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「ゲゲゲの謎」は、「墓場鬼太郎」と併せて見ると考えさせられる

今回は、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」について書きたい。
以前から「面白い」と聞いてはいたものの、私はとりたてて鬼太郎ファンというわけでもなく、さほど強いモチベで見たわけでもない。
とはいえ、確かに面白かったわ~。
見てよかったと思う。

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(2023年)

上の画では鬼太郎がメインに据えられてるけど、実際の本編において鬼太郎は少ししか出てきません。
主人公は鬼太郎の父(目玉のおやじになる前の状態)と、水木という人間の青年。
舞台は昭和31年、当時の政財界を牛耳っていた龍賀一族の当主・時貞が亡くなり、その葬儀が行われている哭倉村を水木が訪れるところから物語は始まる。
この哭倉村というのがまた薄気味悪い雰囲気で、おそらく横溝正史の「犬神家」や「八墓村」をオマージュしてるんだと思う。
で、物語の展開もまさにそれと同じで、葬儀に集まった龍賀一族の人たちが次々と何者かに惨殺されていく・・。
そこで探偵役を担うのが水木と鬼太郎の父なんだが、なぜここに鬼太郎の父が出てくるのかというと、この殺人騒動が起きてる最中、たまたま村を訪問していたヨソ者ゆえ怪しいということで龍賀一族に捕らえられてたんだね。

鬼太郎の父(左)と水木(右)

聞けば、鬼太郎の父が哭倉村を訪れた理由は「行方不明になった妻の捜索」らしく、実は水木の方も龍賀一族が関わりのあるらしい謎の血液製剤「M」の調査という裏の目的があった為、たまたま哭倉村の探索という目的が一致したことから、このふたりは急遽コンビを組むことになったわけだ。
その流れの中で、鬼太郎の父の正体が人間じゃなく、「幽霊族」という妖怪の生き残りだということを知る水木。

この幽霊族というのは、この地球上で人類が誕生する前から存在していたという妖怪らしい。
人類の台頭により、彼らは争いを避けて地下世界に潜ったらしいんだけど、それでもまだ人類側から攻撃を受け、もはや一族の生き残りは鬼太郎の父とその妻だけだという。
当然、こういう経緯ならば人間に対して激しい憎悪があるだろうに、しかし鬼太郎の父は意外と物腰が柔らかく、人間の水木に対する接し方もなかなか紳士的なものである。
それでいて、戦闘になればめちゃくちゃ強い。
そして何より、妻に対する愛情の深さが尋常ではない。
我々は「目玉のおやじ」の彼しか知らなかったから少し誤解してたものの、実は彼って、めちゃくちゃカッコいい人物だったんだね。

ちゃんと水木を助ける鬼太郎の父
まぁ、ビジュアルは少しあれなんですけど・・

この物語そのものは、原作者・水木一郎先生が作ったものではない。
先生が生前に作った設定は

・鬼太郎の父と母は「幽霊族」の最後の生き残り
・父も母も病気で亡くなり、母が葬られた墓場で鬼太郎が生まれた(生前、母は妊娠してた)
・父の遺体から目玉だけが生き残り、目玉のおやじとなった。
・生後しばらく、水木という人間の青年に育てられた

このへんの設定は、今までの「ゲゲゲの鬼太郎」ではなく、ノイタミナが2008年に制作した「墓場鬼太郎」の方できっちり描かれている。

「墓場鬼太郎」(2008年)

この「墓場鬼太郎」、ノイタミナ史上稀に見る高視聴率だったみたいだね。
確かに、ここまできっちり鬼太郎のルーツを描いたのはこれが初めてだっただろうし、私も見てたよ。
で、上の画の左の男性が鬼太郎の育ての親(?)、水木である。
多分、「ゲゲゲの謎」の水木と同一人物。
でも、あまり「ゲゲゲの謎」⇒「墓場鬼太郎」という系譜では考えない方がいいと思う。
というのも、「墓場」の鬼太郎は「ゲゲゲ」の鬼太郎と全然キャラが違っていて、少なくとも人間を守ろうなんて意思は皆無の妖怪らしい妖怪なんですよ。
実際、水木が水の妖怪に襲われて鬼太郎に助けを求めた際、鬼太郎はそれを無視して立ち去ってるわけで・・。

これをもって、水木は死亡・・

これまで、何の血縁もないのに飯を食わせてくれていた養父・水木に対して何の恩義も感じていない、まさに外道のような鬼太郎である。
しかし、これは一応水木先生の原作に忠実なものらしいけど。
おそらく「墓場」は「ゲゲゲ」の前身ではあっても原典ではない、パラレルワールド的位置づけのものなんだと思う。
どう考えても、「墓場」と「ゲゲゲ」とではツジツマが合わないよ。
多分、「ゲゲゲ」の鬼太郎が人間を助けるのは、自身が幼少期、人間の水木に育てられたという恩義があってこそのことだと思うんだ。
でなきゃ、妖怪の鬼太郎が人間を助ける理由なんてないからね。
で、今回の「ゲゲゲの謎」には水木先生の長女・尚子さんもきっちり製作に絡んでるらしく、これは水木プロダクション公認の

「墓場鬼太郎」でなく、「ゲゲゲの鬼太郎」にきちんと繋がる公式な前日譚


という捉え方でいいと思う。

水木と鬼太郎

「ゲゲゲの謎」のラストを見る限り、水木はその後、鬼太郎をちゃんと愛情をもって育てたような気がする。
そして鬼太郎もまたそれを肌で感じて、その後の彼の人間観が水木によって培われたんだと思う。
全ては、鬼太郎の父と水木の出会い⇒友情から始まったんだよね。

いや、そういう「ゲゲゲ」の系譜とは別にしても、「墓場鬼太郎」は面白いのでぜひ皆さんにも見てもらいたい。
あぁ、本来の水木先生の作風はこんな感じなのか・・と分かるだけでも価値がある。
私の印象は、「GAROっぽい」というものだった。

「墓場鬼太郎」
GAROの代表的漫画家・つげ義春
諸星大二郎

一時期、日本漫画界って「シュール」な趣味に走ったことがあるのよ。
つげ義春諸星大二郎がその代表格だし、水木先生あたりはそのジャンルのパイオニアともいえたかもしれん。
特にブラックなところとか、水木先生と諸星先生は同系統といえるのでは?
御二方とも民俗学に異様なほど精通してるし、どちらも妖怪をよく描くんだが、それも普通なら平安時代をルーツとした魑魅魍魎を描くものだろうに、両先生はそれよりもずっと古いところにルーツを捉えてるんだよね。
実際「鬼太郎」の幽霊族だって、有史以前というところまで遡ってるわけで。
諸星先生もまた、そんな感じなんだよ。

諸菱大二郎「マッドメン」より

でさ、私は以前NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」見てたんだけど、特にそこで興味深かったのが水木先生の晩年の描写で、先生は趣味としてパプアニューギニアの工芸品収集をしてたんだよね。

生前、水木先生が収集していたコレクション

思いっきり諸星先生とカブっとるやないか!

ともに妖怪を描き続けてきた両先生が到達した、「太古のシャーマニズム」という世界観。
多分、子泣き爺や一反もめんみたく奇異な妖怪の容貌は一種のメタファーにすぎず、水木先生の捉えていた真の妖怪って、シャーマニズムにおけるカミだったんだと思うよ。

人間より先に、まずカミがいたという世界観。


これはきっと、諸星先生も・・。

もちろん、このへんの宗教観は宮崎駿にも通じるよね。
新海誠「すずめの戸締まり」も近いかな・・。
「墓場鬼太郎」の中で鬼太郎が初恋相手のオンナノコ・寝子(おそらく後の猫娘のモチーフになった子)を黄泉の国から連れ戻そうとするくだりがあるんだが、今思うと「君たちはどう生きるか」、そのまんまの構造である。

ツンとデレのギャップが激しい寝子
黄泉の国の寝子

黄泉の国の寝子は鬼太郎が迎えにきたにも関わらず、「私はここにいる」といって誘いを固辞する。
このへんも、大体「君たちはどう生きるか」と同じ。

それにしても猫娘の原型って、めちゃくちゃ美少女だったんだな?
思えば、猫娘はその容貌の変遷が結構面白い。

色々とギャップが激しい猫娘

6期のスタイルの良さが、かなりヤバいっすね。


この6期の猫娘のモチーフになったのは、実写版「鬼太郎」(2007年)だと思う。

実写版「鬼太郎」の猫娘
エンディングで踊り狂う猫娘

この映画は私もよく覚えてて、確かメインヒロインは井上真央(人間の女子役)だったのに、猫娘役の田中麗奈の方に人気が集まったんだよな。
なんか、脚線美が生々しくてさ・・。
そう、稀に実写版の方がアニメに影響与えちゃうこともあるわけよ。
私も「ゲゲゲの女房」見てたクチだし、だから水木先生といえば、いまだにこういう風貌のイメージだし・・↓↓

水木先生
正しい水木先生

・・それにしても、先生には「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」、ぜひ見ていただきたかったなぁ。
これは間違いなく、褒めてくれたと思うよ?

「鬼太郎」史上最高傑作なのは間違いない。


だって最後、私はマジで泣いたもん・・。


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