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店を続けたいなら値上げしよう【八百屋から見た“食” no.5】

先々続けたい店は値上げする。

このシンプルな事実。
「食」関連の値上げ(だけ)は残念に感じる人が多いのはなぜでしょうか。

たとえばアルバイト時給。
10年前(2012年)・都の最低時給は850円。
  5年前(2017年)・同958円(2012比112.7%)。
コロナ禍で据え置き期間はありましたが
 現在(2022年)・同1041円(2012比122.5%)

たとえばレギュラーガソリン。
10年前(2012年)・リッター146円
 最新(2022.2) ・リッター170.9円(2012比117%)
※世界情勢で変動大きいですが、近年は上昇

たとえば国産の大豆。
10年前(2012)・8000円前後/60㎏
 最新(2020)・11295円/60㎏(2012比140%前後)
※豊作不作で上下動ありますが、近年は上昇。
農林水産省HP:国産大豆の需要動向より

たとえば電気料金 (産業用)。
10年前(2012)・家庭用22.3円/kwh・産業用15.7円/kwh
 最新(2019)・家庭用24.8円/kwh・産業用17.0円/kwh
資源エネルギー庁HP より。

■原料価格の視点から
農産物価格は豊作不作で変動しますが、近年は国内外とも天候不順による不作が目立ちます。とくに土地利用型の穀物・根菜・果樹に多く、高騰が長引いています。豊作不作に関係なく“物流費・動力費”も上昇。機械を動かすガソリン・ボイラーを焚く重油・宅配便等々、実感する場面はたくさんあるはずです。

輸入調達コストの上昇も各所で見聞きします。
コロナ禍以降、特に顕著です。
航空船舶輸送の激減。直行便→他国経由便への変更。
輸送の人手不足と人件費の激増。原油高。為替円安の掛け算。

現地経費が10%up & 1㌦110円→130円(18%up)の場合
1.1✕1.18=1.298→輸入コストが30%upしたことになります

輸入農産物の値上げは小麦・食用油だけではありません。カカオ・オレンジ・レモン・バナナ・アボカドなど、八百屋から見える景色だけでも、皆さんが想像する以上の“綱渡り”。これらはすべて製造原価に反映されます。
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■店舗・工場運営の視点から
店舗運営費用も年々増えています。特にアルバイト人件費は(10年で)最低時給換算でも月額10-15%増。地代が変わらずとも、人件費・動力費(店舗や工場で使う電気・重油・ガソリン)は上がり続けています。

巻頭の東京都最低時給を基に計算すると、アルバイトを毎月500時間雇用する店は、最低時給の運営でも10年で月額10万円増えた計算に。人手不足が進む現在、最低時給での採用は難しく、運営側の負担はさらに大きくなっています。※(1041-850)✕500=95500

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製造原価は上記の合算です。

仕入(原料価格)+流通経費+店舗運営(or製造に関わる施設)費

製造原価は今後も下がりません。同じ材料・同じ製法であれば尚更。
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■値上げする理由・値上げしない理由
製造原価が上がり続ける現在でも、過去10年販売価格が変わらない商品もあります。
製造方法・製造原料が変わった
中身の分量・割合が変わった
中身が減った
人手がかからない工夫・人件費を抑えている
運営の終わりが見えている(廃業/製造終了etc.)
価格維持の理由、ほぼこの5択に集約されます。

同じ材料・同じ製法であれば、段階的な値上げは必須。
運営を続けるにも、損益分岐点は毎年少しずつ上がります。
価格維持だけでは、作り続けることも営業を続けることもできません。

企業努力という名の有耶無耶(①~②)は厳しく言えばゴマカシ。
昨今ニュースになった“産地偽装”も含まれます(①)。
価格維持の苦心(③)には限界がありますし
営業努力という名の“中の人の痩せ我慢(④・⑤)”にも限界があります。
値上げに理由があるように、価格維持にも相応の理由があります。

作り続けたいから値上げする。

真っ当に作って、単価を上げる。
製法と中身と量が同じなら、価格が上がることを理解する。

大切なのは伝え続け、支持され続け、売り買いを続けることです。

間違いなくこの先々、まだまだ値上げのお知らせは続きます。
毎度悲観的に報道される「また値上げ」を嘆くのではなく
誰かが我慢している「一瞬の安売り」に飛びつくでもなく
“原料&製法を変えず”確かなモノ・美味しいモノを作り続ける人達への
リスペクト・理解・購入継続をぜひお願いします。(つづく)

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