見出し画像

「シュタインズゲート」で学ぶ量子力学

皆さんは、ゲーム原作のアニメはお好きですか?
意外と名作は多いんだよ。
「シュタインズゲート」「クラナド」「Fate/staynight」「まどかマギカ」等、それこそ挙げればキリがないほど。
その一方で、駄作も多い。
というのもゲームを売る販促目的としてのアニメ制作が大半ゆえ、「続きはゲームで」という感じで中途半端にストーリーを終わらせることが多いから・・。

ゲーム原作のアニメ化が難しいところは、ゲームのシナリオがルート分岐を
してる点だ。
これを、ひとつの作品にまとめるのは困難だろう。
だから、たとえば「Fate/staynight」を例にとれば、これはアニメ化の際に
1作目「セイバールート」2作目「凛ルート」3作目「桜ルート」と3つの作品に分けている。
セイバー、凛、桜というのはヒロイン名であって、誰をメインヒロインと
するかによってシナリオが変わるのよ。
この3部作は1部の続編が2部、2部の続編が3部、という構造ではなく、
3つともが同一の時系列なんだ。
同一の聖杯戦争が、ヒロインの選択によりシナリオが3つに分岐したという構造。

オーソドックスなセイバールート
様々な謎が解明されていく凛ルート
カラミありでR指定になってしまった桜ルート

こういう分岐型のシナリオに慣れてない人は、「どのシナリオが本物?」と聞いちゃうかもしれん。
そう聞いてしまう気持ちはよく理解できるが、その分岐全てが本物だと答えざるを得ない。
こういうのはパラレルワールドなんだ、と。
選択によってその後の展開が変わることなんて、リアルの人生でも同じことじゃないか。
展開の違いそのものに、本物も偽物もないさ。
ただし、このてのアニメで表現されるパラレルワールドは文系のニュアンスで、決して理系のそれではないけどね。

そもそも、パラレルワールドとは一体何なんだ?
みんな、あたかもそういう並行宇宙があるかのように捉えているけど、それを見た人なんて誰もいないよ。
そういや以前に私の知人は、霊感の強い人が死んだ人の幽霊を見るのって、その人が死ななかった並行宇宙の残像を見てるんだ、と言ってたっけ。
まあ、実証できないものは何とでも言えるんだけどね。
おそらく、パラレルワールドは量子力学からきた概念だと思う。
そんなものになぜ量子が関係するんだ?と思うかもしれんが、そもそも宇宙は量子で構成されてるわけで。
我々人間だって、量子で構成されてるはず。
ちなみに量子力学では、量子は観測された時点で初めて状態を決定する、というのがひとつの定説なんだ。
たとえば、光子は観測してない時は波状なのに、観測をすると粒状となる。
そうやって異なる状態が重なり合うのが量子というもので、状態を決定するのは観測された瞬間である。
このロジックから生み出されたのが、有名な「シュレディンガーの猫」だね。

「シュレディンガーの猫」の実験

上のような装置を作り、観測者は1時間後に箱を開けて中を観測する。
ここでポイントになるのが放射性物質で、これは量子であるがゆえに、量子力学の理論に立てば観測した時に初めて状態が決定する。
つまり観測するまでは「異なる状態が重なり合ってる」と考えられるわけで、ならば上記の装置では原子核が崩壊した状態と崩壊してない状態が箱を開けるまで「重なり合ってる」ということになる。

この実験で、観測前のネコの状態をどう説明するんだ?と、既存の量子力学的思考の脆さを指摘したのがシュレディンガーという物理学者である。
彼の指摘の是非については今回ひとまず置いとくとして、とにかく量子力学では「観測」が最大のポイントということね。
観測する前の状態、つまり「シュレディンガーの猫」ならば、ネコの生と死が重なり合ってる状態というのが、俗にいう「パラレルワールド」ってことになるんだろう。
そう、パラレルワールドって別にSFの中だけの話じゃなく、我々がいるこの世界にだって存在してるんだ。
観測前の量子段階でね。
ただし一度観測をしてしまえば、そこで事象がひとつに確定されて、あとは消えてしまう。
「シュタインズゲート」を例にとれば、主人公の岡部倫太郎は物語の冒頭でヒロイン牧瀬紅莉栖の死を観測してしまっている。
ここで、紅莉栖の死は量子力学的に「確定」したといえるね。
この「確定」をいかに覆していくか、それがこの物語最大のテーマなんだ。
やがて岡部は、もうひとりのヒロイン椎名まゆりの死も観測してしまう。
彼はタイムリープして彼女らの死の回避に必死で努力するんだけど、やはり一度観測してしまった以上、回避はどうしてもうまくいかない・・。

牧瀬紅莉栖の死亡
椎名まゆりの死亡

結局のところ、岡部倫太郎は「シュタインズゲート」の物語の中で一体何と闘っていたのかというと、量子力学の法則と闘っていた、ということになると思う。
ちょっと意味が分かりにくいよね。
人間がそんな法則を相手に闘って、果たして勝てるものだろうか。
この作品では岡部がタイムリープで強引に法則を曲げようとすると、それに対して修正力がかかるという奇妙な現象が起きていた。
作中では牧瀬紅莉栖を助ければ椎名まゆりが死ぬし、椎名まゆりを助ければ牧瀬紅莉栖が死ぬ。
そういうことって、起こり得るのか?
そもそも、我々はタイムリープできないので確認のしようがないんだけど、
何となくだがそういう修正力というか、法則の絶対的強制力のようなものは実際にあるような気がするよ。

「シュタインズゲートゼロ」
これは前作の純粋な続編ではなく、牧瀬紅莉栖を救えなかった世界線の続きである

こういう法則の強制力で我々の身近にあるものといえば、まず私が思い浮かぶのはサイコロである。
サイコロの目は1~6、仮に600回振ればどの数字の目も均等に100回ぐらい出る。
そんなの当たり前だろ、と思うかもしれんが、でもこうやって均等になるのが法則の力なんだよ。
たとえば「1」が150回出て、かわりに「2」が50回しか出ないというランダムな結果になっても別に理論上あり得なくないだろうに、まずそうはならないでしょ。
同様に、コインを1000回投げて裏と表の出る回数は、やはりイーブン、大体500:500の近似値におさまる。
もし、この法則の強制力が弱まってしまうと、どうなると思う?
一番困るのが、世界人口の男女比がイーブンじゃなくなってしまうことさ。
極端に男が少なかったり、あるいは逆に女が極端に少なかったり、どっちにしても出生率に大きな影響を及ぼすだろう。
人口激減ですわ。
仮に女が激減した場合、世界各国は女を稀少な資源として奪い合い、最悪の場合は戦争が起こるかもしれないよ。
さらに人口激減ですわ。

というのは冗談にしても、やはり法則というのは世界の維持、宇宙の維持を前提にして機能してるように思う。
いわば、「神」みたいなもの。
一応、この法則に異常が出てないか、毎日チェックしてる機関もあるみたいだね。
乱数発生装置というサイコロみたいなものを使って、日々その均衡を見てるらしい。
ほとんど異常は検出されないらしいが、しかし9.11テロの時は世界各国が異常値を検出したという話は聞いたことがある。
それを聞いて、何となく「シュタインズゲート」のことが頭に浮かんだのは私だけじゃあるまい。

「シュタインズゲート」は、このビルの事故から世界線変動の物語が始まった
9.11テロもまた、このビルの激突から世界線を変動させたんだろうか?

量子の動きというのは少しややこしくて、1+1=2のようにひとつの答えを導き出せるような計算にならず、かわりに「関数」を使って計算するので「大体こんな感じ」という、ふわっとした着地になってしまうもの。
とはいえ、この関数にはそれなりの強制力があるんだよ。
「シュタインズゲート」では、「世界線変動率」という数値がたびたび出てくる。
この物語の世界観では並行宇宙のようなパラレルワールドは存在せず、正規となる世界線はたったひとつ。
ただし、関数ゆえのブレのようなものはあるらしく、誤差1%未満をα世界線、1%を超えた領域をβ世界線という感じで表現している。
しかし、あくまでも正規はαで、βは可能性の世界線にすぎない。
そしてα世界線には引力のようなものがあり、どういう行動をとろうが大体は似たような結果に着地してしまう。
これは、関数の強制力だね。
どうあがいたところで、サイコロの「1」の目を10回連続して出すことはできないのと同じロジックさ。
こういう設定が妙にリアルで、きっと「シュタインズゲート」のプロットを作ったのは理系の人だと思う。

劇中に出てきた、世界線変動率を表すダイバージェンスメーター

こうしたゲーム原作アニメの興味深いところは、漫画原作やラノベ原作と違って理系色が強い点だ。
そもそも漫画や小説といった文系コンテンツと違い、ゲームは理系コンテンツだからね。
ゲームクリエイターの人たちって、きっと世界をプログラマー視点で見てると思うよ。
この宇宙をプログラミングした「神」って、絶対に理系で天才プログラマーだよな、と。
小規模ながらも宇宙を日々創造してる彼らだからこそ、現実世界の壮大なるプログラミングのクオリティを理解してると思う。
一方で、関数に詳しい理系の人ほどパラレルワールドの存在を証明したがるものである。
この「シュタインズゲート」もそうだね。
ここで描かれてるのはファンタジーではなく、割とガチな物理である。
主人公のキャラがウザいもんでついついエンタメ物として捉えちゃうけど、
物語の本質はかなりガチな量子力学だと思う。
そこを踏まえて次に「シュタインズゲート」を見る時は、物理のテキストを片手に、という視聴スタイルを是非お薦めしたい。
ただのエンタメSFで終わらせるには、あまりにも惜しい傑作だからね。

牧瀬紅莉栖の衣裳、めっちゃ好き♡

この記事が参加している募集

アニメ感想文

物理がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?