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「DEVILMAN crybaby」破滅の先に見えた、愛と赦しの物語

今回は、「DEVILMAN crybaby」について書いてみたいと思う。
これは2019年開催の「Crunchyrollアニメアワードアニメオブザイヤーを受賞している。
この時、他のオブザイヤー候補作品は本作以外にあと5つあり、それは以下の通りだ。

宇宙より遠い場所

ヒナまつり

メガロボクス

ヴァイオレットエヴァーガーデン

ゾンビランドサガ

名作「宇宙よりも遠い場所」「ヴァイオレットエヴァーガーデン」といった史上最高クラスの作品群を「DEVILMAN crybaby」が凌いだというのは凄いよなぁ・・。
ちなみに、この時のアワードで本作は最優秀監督賞も受賞したらしい。
なんせ、あの湯浅正明だからね。

それにしても、湯浅さんとデビルマンという組み合わせが意外ではある。
永井豪先生の「デビルマン」は、皆さんもよくご存じだろう。
私も原作は読んでるし、それこそトラウマになるほどの衝撃を受けたクチである。
ただ、これのアニメ化については、やはり内容が内容だけに原作準拠が非常に難しかった様子。
私が知る限り、ちゃんと原作に沿ったアニメ化というのは

OVA「デビルマン誕生編」(1987年制作)
OVA「デビルマン妖鳥死麗濡編」(1990年)

永井先生自ら総指揮をした、この2本だけである。
まぁ、この2本は不朽の名作といっていいだろうね。

OVA版「デビルマン」

ただ惜しむべきは、このOVAの制作は2本で終わり、未完となってしまったことなんだ。
やがて、2000年に「AMON デビルマン黙示録」という別企画のOVAが制作されることとなった。
これは前述のOVA「死麗濡編」以降の流れを汲むものだが、実はオリジナルストーリーとなってて、原作とはかけ離れたものに仕上がっている。

「AMON デビルマン黙示録」

この作品の売りは、例の美樹やタレちゃん惨殺のくだりがきっちり描写されてること。
グロさでは、間違いなく歴代最高クラスかと。
ただし、問題はそこから先の展開であり、物語はやがて不動明の精神内世界における
デビルマン(不動明)vs AMON(明と融合した悪魔)
という闘いへとなっていく・・。
ちなみに、本作では不動明と飛鳥了は戦いませんので、あしからず。
特にお薦めはしないけど、グロいのがお好きな方にはいいと思います。

「DEVILMAN crybaby」(2018年)

さて、そろそろ本題の「DEVILMAN crybaby」に入ろうか。
湯浅監督とデビルマンという組み合わせは意外なものと思われるだろうが、湯浅監督は過去にも「ケモノヅメ」「カイバ」などで、

「グロを写実的じゃなく、芸術的に描く」


という実験的な試みをしてきた人なんだ。

湯浅監督初のTVアニメ「ケモノヅメ」(2006年)

おそらく、「crybaby」はそういう路線の系譜だろうね。
基本的に彼は映像志向の人であり、そういう意味ではデビルマンこそ格好の素材だったんだろう。
ただしこれは、あくまで「湯浅さんの独自解釈によるデビルマン」であり、永井先生のそれとは全くの別物と考えてほしい。
まず、時代設定を現代(平成?)としており、SNSやヒップホップといったものが作中の重要なアクセントになっている。
まず、主題歌からして電気グルーヴだもんね。
脚本は、あの大河内一楼
よって物語は設定からして大きくイジられており、たとえば

・牧村家は敬虔なクリスチャン一家(父親が欧米人)
・牧村美樹は陸上界のスター選手でインフルエンサー


といったところは、かなり重要な意味をもっている。
というのも、例の美樹惨殺のくだりはここでも描かれるんだけど、その契機となったのはインフルエンサーである美樹がSNSで「不動明(デビルマン)は人間です」と支持表明をしたからであり、つまり原作みたく「ただ理不尽に殺された」という形とは少し違うんだ。
結果的に彼女は人間たちに襲われ、殺され、さらし首にされるところまでは原作と同じにせよ、でも一方で、彼女が死を懸けてまで発信したメッセージは伝わるところにはちゃんと伝わった、という救いの描写がきちんとあるんだよ。
つまり、彼女の死は原作ほど救いがない、ただ残酷なだけのものではなく、やはりクリスチャンだけに、そこに「殉教」の意味がしっかり込められてるところを読み取ってほしい。

作中、常に「愛」を唱える聖女として描かれた美樹
結果的に「魔女狩り」に遭い、守護しようとした少年たち共々惨殺されてしまった

そして、何より秀逸だったのが「4×100mリレー」という伏線の見事な回収だね。
美樹襲撃のくだりで、ミーコ(彼女もデビルマンの1人)が美樹を助けようと自らを犠牲にして、彼女を逃がすシーン。
そこで、リレーのバトン受け渡しのシーンが挿入される。

大会では、第2走者がミーコ、第3走者が美樹、第4走者が明ということになっていた

美樹は、ミーコが身を挺してるのを見て葛藤しつつ、バトンを受け取ったという気持ちをもって走り出すわけよ。
今度は、自分がバトンを渡さなければいけない、と。
もちろん、バトンを渡すべき相手は明(デビルマン)である。
いや、残念ながらやがて美樹は捕まり、生きて明と会うことは叶わなかったんだが、しかしそのバトンは渡った、と解釈していいだろう。

重いバトンである。
ミーコは死を懸けて美樹にバトンを渡し、また美樹も死を懸けて明にバトンを託したわけよ。
ここで大事なのがミーコ⇔美樹の関係であり、ミーコは美樹のことを嫉妬し、嫌ってたわけで、また美樹もまたそれを知りつつ、それを赦してたわけよね。
ふたりの間で渡されたバトンは、つまりそういうものなんだ。
いわば、

「赦しのバトン、愛のバトン」


といったところだろう。
じゃ、美樹からバトンを受け取った明は、そのバトンを誰に渡そうというのか?

そう、もちろん渡すべき相手は、飛鳥了(サタン)である。

つまり、明は了を赦すべきなんだよね。


バトンを渡すとは、つまりそういうことである。
しかし、作中の描写では了がバトンを受け取らず、バトンは虚しく転がり、ただ了は「??」という表情で首を傾げている。
つまり、彼はサタンゆえ「愛」を知らず、バトンを受け渡すという行為自体が理解できないようだ。

・・じゃ、結局は全てが無駄でした・・というバッドエンド?


いや、必ずしもそうとは言えない。

最後、不動明は美樹やミーコ同様、ちゃんと自らの死をもって了にバトンを渡します。
そしてそれは了が受け取らない(受け取れない)だろうと思いきや、なんと了は最後、泣くんですよ。
感情がないので泣くはずのないサタンが、なぜか友を失って泣いたんです。
うん、「crybaby」(泣き虫)という作品名はもちろん明のことを指してはいるんだろうが、一方でラストシーンを見る限り、同時に了のことも指してるんだろうね。

最後、了(サタン)が泣いた

つまり最後の最後でバトンが渡って、サタンもようやく愛という感情を知った・・

愛と赦し


多分、湯浅さんはこれを何よりも描きたかったんだろうね。
ぶっちゃけ物語の美しさでいうと、「crybaby」は原作を遥かに凌駕してると思うわ。
やっぱ湯浅さん、めちゃくちゃうまいよ。

終幕は「神」が出てきてサタンすら滅ぼされることが示唆されるんだけど、あるいはここから先、また人類は再生し、「次こそは」という再チャレンジになるのかもしれない。
というか、きっとそうでしょ。

もちろん、「デビルマン」のオールドファンに「crybaby」があまり評判がよくないことも聞いてるし、そりゃそうだろう。
あまりにも、原作とかけ離れてるからね。
特に美樹のキャラは、原型をとどめないほどの改変だったし・・。
でも逆に、私は美樹のくだりが一番泣けたんだけど?
ぶっちゃけ原作では泣けなかったのに、「crybaby」では十分泣けからね。
うん、私は「全然あり」だと思う。

皆さんの中にも未見の方がいらしたら、是非ご覧になってみてください。
多分、ちゃんと完結してカタチになった「デビルマン」って、これが初めてだよね?
それだけでも、この作品は十分すぎるほど価値があると思うぞ。


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