漫画【寄生獣】 コロナ禍の今、改めて読み直したい至極の名作(人間とは何者か?)
「これはウィルスと戦う今だからこそ、改めて読み直したい漫画!」
さて、今回は漫画について書きたいと思います。
そのタイトルは「寄生獣」。
もはや漫画の中でも古典の域に達している唯一無二の作品。アニメ、実写映画化もしている、超がつくほどの名作です。一度読んだことがある人も多いでしょう。
「なぜ今、寄生獣?」と思うかも知れませんが、コロナウィルスという謎の細菌の恐怖に日々直面している我々にとって、ウィルスというある種人間に寄生する微生物が身近な存在として認識するようになりました。
そういう意味で、連載当初よりも「より身近な問題」として自分ごと化しやすいストーリーでもあります。実は連載開始は1990年から1995年。なんと30年も前の作品。なのに今読んでも1ミリも廃れていないです。
というか、今読む方がむしろ深く心に刺さります…。
オリラジの中田さんがyou tubeで前編•後編で合計4時間を超える大作の動画を先週アップされてましたね。この動画もめちゃくちゃ面白いので、そちらもおすすめです。ただ、こちらは一度読破した人が振返るのにピッタリの動画であり、未読の方はぜひ漫画から読むことをおすすめしたいです。
今思えば、たった10巻なんですね。あまりの濃密なストーリーと、深いテーマからもっとたくさん出ていたと錯覚してしまいます。なんとエッセンシャルな漫画なのか。潔いところも含めて、凄すぎますね。
この漫画のココがスゴイ
最初にお断りしておきますが、今や古典的超名作の本作なのでこの記事はネタバレを多分に含みながら書いていきます。未読の方は先に漫画をお読みいただければと思います。全巻大人買いして2,400円ほど。はっきり言って安すぎる超絶エンターテイメントですね。
この漫画の素晴らしさについていくつかピックアップしていきます。
1.地球か人間か、守るべきは?
この漫画の凄さは第1巻の1ページ目から炸裂します。こんなナレーションから始まります。
『地球上の誰かがふと思った』
『人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか……』
『地球上の誰かがふと思った』
『人間の数が100分の1になったらたれ流される毒も100分の1になるのだろうか…』
『誰かがふと思った』
『生物(みんな)の未来を守らねば…』
こんな哲学的な言葉から始まる漫画、なかなか他に無いのではないでしょうか。このメッセージが、『寄生獣』という漫画の深遠なテーマを表現仕切っています。そして素晴らしいのが、このメッセージから全くブレることなく最後の10巻までスリリングなストーリーが展開するところ。
この言葉の通り、テーマは人口爆発による環境破壊。つまり地球にとって人間は悪であり、そのために人間の「間引き」が必要なのでは?というショッキングな提案からはじまります。
正体不明の寄生生物は、人間の脳を乗っ取り、人の姿をしながら高い戦闘能力を持った人食い生物に変えてしまいます。パラサイトは「この『種』を食い殺せ」という本能的な「命令」に従い、それを行動原理に活動を始めます。
ここで言う『種』とは、人間のこと。つまり、パラサイトは「地球のために人間を食う(数を減らす)」ということです。
「人間を食う」ことは我々人間からすると紛れもなく悪ですが、その目的が「地球環境を守ること」という壮大な意義に下支えされています。読者は、この「地球を守る」と「人間を守る」という2つの大義の間で揺さぶられることになります。とんでもなく巧みな脚本ですね。
2.「寄生獣」の本当の意味
物語冒頭からパラサイトは人間に寄生し、人間を食べるという残虐な活動を始めます。そこからこのパラサイトのことを「寄生獣」だと理解しながら、読者はストーリーを進んでいきます。
しかし、物語も中盤を過ぎたところで、印象的なシーンが登場します。重要な役どころの市長・広川が演説するシーン。東福山市をパラサイトのコロニー(安住できる場所)にしようと目論んだ広川は、武装部隊に取り囲まれます。そのときの広川のセリフがこちら
「人間どもこそ地球を蝕む寄生虫?、いや……寄生獣か」
このセリフを観たときに、タイトルの「寄生獣」が実は人間のことだったということがわかります。この伏線の張り方と、緻密なストーリーテリングには脱帽です。
3.「中間的存在」が物語に深みを与える
この漫画を傑作たらしめているのはなんと言っても「新一とミギ-の関係」です。主人公の新一は偶然イヤホンをしながら寝ていたことで、脳には侵入されず、右腕だけを乗っ取られます。そのパラサイトは右腕だけを別人格として操ることとなり、自ら「ミギ-」と名乗ります。
この、人間でありながら、パラサイトされている少年が主人公、という設定が物語に深みを加えます。善悪の単純な二項対立の構図ではなく、人間とパラサイトの境界にいる「中間的存在」だからこそ、葛藤し、強み、弱みが生まれます。
そして、主人公の新一は高校生。思春期で人格形成真っ只中であり、親への感情、恋人への思いなど、不安定な心境の中で、ミギ-がときにアドバイザーになりながら二人三脚で成長し、問題を解決していく。このバディ的設定はとても濃密な人間ドラマを下支えしています。
4.人間とは何者か?
この漫画には他にも印象的なキャラクターが複数登場します。パラサイトでありながら、「親とはなにか?」「子供を生むとは?」といった本能的な疑問に自分のカラダで実験をする田村玲子はこの漫画の主人公に次ぐ重要なキャラクターと言えます。
新一とミギーの「共存関係」に興味を抱き、様々な揺さぶりをかけてきます。「人間とは何者か」というこの作品の最も深いところのテーマを探求する存在であり、作品を象徴するキャラクターとなっています。彼女の印象的なセリフがこちら。
「この前 人間のまねをして、鏡の前で大声で笑ってみた・・・。
・・・・なかなか気分が良かったぞ」
人間という生き物を学び、人間に近づこうという探究心を持つ田村。このシーンは読者もパラサイトに感情移入してしまう、感動のシーンでもあります。
警官隊の銃撃から自分が産み落とした我が子を守る田村玲子の最期は、物語中屈指のシーン。抜群の緊張感の中で、パラサイトとは何なのか、人間とは何なのかに迫ります。
「・・・・・我々はか弱い。
それのみでは生きてゆけないただの細胞体だ。
だからあまりいじめるな」
「そして出た結論はこうだ
あわせて1つ
寄生生物と人間は1つの家族だ
我々は人間の「子供」なのだ」
圧倒的な攻撃力で人間を捕食するパラサイトが「あまりいじめるな」という言葉を口にするのは意外であり、田村というキャラクターが人間とは全く違う視点で物事を観て、考えていることがわかります。そしてパラサイトは単体では存在し得ない弱い存在なのだと。
「我々は人間の子供なのだ」というセリフは読み手に重い課題を突きつけてきます。
映画版では物語の冒頭のナレーションも田村の言葉として描かれます。このキャラクターなしに「寄生獣」という深遠な作品はなかったと言えます。
5.人間に備わった第6感
物語中、「一見普通の人間だけど実は中身は人間ではない」ということを見分けられる人間が登場します。その一人は「母親」です。パラサイトされた田村玲子の両親が家を尋ねるシーンでは父親は気づかないけど、母親はすぐに本人ではないことを見抜きます。
「母と子」という特別な関係の間に流れる「何か(見えない絆)」を表現しているのも面白いです。
そしてもう一人は何と猟奇的な連続殺人犯の浦上。本能に従い残虐な殺戮をしてきた浦上は直感と本能と残虐性で人間を知ろうとしていた人物。だからこそパラサイトか人間かを見分けられる、という設定も秀逸です。
複雑なテーマで展開される物語の中で、人間が持っている感覚の不思議もうまく絡ませながら多層的に人間という生き物の不思議さを描く点も素晴らしいですね。
6.白黒つけられない、考えさせる余地がある
主人公の新一は物語上最強のキャラクター後藤と対峙することになります。この後藤は5体の寄生生物の集合体であり、究極のパラサイトとも言えます。驚異的な身体能力と攻撃力で絶体絶命の危機が訪れます。
そのバトルであるものが結果的に後藤を死に追いやります。それが何と産業廃棄物。環境汚染が生んだ「毒物」をカラダに取り込んだ後藤はその毒によって死を迎えます。
地球環境を守るために人を食らうパラサイト。そのパラサイトを殺すのが環境汚染が生んだ毒…。
何という皮肉な展開。後藤は人間にとって紛れもなく悪でありながら、そこには本能があり、後藤なりの正義に従って行動しています。人間が生み出した「毒」で死に至る後藤を観て、読者には勧善懲悪の気持ちよさではない、複雑な感情が芽生えることになります。
人間は地球にとって何なのか、ということを考えさせられる見事な物語となっています。
まとめ
今回ははじめて漫画をご紹介させていただきました。しかも30年以上前の作品。ですが、今読むべき価値のある作品です。一度読んだことがある方は、今改めて読み直すと感じることがあるのではないでしょうか。
最後に、物語のラストで登場する問いと、その答えをご紹介します。
エピローグで、姿を消したはずのミギーは新一の心の中に現れます。そこで「なぜ他の生き物の死を人間は悲しむのだろう」という問いに、ミギ-はこう答えます。
「そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ
だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ
心に余裕(ヒマ)がある生物、なんとすばらしい」
人間という生き物の複雑さと素晴らしさをミギ-なりに表現した台詞回しですね。このセリフを観て、みなさんはどう解釈しますか?
最終ページは、第1話の冒頭のシーンと同じ、宇宙空間から地球を見下ろす構図で描かれます。見事に、はじまりと終わりを結びつける圧巻の構成。過不足のない、全く無駄のない10巻構成。素晴らしいの一言です。
この作品はとても多くの問いを読者に投げかけます。そして、いろんな感情が芽生えてきます。それは思考の機会であり感情のトレーニングとも言えます。
今、改めて「寄生獣」という「問い」に向き合ってみてはいかがでしょうか。
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