かつて新海誠が撒いた種が「センコロール」という傑作を生んだ
今回は、「センコロール」というアニメをご紹介したい。
「そんなアニメ聞いたことがない」という人は多いだろう。
確かに、めちゃくちゃ有名な作品というわけではない。
この作品が初めて世に出たのは、2009年の文化庁メディア芸術祭。
その年の「審査委員会推薦作品」短編部門の中に、この「センコロール」が入ってたんだ。
まぁ、そこで注目されたのは確かにせよ、それでも大ブレイクというところまでには至らなかった。
それをいうなら、翌年2010年の審査委員会推薦作品になった「イヴの時間」の方がよっぽど大ブレイクしたといえよう。
ここで注目された吉浦康裕は「第2の新海誠」っぽくフィーチャーされて、その後は「サカサマのパテナ」「アイの歌声を聴かせて」などの作品で完全にメジャーとなったわけだし。
一方「センコロール」の宇木敦哉監督は、その後も「知る人ぞ知る」という扱いのまんま。
一応、ノイタミナ作品「つり球」、および「デジモンアドベンチャーtri」のキャラクターデザインを手掛けるなどもしてたんだが・・。
ところが2019年、そんな宇木さんの新作がいきなり注目されることになったのよ。
その作品というのが「センコロール コネクト」。
これは2009年の「センコロール」に続編「センコロール2」を加え、ひとつの長編作品として再構築したんだね。
というか宇木さん、まだコツコツと地道に続きを作ってたのか・・(笑)。
で、結論をいえば、
ここにきて遂に「センコロール」は大ブレイクに至った。
また「コネクト」のエンディングは明らかに続編を匂わせた感じだったし、多分、今は3作目の制作に入ってることだろう。
とはいえ、本作はまだ完全メジャーの域に入ってないので、未見の方は多いと思う。
まず未見の方は、Google等のネットで無料動画を検索するところから始めてほしい。
「cencoroll connect」で探せば、普通にフル動画が見つかるはず。
短編「センコロール」と長編「センコロール コネクト」の2つが見つかると思うが、内容がカブってるから見るのは長編の方だけでいいです。
で、私が思うに、この「センコロール」の何がいいかって、それは圧倒的な「画のセンス」である。
構図の良さからしてそのセンスはもうハンパないし、こういうのは宇木さん個人の美意識としか言いようがない。
多分、この人は本質が「漫画家」なんだと思う。
基本、1人で全部やりたい人なんだよ。
実際、本作で宇木さんが担ってるのは
・監督
・脚本
・絵コンテ
・キャラクターデザイン
・原画
・背景
・動画
もうほとんど1人でやっとるやん(笑)。
そう、昔の新海誠パターンだね。
実際、新海さんの「ほしのこえ」がアニメ界に与えた影響はかなり大きく、「アニメって、1人で作れるんや!」ということに多くの人が気付いたわけよ。
新海さんより前に、インディーズの雄としては既に庵野秀明というスターが存在してたわけだが、どっちかというと庵野さんは徒党を組んでやるタイプだし、また個人としても宮崎駿にすり寄ったり、富野由悠季にすり寄ったりと人脈ありきの人である。
思えば新海さんにしても、川村元気プロデューサーと組むようになってからは孤高感がだいぶ抜けた感じだよね。
一方、宇木さんはいまだ孤高の人である。
メディア露出も少ないし。
そのくせ、彼の絵のファンって結構多いと思うのよ。
さて、そろそろ「センコロール」の内容について触れていこうか。
基本線は、バトル系のSFである。
しかしこの作品、モノローグやナレーションの類いは全くなく、設定などは登場人物の会話と画から全て読み取っていかなくてはならん。
これが結構、難しいのよ。
私はいまだ、上の画のブサかわいい生き物センコの正体がよく分からない。
こういう感じでヒロインが食われたようにも見えるが、実は食われたんじゃなく、「乗り込んだ」と表現した方がいいのかな。
「ひそねとまそたん」っぽい世界観と捉えてくれ。
で、こういう感じで変身、擬態が自由にできたりもするわけです。
また、闘えばめちゃくちゃ強い。
一応、特定の人間と「契約」のような形をとってるみたいで、その人の命令でコントロールできるっぽい。
センコはテツという少年と契約してるみたいで、でもこのテツが何者なのか、普通の人間じゃないことだけは確かなんだが(異星人?)、そのへんの説明は一切されないまま話は進んでいく。
で、センコ&テツは、センコと同じ白い生き物をコントロールしてるシユウという少年といきなりバトルになるわけで、そこに巻き込まれてしまうのがヒロインのユキ。
ユキは面白がってセンコにお菓子を与えたりしてたんだけど、するとなぜかセンコの契約主がテツからユキに移行してしまって・・というのが大まかなあらすじ。
また、後半になるとシユウを追って謎の組織が登場するわけで、今度は凄いスケールのバトル展開となっていく。
しかしその組織が一体何なのか、そもそもこの白い生き物は一体何なのか、作中で言及される「おじい様」とは一体何者なのか、相変わらず何の説明もないまま話は進んでいく・・(笑)。
ぶっちゃけいうと、最後まで見終えたところで、この物語の設定詳細は全然把握できませんよ。
なのに、なぜかめちゃくちゃ面白い!
一応「3」の製作は確定しており、それが完結編となるっぽい。
そこでようやく、物語の全貌が見えてくるんだろう。
それにしても、ここまで独自の世界観を最初から最後まで貫ききった作品も久しぶりである。
多分、こういうのは宇木さん1人でやってるからこそ、可能なことなんだろう。
私、こういう作品って好きやわ~。
作画のクオリティ、めちゃくちゃ高いし。
おそらく、「センコロール」人気は今後ますます上がっていくと思うので、まだチェックしてない人は早めにチェックしといた方がいいと思うよ。
センコのブサかわいさは、ホントにクセになるから(笑)。
じゃ、おまけとして、「JUNK HEAD」のことも触れておこう。
これもアニメにせよ、いわゆる「ストップモーションアニメ」というやつで、このジャンルで本作は世界から絶賛されたらしいんだ。
物語としてはディストピア系SFで、一部で弐瓶勉「BLAME!」に酷似してるという声もあるんだが、いやいや、全然違う。
「BLAME!」は完全にシリアス系、「JUNK HEAD」は基本ブラックコメディだから。
私、こういう脱力系のシュールなお笑い、結構好きなんですけど。
内容としては、遠い未来の話、どうやら人類は不老不死になったようなんだが、代わりに生殖能力を失ってるという世界観。
その世界では地下に何層もの地下世界が存在していて、そこにはかつて人間が創ったミュータントたちが生活してるのね。
で、地上に住む人間の青年バートンが、調査員としてその地下世界に行き、生殖能力を取り戻すカギとなるミュータントを捕獲する仕事を請け負うわけさ。
なんかさ、ギレルモ・デルトロっぽい映像美なんだよね。
グロいの苦手な人にはお薦めしないけど、できればこの独特の世界観は一度見てほしいなぁ・・。
で、これを作ったのが堀貴秀という人で、彼は本作をほとんど1人で制作しており、声優までもほとんど1人でこなしてるのよ。
しかも、約20人の役を兼任(笑)。
そして監督、脚本、絵コンテ、キャラデザ、人形作り、照明、衣裳、音響、大道具、音楽に至るまで全部やってるんだから、どんだけマルチな才能なんだろう。
まず間違いなく、ハリウッドは彼を放っておかんだろうな・・。
で、この堀さんもまた、これを始めたキッカケは新海誠だってさ。
ある意味、新海さんは日本サブカル界を変えたといっていいだろう。
彼が「君の名は。」でブレイクする前から、きっと「ほしのこえ」の時点でもう既に彼は時代を動かしてたんだよ。
彼が示したのは
「作家性を究極に表現したいなら、いっそ全部1人で作ればいいじゃん?」
という方向性である。
世の中で漫画家ができてることを、アニメ作家はできないのか?
⇒できる!と新海さんは示してくれたのさ。
で、それを受けて堀貴秀さん、宇木敦哉さん、吉浦康裕さんといった才能が今こうして湧いてきたということ。
非常にいい流れだと思う。
まずは、彼らの作品を1つでも見てもらいたい。
そのへんの商業主義に毒された類いのモノとは、やはり一線を画したモノだよ。
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