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湯浅政明vs細田守の音楽対決

今回は、アニメ音楽について少し書いてみたい。
皆さんは、映画「犬王」を見た?
これは湯浅政明の劇場用長編5作目で、毎回手を変え品を変え新たな趣向をこらしてくる湯浅さんだが、今回「犬王」で彼が挑んだ趣向は「音楽」だった。
ほぼミュージカル映画であり「女王蜂」のアヴちゃんがボーカルなんだが、その触り部分だけでも少し見てください↓↓

これは、犬王という歴史上実在したらしい能楽師をモチーフにした物語。
どうもこの犬王、浮世絵の写楽と同じで正体不明、多くが謎に包まれた人物なんだ。
で、その謎めいた部分を逆に利用し、犬王は室町時代のポップスターだったという新解釈で作ったのがこの映画。
それをブルース、ヒップホップ、プログレッシブロックなど、色々な音楽の形で見せてくれている。
ただ、私はこれを自宅のテレビで見ちゃったもんで、その時率直に思ったのよ。
ああ、これは劇場で見なきゃダメなやつだな、と
現代におけるコンテンツ視聴法は、大きく次の3つに分けられるだろう。

①スマホ、iPadなど小画面を至近距離で見る
②自宅のテレビで見る
③劇場の大型画面を観客として見る

①は、場所を選ばず、いつでもどこでも見られる便利さがある。
②は、最近液晶大型テレビが普及してるから、昔に比べて視聴環境としての自宅が居心地よくなってるよね。
さて、問題は③だ。
いまどきはネットフリックスやらアマゾンプライムやらU-NEXTやら何でも視聴しやすい環境が整い、わざわざ劇場まで足を運ぶにはそれなりのモチベが必要な時代である。
黒澤明や小津安二郎の時代じゃないんだから・・。
つまり、③でしか体感できない特別な「何か」がないことには、皆さん便利な①か②をもって簡単に視聴を済ませちゃう時代だということ。
じゃ、その「何か」というのは一体どういうものであるべきなのか?
私が思うに、③の①②に対する優位性は
・ライブ感
・音響

のふたつだと思う。
と考えると、やっぱ「音楽+ダンスの映画」という形が最も手っ取り早いよね。

「犬王」琵琶法師(ギタリスト?)役は森山未来が演じ、素晴らしい歌声を聞かせてくれている
「女王蜂」アヴちゃん(右)と森山未来(左)

実際、アニメ映画と音楽の融合による成功事例は数多く、ハリウッドでは「美女と野獣」や「アナと雪の女王」や「ライオンキング」をはじめとした興行的成功がある。
日本でもアニメ作家の多くがそのへん百も承知らしく、たとえば最近では、細田守が「竜とそばかすの姫」というピクサーのオマージュっぽい映画をヒットさせている。

「竜とそばかすの姫」

これは「美女と野獣」をモチーフにしつつ、そこに細田氏お得意の「サマーウォーズ」的エッセンスを融合させたような内容。
かなり面白かったよ。
あと、音楽といえば京アニの代表作「響け!ユーフォニアム」もまた劇場との相性がよく、この作品のクライマックス、オーケストラのシーンは音響の環境としてやはり劇場こそがベストであり、実際今まで5本の劇場版が制作されている。
当然、湯浅氏もこのへんをよく分かってたようで、ただ彼の場合は国際映画祭仕様というのも視野に入れてたのか、敢えてそこに和のテイストを入れてきている。
このへんは、北野武監督の「座頭市」を彷彿させるものがあったね。

「座頭市」

ダンスシーンというのはアニメーター湯浅監督お得意のところで、「夜明け告げるルーのうた」でそれは証明されていた。

「夜明け告げるルーのうた」

湯浅氏的に、「次こそは興行的成功を狙うぞ~」というのが「犬王」だったのかもしれない。
キャラデザには「ピンポン」の時の盟友・松本大洋を起用し、脚本家には「逃げるは恥だが役に立つ」等で知られるヒットメイカー野木亜紀子を起用し、劇伴には「あまちゃん」等で知られるヒットメイカー大友良英の起用をするなどして、まさに盤石の布陣だったんだ。
で、結果としてはコケました(笑)。
興行成績は3億5000万。
何なんだろうね~。
湯浅氏の「評価が高い割に、興行的にはさほど成功しない」という鉄板ともなりつつある、お約束・・。

・マインドゲーム⇒1億未満
(メディア芸術祭大賞、ファンタジア国際映画祭大賞など)
・夜は短し恋せよ乙女⇒5億3000万
(オタワ国際アニメフェスティバルグランプリ)
・夜明け告げるルーのうた⇒1億未満
(メディア芸術祭大賞、アヌシー国際映画祭グランプリなど)
・きみと、波にのれたら⇒2億5000万
(上海国際映画祭最優秀アニメ賞、ファンタジア国際映画祭今敏賞など)
・犬王⇒3億5000万
(米ゴールデングローブ賞ノミネート、米アニー賞ノミネートなど)

なんつーか、湯浅氏は、もう興行的なものを諦めた方がいいかも(笑)。
例えば、前述の細田守氏と比較しても

・時をかける少女⇒2億6000万
(メディア芸術祭大賞、日本アカデミー賞最優秀アニメ賞など)
・サマーウォーズ⇒16億5000万
(メディア芸術祭大賞、日本アカデミー賞最優秀アニメ賞など)
・おおかみこどもの雨と雪⇒42億2000万
(日本アカデミー賞最優秀アニメ賞、東京アニメアワード6冠など)
・バケモノの子⇒58億5000万
(日本アカデミー賞最優秀アニメ賞、米アニー賞ノミネートなど)
・未来のミライ⇒28億8000万
(アニー賞インディペンデント賞、日本アカデミー賞最優秀アニメ賞など)
・竜とそばかすの姫⇒66億
(ゴールドディスク大賞Album of The Year、米アニー賞ノミネートなど)

こうして見ると、興行的には細田氏の圧勝なんですよ。
現時点、アニメ興行の頂点が宮崎駿・新海誠の御二人だとして、そこに迫る三番手ポジションは細田氏ということで確定だろう。
その彼が「音楽」という切り札を使った「竜とそばかすの姫」は、案の定というべきか、彼の興行成績歴代最高記録を更新している。
まあ、きっと湯浅氏はさすがにそこまでは狙ってないんだろうけど。
湯浅氏ゆかりのSTUDIO4℃で、社長が以前言ってたことを思い出すよ。

「王道はジブリがやる。
私たちは側道を埋める」

「竜とそばかすの姫」はヒット作ゆえ、多くの人が見てると思うので今さらお薦めも何もないが、一方「犬王」は見てない人も多いと思うし、ぜひこの場でお薦めをしておきたい。
日本史好きにはタマらん内容だよ?
壇ノ浦の戦いで海中に沈んだ三種の神器、そのひとつである草薙の剣、さらにはそこに絡む平家の亡霊がカギを握る、一種のダークファンタジーなんだわ。
ミュージカルということで楽しい内容をイメージするだろうけど、実はグロ表現もあったりして、ちょっと哀しいニュアンスもある・・。
できれば大音量での視聴をお薦めしたいので、ぜひともヘッドホンでの視聴をよろしく。

さて、先ほど「宮崎駿・新海誠に次ぐ三番手ポジションは細田守」と書いたが、日本には細田守的王道ではなく、側道的天才が数多く存在するものである。
湯浅氏以外にそういうのを挙げるならば(あ、今敏は亡くなってるので除外するね)、私は
・幾原邦彦(輪るピングドラム、少女革命ウテナ、さらざんまい等)
・新房昭之(物語シリーズ、魔法少女まどかマギカ、3月のライオン等)
あたりが代表的なところだと思う。

で、この側道的天才とされる両者が偶然にもカブり、某女性シンガーを重用してるんだよ。
それは誰なのかって、もちろんやくしまるえつこのことさ。
幾原氏の「輪るピングドラム」は彼女の曲抜きには語れないし、また新房氏も「荒川アンダーブリッジ」「電波女と青春男」「夏のあらし-春夏冬中-」など複数の作品で彼女を起用している。
やくしまるえつこ、いいよね~。
側道的天才に愛される系シンガー?
あの彼女独特の声量の歌声を聴いた途端に、我々は一気に不思議系の世界観に包まれてしまう・・。

うん、細田守が山下達郎ミスチルを起用してるのに対し、幾原・新房両氏はやくしまるえつこなんですよ(笑)。
多分、ポイントは意外とこういうところなんだよね。
しかし今「輪るピングドラム」のテーマ曲を聴いてたら、なぜか私、普通に涙が出てきちゃった・・。
やっぱ私、側道的天才って好きだわ~。


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