかね。

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