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「魔法使いの嫁」人身売買で買われたヒロインって・・

今回は、「魔法使いの嫁」について書きたい。
これ、タイトルで損してると思うんだよなぁ。
「魔法使い」と「嫁」という言葉は、組み合わせると変にイロモノっぽさが出てしまう。
実際はイロモノどころか、超美麗なファンタジーなのに・・。

「魔法使いの嫁」(2017年)

魔法を取り扱ったファンタジーは世に腐るほどあるが、ちゃんとした世界観を構築してるものはそれほど多くないんだよね。
本作は、その稀少な「ちゃんとした」作品のひとつである。
制作は、いまや飛ぶ鳥落とす勢いのWIT STUDIO
製作総指揮をProduction I.G社長の石川光久氏が務めており(WIT STUDIOはProduction I.Gの系列)、それだけでもこの作品が並大抵のものじゃないことが分かるでしょ?
あと付け加えると、ここの制作スタッフには驚いたことに、あのレジェンドなかむらたかしの名前があるんだよね。
なかむらさんがTVアニメに今さら絡んでくるって、普通あり得る?

そういうのを全てひっくるめて、俗にいう「鳴り物入り」というやつだな。
そのへんに転がってる凡百の魔法ファンタジーとは一緒にしない方がいいと思う。
なぜか2期はWIT STUDIOの手を離れ、スタジオカフカというところが制作を手掛けることになったんだが、聞けば、このカフカは「魔法使いの嫁」制作の為に設立された新スタジオだという。
なるほど、そのせいもあってか、ほぼ1期と遜色のないクオリティの維持をできてたと思う。
この作品って、やっぱ特別なんだろうなぁ・・。

何より、この作品は導入部分からして衝撃的である。
主人公・チセは首輪・手錠を着けられ、人身売買オークションの場に立っている。
・・えぇっ?
これほど薄幸感MAXのヒロインは普通いるだろうか。
目の下にクマができてるし・・。
しかも驚くのは、誰かに騙され売り飛ばされたというわけでもないみたいで、自分の意思で人身売買に応じたという。
う~む、この場合、チセの売買で生じたおカネは誰の手に渡ったんだ?
そこはあまりよく分からないんだが、なかば「自殺」と解釈できなくもないチセの選択。
一体、これまで彼女に身に何があったのか?

・・というのが、イントロである。
これほど巧いツカミもないよね。
でもって、チセを競り落とした相手というのがまたトンデモなくて、それがもうひとりの主人公・エリアスなんだけど、彼は明らかに人外である。

エリアス

15歳のオンナノコが、こういう見た目の人外に買われることの絶望感・・。
しかし、チセは恐怖するでなく、抵抗するでなく、粛々と彼に応じる。
つまりチセという子は、なかば病んでるということ。
だけどさ、エリアスは見た目がこんなだけど、意外と声がイイんだよ。
低音の艶のある声。
声優は、今まであまり名前を聞いたことがなかったんだけど、竹内良太さんという人。

竹内良太

竹内さんのビジュアルを見て、笑ったわ。

まんまエリアスやん!


うん、確か以前に誰かが言ってたが、声優のオーディションで選考に迷った場合、最後は声だけじゃなく、その人の骨格を見て決めるんだよ、と。
確かに竹内さんは躰がデカそうだし、骨格がエリアスっぽいわ(笑)。
で、チセ役の方は、陰キャをやらせれば天下無双の種﨑敦美さんです。
このチセ役は、フリーレンと並んで種﨑さんの代表作といっていいだろう。
ホント、この人は抜群にうまい声優さんだよね。
種﨑さん自身の普段の声は全然違うんだが、いざ役に入ると彼女独特の湿度みたいなものが滲み出てくる。
この種﨑×竹内コンビが実現した時点で、本作の成功はなかば約束されたといっていいだろう。

「夏目友人帳」

で、チセの境遇についてだが、彼女は少し「夏目友人帳」の夏目に似てると思う。
幼い頃から「見えてはいけないもの」が見えるがゆえ、周囲から気味悪がられ、おまけに両親がいないことで親戚をたらい回しにされてきたという薄幸の身の上。
いや、まだ夏目はマシなんだよ。
チセの場合はそれに付け加えて、

母に「生まなきゃよかった」と呟きながら首を絞められ、あげく目の前で投身自殺を図られたというトラウマを背負ってるから・・。


この記憶は、いまだ彼女の呪いとなっている。
いくら何でも不幸すぎる!
このどん底人生のチセの救いになったのが、意外にも彼女をおカネで買ったエリアスなんだよね。
魔法使いである彼は、チセを自分の弟子、兼お嫁さんにするという。
どうやら、チセは「スレイベガ」という魔力無尽蔵の特殊体質らしく、世界でも稀少な存在だったらしい。
いや、買ったのが「魔法使い」であるエリアスだったからまだよかったものの、もし「魔術師」にでも買われてれば、それこそ魔力が枯渇するまで魔力装置として酷使され、死ぬまでひたすら絞られ続ける日々だったのは間違いない。

「魔法使い」と「魔術師」


このふたつをきちんと定義分けしない作品は、魔法ファンタジーとして二流以下だと断言していい。
もちろん、本作はしっかり定義分けをできている。

【魔法】
妖精・精霊等と結びつき、その力を借りてコントロールする、いにしえの技術であり、一種の奇蹟。
魔術より歴史が古い。

妖精

【魔術】
いにしえの魔法を科学的に分析したことから体系化したテクノロジー。
現在、魔術師の数は魔法使いのそれを遥かに凌駕している。

学院

これはあくまで本作における設定で、これが「正解」というわけじゃない。
正解も何も魔法・魔術は元々実在しないものだし、こういうのは作者が定義すればいいのさ。
何というか、イメージするなら医学でいう「漢方」と「西洋医学」みたいなもの?
そして、チセの場合はスレイベガという妖精や精霊を引き寄せる天性ゆえ、魔法使いが合ってるのかも。
今まで「呪い」でしかなかった彼女の特殊体質が、魔法の世界では一転し、一種の強みとなってるのが興味深い。

自身が最も忌み嫌ってる部分は、ひとつ視点を変えれば、実はその人にとって最大の強みかも


という、なかなか深い設定である。
しかし、エリアスのところに身を寄せてからのチセは、その身にさらなる「呪い」をふたつ受けてしまう。
ひとつは死に至る「ドラゴンの呪い」、もうひとつは「不死の呪い」。
うまいこと死⇔不死が相互干渉して相殺に近い状態にあるのか、ギリギリで均衡を維持できてるんだけどね(笑)。

「不死の呪い」のくだりは怖かったなぁ・・。

不死者・カルタフィルス

1期のラスボスというべき存在だったカルタフィルス。
見た目は子供のようだが、何千年も生きてる不死者で、自らの体を維持する為に何ら罪悪感なく人を殺し、キメラ研究などをしている正真正銘の鬼畜である。
そもそも彼がなぜ不死の呪いを受けたのかというと、作中では「神の子に石を投げた」ことが示唆されている。

つまり、呪いをかけたのはイエスキリスト?


慈悲と赦しの象徴であるイエスともあろう者が、またタチ悪い呪いをかけたもんだな・・。
お陰で、カルタフィルスは何千年も世に害悪を撒き散らしてるんだけど?

で、この最凶のカルタフィルスとチセは対決しちゃうわけよ。
といっても、バトルになるわけじゃありません。
というか、チセは闘って相手を屈服させるキャラじゃないし。
実際、カルタフィルスにもいいようにやられたというか、

目玉くり抜かれてるからね・・。


なんていうかな、チセの対峙の仕方は常に相手とシンクロして、その実体を見る、といったところだろう。

そして相手を理解し、憐れむ。
ただ、それだけである。
そして呪いを自らの身に引き取り、ことを治めようとする。
不憫な子だわ・・。
うん、彼女は人身売買に応じた最初から一貫して、やっぱ特殊な精神構造の子なのよ。
たとえ鬼畜でも相手を救済しようとするし、その為に自身を犠牲にすることをまるで厭わない。
その精神は高潔ではあるものの、やはりどこかイビツである。

イビツといえば、それはエリアスもそうだ。
そもそも、彼はいまだもって正体不明のモンスターである。
人間ではないし、また妖精・精霊とも少し違うらしい。
さらに彼自身にもその出自の記憶はないという、実は得体の知れない存在。
邪悪ではないが、感情がなく、時々何の罪の意識もなくめっちゃ怖いことをする。
チセを救う為、彼女の親友・ステラを拉致して生贄にしようとしたくだりはマジ鳥肌立ったわ~。
チセはそれに怒りつつ、最後はエリアスを赦すあたり「えっ?赦すの?」と私は逆に驚きましたよ(笑)。

なんていうかな、非常に静寂で美しい映像作品でありつつ、一定の緊張感、一定の怖さみたいなものが常に拭えないんだよね。
だってエリアスは悪い奴じゃないことは分かるが、どこか油断できないし、それはチセにしても同様で、いい子なんだけど選択が常にナナメ上をいってしまう危うさみたいなものを孕んでいる。
もうね、この危うさで2人からずっと目を離せないんですよ。

お願いだから早く幸せになってくれ!


と願いつつ、これから先、まだまだ試練はあるんだろう。
なんせ、周りの魔法使いや魔術師は油断ならない者揃いで、心を許せる者はほんの一握りしかいないし。
あと、消息不明のチセの父親、弟の件もやっぱり気になるし。
まさか、ディズニー「美女と野獣」みたいに
魔法が解けてエリアスは人間に戻りました~!ひぃは~!
というノーテンキなオチはないよね?

2期からは学院編でまさかの学園モノになるんだけど、案の定青春っぽさは控えめで、不穏な空気が1期にも増してヒリヒリしますわ。

チセが寄宿舎に入ったことで、家事妖精シルキーの出番が減ったのは悲しい・・
全く一言も喋らないシルキー役に、遠藤綾という一流声優を当ててる贅沢さが凄いよね

一応「黒執事/寄宿学校編」と見比べてみたけど、やっぱ本作2期の方に軍配をあげざるを得ないね。
制作会社が変わってもこれほどクオリティが維持されるとは、よっぽど原作がいいんだろう。

これ、魔法ファンタジーの最高峰のひとつなのは間違いないよ。


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