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日本アニメのあらゆる要素がテンコ盛り、「ふしぎの海のナディア」

今回は、「ふしぎの海のナディア」を取り上げてみたい。
これは日本アニメ史において、なかなか重要な位置付けの作品である。
その意味するところは、

①宮崎駿の名作「未来少年コナン」(NHK)の継承アニメであること
②庵野秀明率いるガイナックスの名を世に知らしめたこと

以上の2点。
まず、不自然だと思わないか?
そもそもガイナックスというのは当時新興のアニメ制作会社であり、大阪のアニメ・特撮オタクが中心になって立ち上げた、若手クリエイター集団である。
それがいきなり国営放送局NHKのアニメを手掛けるとか、いくら何でも時期尚早じゃない?
この「ナディア」のもともとの企画って、どうやらずっと昔に宮崎駿とNHKが共同で作った企画書に始まるらしいのよ。
おそらく、「未来少年コナン」で宮崎さんがNHKに出入りしてた頃の話だと思う。
宮崎さんはこの企画を既に「天空の城ラピュタ」という形で実現していたんだが、一方NHKはNHKで、この企画書をずっと捨てずに持ってたんだね。
だから本音は、NHKとして宮崎さんに「ナディア」をやってほしかったんだと思う。
でも、そりゃ無理だわ。
大体宮崎さんは「ラピュタ」でそれにケリをつけてるし、ましてやその頃の彼は国民的アニメ監督になってて、今さらテレビアニメなんて絶対しませんよ。
・・で、おハチが回ってきたのがガイナックス。
自称「宮崎駿の弟子」の庵野秀明がいるガイナックスに、この企画が回ってきたのは、ホントに偶然?
私は、偶然じゃないような気がするなぁ・・。

「ふしぎの海のナディア」(1990年)

この当時のガイナックスは、映画「王立宇宙軍オネアミスの翼」とOVA「トップをねらえ!」で、そこそこ業界の注目を集めてたと思う。
オタク臭のする、いわゆる厨二っぽい作風を得意とする会社として。
だからこそ、「ナディア」ってどう見ても冒険アニメ王道のスチームパンクだし、ガイナックスと相性いいとはとても思えないのよ。
多分、そのへんをよく分かってないNHKが

「ガイナックスって巨神兵を描いたアニメーターがいるらしいですよ」
「おお、じゃ『ナディア』はガイナックスにお願いすべきだな!」

と馬鹿みたいな会話をしたんじゃないだろうか。
まぁ経緯はどうあれ、これでガイナックスは「NHKのゴールデンタイム」という陽の当たる表舞台に出ていくことになった。

で、最初のうちはまずまずなんだよ。
なるほど、NHKアニメっぽいな・・という展開が続くから。
特に第1話、主人公ジャンがナディアを連れて追っ手から逃げてるシーンはなかなかの王道である。

この車輪型のバイク、映画「スチームボーイ」で大友克洋も描いてたよね。

映画「スチームボーイ」

スチームパンクって、逃げる時は車輪型バイクというのが鉄板なの?
あと、作中でオルガンを弾くというパターンも「ナディア」と「スチームボーイ」は共通していて、こういうのもスチームパンクでは王道?

「スチームボーイ」オルガンを弾くエドワード博士
「ナディア」オルガンを弾くネモ船長


聞けば、この「ナディア」はジュールベルヌの「海底二万里」「神秘の島」という2つの小説を原作としてるらしい。
とはいえ、全然原作に沿ってないらしいけど。
多分、庵野さんが好き勝手に解体したんだろうね。
やはり、ここでも「トップをねらえ!」同様、パロディをぶち込んできてるし。
たとえば作中の「グランディス一味」って、タツノコプロ「ヤッターマン」の「ドロンボー一味」オマージュでしょ?

ドロンボー一味
グランディス一味

最初は悪役だったグランディス一味が、途中からナディアたちの心強い味方になっていく展開は結構好きだった。
というか、もともとドロンジョが好き!
多分、「ヤッターマン」の中で一番人気あるキャラは、ドロンジョなんじゃないか?

実写版「ヤッターマン」では、実質ドロンジョ(深田恭子)が主役だったと思う
この三輪車、大好き!

で、「ナディア」はノーチラス号が出てくるあたりから、どんどん庵野臭が強くなってくる。

ノーチラス号
ネモ船長

ネモ船長って、「宇宙戦艦ヤマト」オマージュだよね?

「宇宙戦艦ヤマト」沖田艦長

いやホント、この「ナディア」は終盤にいくにつれてスチームパンクの前提がどんどん崩れ、やがてグッチャグチャのカオスになってくのよ。
多分、NHKがガイナックスをコントロールできなくなったんだろう。
よくよく話を聞くと、総監督の庵野さんも最後の方はあまりタッチしてないらしく、じゃ誰が仕切ったのかというと、樋口真嗣さんらしい。
なるほど、という感じだ。

私はこの作品の終盤をとてもいいと思っていて、いや、人によっては「破綻してる」という見方をするんだろうが、その破綻ギリギリのところで絶妙の均衡を見せてるのが「ナディア」なのよ。
たとえば、クライマックスのノーチラス号が特攻を仕掛けるシーン。
基本、このへんは「宇宙戦艦ヤマト」のオマージュで構成されてる一方、敵のバリア(ATフィールド)を突破してからは一転、「ヤッターマン」っぽいオマージュにシフト変更する。

「さらば宇宙戦艦ヤマト」を彷彿とさせるシリアスなシーン
ノーチラス号が決死の特攻で開けた突破口に、切り札で使われたのがこれ、グラタン号(笑)

このノーチラス号⇒グラタン号というリレーに爆笑したのは私だけじゃないはず。
めっちゃ緩急が効いてるというか、あのシリアスからいきなり面白メカ登場という、もうビックリするほどの落差だもんなぁ(笑)。
そう、これこそがガイナックスの真骨頂。
もともとここはオタクの寄せ集めだから、みんな好きなものがバラバラなのよ。
「宇宙戦艦ヤマト」が好きな奴もいれば、タツノコプロが好きな奴もいる。
だからこそ、このガイナックスは社内クーデターが起きたり、最後空中分解するというオチにもなるんだが、こういうバラバラの奴らを「まぁまぁ」といってなだめられるのが樋口さんというキャラなんだ。
これがキャラの強い庵野秀明だったら、きっと喧嘩になって即終了のはず。

ちなみに、私の解釈では「宇宙戦艦ヤマト」を含むシリアス系が好きな連中が後の「カラー」の母体になり、タツノコプロ等オモシロ系が好きな連中が後の「TRIGGER」の母体になったんだと思う。
そういう分裂。
しかし、「ナディア」のクライマックスはそういう二派が見事に連携して、ちゃんとしたカタチになっていたと思う。
このへんは樋口さん、お見事な手腕、と絶賛したい。

「ふしぎの海のナディア」38話

で、上の画の舞台設定なんかは、庵野さんっぽさを感じるよね。
この作品には、「エヴァンゲリオン」の原型があちこちに見える。
「ナディア」に見る親子関係、男女関係などは「エヴァ」の原型と捉えてもいいだろう。
「いかにもガイナックス」というべきシャワーシーン、またパンチラシーンもあったよなぁ・・。

シリアスなところでは、美女が電撃で悶えるのもあったなぁ。

個人的に最もツボだったのはグラタン号で、ただのネタ的機体かと思いきやめっちゃ終盤に活躍する。

実に多機能なグラタン号

「ドリル」とか出てくるし、あぁ、これが後の「グレンラガン」の原点か、と思ったよ。

最終話のクライマックス

最後の最後は、「ラピュタ」っぽいノリ。
ところで、主人公のジャン、終盤全く見せ場なかったなぁ。
むしろ、グランディス一味の方がカッコよかったんじゃないか?
この作品のラストカットって、ジャンでもナディアでもなく、グランディス一味の手下その1、「ヤッターマン」でいうところのボヤッキーに該当するサンソンの横顔で締めたからね。

最終話のラストカット

世間的に、「ナディア」はそこそこの評価だったんじゃないだろうか?
私は、これをもって庵野さんが「宮崎駿の後継者」に一歩近づいたと思う。
だって、「未来少年コナン」の後継ともいうべきアニメを総監督として成功させたんだし。
ちなみにだが、庵野さんは

「自分にとって師匠はふたり。
それは、宮崎駿と板野一郎」


と公言しており、実際この「ナディア」で宮崎さんっぽさと板野さんっぽさの両方を見せてくれている。
そういや、この頃の庵野さんは師匠が作った「もののけ姫」をディスってたんだよ。

「構図が『ナウシカ』の頃に比べて劣化した」


と彼は言う。
私はプロじゃないので、こういうレベルの話になるとさすがについていけんが、まぁ実際そうなのかもしれん。
庵野さん自身、宮崎さん仕込みで「構図」のプロだと思うのよ。
「構図」がうまい人=絵コンテがうまい人
であり、庵野さんがそうだし、あと押井守もそうなんだが、そっちに自信のある人は実写の方にいく傾向がある。
やがて、庵野さんは「エヴァ」で成功の後、「ラブ&ポップ」で実写映画の監督としてデビューする。

「ラブ&ポップ」(1998年)原作・村上龍

これ、あまりヒットしなかったけど、個人的には意外と悪くなかったんだよね。
まだ売れる前の仲間由紀恵が非凡だし、あと石田彰・三石琴乃・林原めぐみが出演してるところも見逃せない。
作品としては、画面見てると「ああ、庵野さんの映画だ」と分かる感じ?
興味ある人はどうぞ。
あと、「構図」よりもむしろ「作画の表現」の方に自信がある人、たとえば板野一郎、あと金田伊功とかもそうなんだが、そっち系は3DCG、あるいはゲームの方にいくという傾向があるね。
どっちにもいかず、あくまでアニメ職人というど真ん中から動かない宮崎駿が一番凄い、ともいえるんだが・・。

とにかく「ナディア」をまだ見てない人は、ぜひ見てほしい。
「エヴァ」的な味、ジブリ的な味、カラー的な味、TRIGGER的な味、つまり一粒で三度四度美味しいという、めっちゃお得感のあるアニメである。
見ないと損だと思うぞ?

「ナディア」のメイン軸は、「ラピュタ」っぽいノリ
スチームパンクが、まさか最後スペースオペラに転じるとは・・
正直いうと、悪役のキャラデザがあまり好きじゃなかった


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