見出し画像

「天使のたまご」の再来?再評価されるべき「パルムの樹」

なかむらたかしという天才アニメーターを知ってますか?
彼は金田伊功と並び、数多くのアニメーターに影響を与えたカリスマとして必ず名前を挙げられるレジェンドである。
画のことは言葉じゃ説明しにくいので、動画を見てもらった方が話は早いだろう。

70~80年代は演出の天才・出崎統が強かった時代だけに、止め絵を多用し、どちらかというと演出で作画枚数を省く傾向があったんだが、なかむら氏のアプローチはそれの全く逆。
作画枚数をたくさん費やし、とにかくよく動くアニメを作ったんだ。
今でいう、ぬるぬる動くの開祖かも。
特に彼は大友克洋作品の作画が最も巧い人とされてたわけで、「リアル系」の当時におけるトップアニメーターとされた人物である。
この時代のアニメーター見本市となる作品として、「ロボットカーニバル」(1987年)というOVAがあるので、是非一度見ておいてほしい。
大友克洋(「AKIRA」)、森本晃司(「アニマトリックス」)、梅津泰臣(「A KITE」)、北久保弘之(「BLOOD」「老人Z」)などの錚々たる面々がショートムービーを監督したオムニバスで、この作品のトリを務めたのがなかむら氏である。
そのパートはこれね↓↓

これをほぼひとりで作ったというんだから、凄いなぁと思う。
で、そんな彼の長編映画デビュー作となったのが2002年制作「パルムの樹」だ。

これ、ひとりでも多くの人に見てもらいたいな~。
この作品で私は初めて、「なかむらたかしは単なる作画屋ではなく、宮崎駿や押井守にも近い、極めて作家性の強いアニメーターなんだ」ということに気付いたのね。
その証拠に、この「パルムの樹」は思いっきり3DCGを使ってるわけよ。
手描き職人の神だった彼がCGって、ちょっと矛盾してるわな。
でも彼は、そこにコダワリがあったわけじゃなかったということだろう。
大事なのは作画でなく作品そのものであって、実際彼は以前と比べて大きく画風を変えている。
この作品制作の為、わざわざ「パルム」という制作会社を立ち上げたというから、いかにこれが彼にとって大事な作品だったかをお分かりいただけると思う。
ただ、この作品は公開当時、ワケ分からん、キモい、と酷評されたんだってさ。
うん、確かに独特のキモさがあるよね・・。

「パルムの樹」
「パルムの樹」
「パルムの樹」

こういうビジュアルを見て、「あれ?」と思った人もいるだろう。
そう、押井守監督のカルト作「天使のたまご」に似てるんだよ。
実際、荒廃した大地、空飛ぶ魚、謎の卵など、モチーフが色々とカブっている。

「天使のたまご」
「天使のたまご」
「天使のたまご」

別にパクったわけではないんだろうが、酷似してるのは間違いない。
そして「天使のたまご」が発表当時酷評され、でもじわじわと再評価された流れと同じくして、「パルムの樹」もまず海外で評価され、それがじわじわと国内に飛び火して再評価されるに至った。
これは「天使のたまご」ほど難解ではないものの、一回見ただけでは世界観が飲み込めないので、やはり二度見る必要があると思う。
プロットとしては、「ピノキオ」+「ラピュタ」
しかしそれより遥かに残酷なストーリーで、めっちゃ刺さるし、私は隠れた名作だと思う。

いや、彼の作品なら「パルムの樹」より、「ファンタジックチルドレン」の方が有名かな?
これは「パルムの樹」公開の2年後、テレビアニメとして制作された作品である。
またしても世界観が複雑、かつ残酷、それでいてめっちゃ刺さる名作だよね。
画風はレトロというか子供向けっぽいものの、内容は子供に支持されそうにない、かなり鬱展開のSFである。
しかし、また何でこういう画風にしたんだろう?
昔の彼が得意とした大友克洋っぽい画風でこれをやれば、もっとウケたかもしれないのに・・。
こういうの、リアル系作画で人気だった黄瀬和哉が、「メイドインアビス」で妙に丸っこく可愛いキャラを描いたのと少し似てるかも。

で、なかむら氏はこの作品以降しばらくアニメ制作の仕事をやや抑えるようになり、漫画を描いていくようになる。
このまま漫画家としてやってくのかと思いきや、いやいや、2015年には伊藤計劃原作のSFのアニメ化、「harmony/」の監督をやるわけよ。

「パルムの樹」や「ファンタジックチルドレン」のレトロな画風から打って変わって、今度は3DCGメインのカッコイイ系である。
どんだけ振れ幅大きい人なのよ?
しかもこれ、マイケルアリアスとの共同監督である。
この外国人、知ってる?
映画「鉄コン筋クリート」の監督だよ。
あの作品って、松本大洋作品のアニメ化としては完璧じゃなかった?
正直、「うわ~、外国人にこれやられた~」と焦ったもん。

「鉄コン筋クリート」

あのなかむらたかしがマイケルアリアスとコンビで映画を作るなんて、よく考えたら凄いことである。
多分だけど、マイケル(←この人、めっちゃ日本のアニオタ)がなかむら氏のファンだったんだろうね。
で、「harmony/」。
これが、もう素晴らしい出来の作品だった。
なかむらたかしっぽさは、あまり感じなかったけど。
でも、逆にそれが凄いと思って。
彼もいい齢なのに、まだ変化しよう、進化しようとしてるってことでしょ?
彼は敢えて「アニメーターのレジェンド」になろうとせず、「まだこれからだよ」というスタンスなんだ。
ほぼ同世代で、ライバルだった金田伊功が09年に早逝してレジェンド化してしまったことを踏まえ、自分は敢えて反レジェンドでいこうとしているのかもしれん。

なかむら氏の強みは、その作画技巧以上に作家性だと思う。
彼がアニメーターであるのみならず、漫画家であるということもポイントなんだ。
本職の大友克洋はもとより、宮崎駿や今敏だって漫画家としての顔をもってたわけで。
押井守や新海誠の場合は小説家としての顔をもってるし、そもそも演出家というのは、絵を描くこと、プロット作ることの2軸をもってるものである。
特に漫画家というのは、それが完璧だよね。
実写映画の監督だって、たとえば黒澤明とか画才と文才の両方が凄かったのを知ってた?
北野武も絵を描く一方で小説を書くし、岩井俊二も小説家志望だった一方で大学は美術専攻。
そういう人たちこそ、一流の監督になれるんだと思う。
そしてなかむら氏は、そういう条件を満たした人である。
そんな彼が、「harmony/」とほぼ同時期に「ブブとブブリーナ」というショートアニメの原案・監督・脚本をやってるのさ。
それがこれね↓↓

これが実質、最新作か・・。
思いっきり「まどかマギカ」じゃん(笑)。
つーか、なかむら氏は「天使のたまご」といい「まどマギ」といい、かなり他作品からの影響を受ける人なのか?
3DCGでマイケルアリアスと組んだことといい、案外ミーハー?

そういや、彼にとっての恩人ともいうべき大友克洋が、近いうち「AKIRA」の再アニメ化をするって話じゃん?
「AKIRA」はなかむら氏の代表的作品でもあり、その再アニメ化には必ず彼も絡むだろう。
あれから30年以上を経て、今まで色々なものを取り込んできたなかむら氏が、今度はどんな「AKIRA」を表現するのか?
今から楽しみである。

「パルムの樹」

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

アニメ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?