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この超難解ミステリー、あなたは解けましたか?「ゴジラS.P」

今回は、「ゴジラS.P」について書いてみたいと思う。
「S.P」はスペシャルと読まず、シンギュラポイントと読んでね。

シンギュラポイント=特異点

もう、この特異点ってのが出てきた時点でハードSFっぽいでしょ?
それもそのはず、この作品はSF作家・円城塔先生自ら脚本書いてるのよ。
円城先生は芥川賞受賞作家であるのと同時に、日本SF大賞、星雲賞受賞作家でもあり、伊藤計劃先生との共作「屍者の帝国」は皆さんもご存じのはず。
彼は東北大学理学部物理学科卒、やがて東大の大学院を経て博士号を取得、というバリバリの理系の人である。
そんな人が、本気でSF書いたらどうなる?
そりゃ、我々凡人には理解の及ばないものになってしまうだろう。
もちろんコアな理系の人にはそれも熱狂的支持を受けるだろうが、でも日本という国は圧倒的に文系の方が多いんです。
アニメという媒体もまた、私はどちらかというと文系のものだと思う。

「ゴジラS.P」(2021年)

で、「ゴジラS.P」の優れたところは、そのハードSFをうまいこと文系っぽく咀嚼してアニメ化してるんだよね。
理系作品なのにやたら詩の引用が多く、文学的な演出が多い。
理系も究極まで突き詰めていくと、ファンタジー(文学)の領域に抵触するということかもしれないけど。
そして上の画に映ってる主人公ふたり、特にヒロインの方だけど、この子のキャラ造形なんて見事だと思わない?
どこからどう見ても、「ドクタースランプ」アラレちゃんのオマージュである。

ヒロイン・神野銘

あと、このヒロイン・神野銘の相棒というべきAI「ペロツー」ってのがいるんだけど、そのアバターがこれ↓↓

ペロツー(cv久野美咲)

なんか、妖怪ウォッチとドラえもんを足して2で割ったようなキャラ。
そう、この作品は基本、センスがレトロな感じで統一されてるのね。
というか、そもそもゴジラ自体が昭和コンテンツなんだけど・・。
で、この作品を分かりやすく解釈するには、まず
ペロツー=ドラえもん
と捉えること。
でもって、この作品の監督・高橋敦史さんが2017年に手掛けた「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」を事前に見ておくことをお薦めしたい。

劇場版「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」(2017年)

基本、最後のオチが「ゴジラS.P」と「南極カチコチ大冒険」は全く同一なんですよ。
この高橋さん、実は宮崎駿塾の門下生(東小金井塾2期生)なのね。
つまり、絶対的に設定を詰める人だということ。
そこは押さえておいてください。

ゴジラのアニメ化といえば、2017~2018年の劇場版「GODZILLA」3部作というのがあり、これは虚淵玄の原案・脚本だったよね。

これはこれで、虚淵玄っぽさMAXで面白かった。
だけど、SFとしての完成度でいうと「S.P」の方が上だよな。
ただし文学的完成度でいうと、「GODZILLA」3部作の方が上だよな。
皆さんも是非、このふたつのゴジラを見て、自分が文系志向か理系志向かを測ってみてください。
虚淵玄派か、円城塔派か、ということだね。

さて、この「S.P」は構造が本格派ミステリーであり、最後の最後には非常に大きなドンデン返しが仕込まれてるわけですよ。
基本、私はネタバレ前提で書く方なんだが、さすがにミステリーのネタバレだけは気がひけるので、その核心部分を書くのはやめておきます。
ただひとつだけネタバレするなら、

本作のゴジラは単なる現象にすぎず、本題はS.P(特異点)、すなわちタイムパラドックスが一番重要な主題であって、主人公は人間よりむしろAI


なんですよ。
このへんは、視聴済の方なら十分ご理解いただけると思う。
なんていうかな、

パッと見は怪獣アニメだと思わせときながら、その本質は実をいうとロボットアニメ


だということさ。
それも「スーパーロボット」でなく、俗にいう「リアルロボット」である。

「S.P」の主人公(だと私は思う)ジェットジャガー(cv釘宮理恵)の初期の姿

見ての通り、ロボット・ジェットジャガーは「ロボットコンテスト」に出てきそうな外観の機体だし、これを製作したのは巨大組織でもなんでもなく、従業員僅か4名の小さな町工場なんだよね。
凄くボロく見えるが、でも壊れるたびに改良を重ね、最終的にはAI搭載の自律型にまでなる。

一時期は車輪で移動する仕様だったこともあるが・・
やがてAIを搭載し、槍で闘う自律二足歩行スタイルに落ち着く

このジェットジャガーと、冒頭で触れたペロツー、この2機のAIが主人公だと解釈してください。
ジェットジャガーとペロツーはどちらも元は同一のソフトだったんだけど、各々独自に進化をしていき、各々の個性を獲得していくことになる。
どっちも、とてもいい子です。
どっちもかわいい(cvが釘宮理恵と久野美咲だし)。
で、非常に興味深いのは、この両者の関係は途中チラッと一瞬ニアミスした程度で、作中ではほとんど出会うことがないのよ。
でありつつ、実は最後に両者の融合(?)がなければ間違いなくあの奇跡は起きなかったわけで、あぁ、このへんはネタバレを避けて書いてるから作品未見の人は何が何のことだか分からんだろうが、とにかくジェットジャガーとペロツー、どちらか一方でも欠けていたら即アウト、つまり世界と人類は滅んでたんだよね。
このへんのギミックが、めちゃくちゃ面白いのよ!

こんなオッサンが作ったロボットが、セカイを救うなんて誰も思わんわな・・

で、この作品の難しいところは、やはりタイムパラドックス理論かと。
いわゆる「親殺しのパラドックス」、タイムマシンで過去に行き、自分の親を殺したら自分はどうなるのか、という有名なやつ。
「バックトゥザフューチャー」では、自分がだんだんと透明になるパターンだっけ。
日本のアニメ文化では、多くがこのパターンをとらず、たとえ親を殺してもそれは分岐世界の話だからモトの世界に影響はない、とするのが一般的である。

だけど「S.P」の場合は、時空を超えて何かに影響を及ぼすこと自体を明確に物理法則のルール違反、と設定してるわけさ。

それの行き着くところを「破局」といい、臨界点を突破すれば宇宙そのものが破綻してしまう・・。
それでも、どうしても時空を超えて絶対メッセージを伝えなければならない事情があったとしよう。
その場合、どうすればいいのか?
「S.P」における対処は、なんと「物理法則にバレないよう、メッセージだと分からないように伝える」という裏技だったわ(笑)。
この「バレないよう」ってあたりが、「STEINS;GATE」の「世界を騙せ」というクライマックスで岡部がとった手段にめっちゃ酷似してるよね。

うん、このへんは同じ理系作品だけに、どうしても似た構造になっちゃうんだろう。
「STEINS;GATE」にせよ「ゴジラS.P」にせよ、結局彼らは何と闘ってたのかというと、

本質的には物理法則と闘ってたんだ


ということ。
ただし、そういうことに気付いた人と、気付かない人がいる。
いち早くそれに気付いたのはヒロイン・神野銘だが、彼女以外のお偉いさんたちはそこに気付かず、あくまで闘っている相手は怪獣、および紅塵という目に見えるものだと認識してて、なかなか本質を見ようとしないわけさ。
これ視聴者的にも、どうだったんだろうか?
終盤の神野銘とお偉いさんたちの対立、皆さんはすんなり理解できましたか?
私は最初、「破局」の意味が分からず、「??」となったけどね。

神野銘(cv宮本侑芽)

まぁ、とにかく「S.P」は難しいのは確かですよ。
私は通算2度見てるが、2度目でようやく輪郭が掴めてきた感じ。
皆さんも「難しいな~」と思ったら、一回「STEINS;GATE」を挟んでからの再視聴をお薦めします。
それでも途中で落ちる気が全くしなかったのは、やはりジェットジャガーとペロツーの可愛さと、神野銘の不思議な魅力ですよ。
私、もっさりした理系メガネ女子って大好きなんですよね。
「青春ブタ野郎」でも、桜島先輩より双葉の方が好きだし。
それこそ神野さんなんてド真ん中ストライクで、彼女メインのED、むしろこれこそが本編といっていいほどである。

ああ、神野銘・・。

じゃ最後に、最終回エンディングのモノローグを記載しておこう。

答えはいつも目の前にあり、        答えはセカイそのものであり、       答えは問いの中にあり、          気が付くとお話は始まっていて、      結末はもう決まってしまって、                          
過去を変えられるなら、          現在はもう変わった後の未来


結局、このモノローグが作品の構造全てを表してるんだよね。
かなり意味不明な言葉の羅列だが、一応全13話を見終えるとこれらの言葉の意味が理解できる仕組みです。
答え合わせみたいなもんだな。
いやホント、知性を問われるアニメだよ。
うん、円城塔先生、この人いいわ~。
この「S.P」で円城先生が手応えを掴み、今後もまたアニメの脚本を手掛けてくれることを切に願う。


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