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元学芸員が言い残したいこと

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私の仕事から生まれた記事をピックアップ。
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#博物館

文化財保護業務の実態

文化財保護業務の実態

地方自治体における文化財保護業務の実態というのは、学生にはほとんど知られていない気がする。地方自治体勤務ということは公務員でもあり、文化財保護業務以外の業務も多々絡んでくるが、本業となる文化財保護業務に絞っても、その少なくとも八割くらいは事務仕事である。日々発掘調査や整理作業に従事できるのは外郭団体(埋蔵文化財調査事業団など)勤務の場合だけだったりする(それでも事務仕事はつきまとう)。

地方自治

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文化財保護部局はどこへ行くべきか

文化財保護部局はどこへ行くべきか

平成31年の文化財保護法改正で、文化財保護部局が従来の教育委員会から首長部局への事務移管が可能になった。これは、文化庁が文化財の取り扱いについて、従来の保護一辺倒から保護+活用にかじを切ったことと連動する。地域の文化財を観光資源として有益に活用できるように、というのが含みとしてあるものと思う。
従来、文化財保護部局が教育委員会の所管だったのは、文化財保護が生涯学習の一貫と位置づけられていたところが

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博物館について考える

博物館について考える

博物館と美術館はどちらも同じ「ミュージアム」だが、役割は微妙に違っていて、美術館は展覧施設、博物館は教育施設の側面が強い。それは施設の造りにも現れていて、美術館が外観も含めて「おしゃれ」なのに対し、博物館はいかにも「ハコモノ」的外観で素っ気ない。博物館が扱うものは基本的に「資料」であり、端的に言えば「学習教材」である。そのため、同じもの、例えば屏風や掛け軸などでも、美術館と博物館で扱いが違う。簡単

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地方自治体立博物館の実態

地方自治体立博物館の実態

私の現在の勤務先は(休職中だが)博物館である。今回は、地方自治体立博物館の現状を、勤務先の実態を基に書いてみる。全国の地方自治体立博物館が同じではないだろうが、SNSでやり取りしていると、似た問題を抱える博物館は多いようだ。
地方自治体立博物館の多くは昭和後期に建てられていて、設備の大規模改修が必要な時期に差し掛かっている。私の勤務館も例外ではなかったが、昨今の財政難のなせる業か、なかなか設備改修

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博物館資料について

博物館資料について

改めて、博物館資料について考えてみよう。
博物館の収蔵対象となる有形文化財は、彫刻や絵画のような一点ものと、写本のように一点ものだが複数の系譜があり相互の比較検討が必要なもの、土器や民具のような量産型手工業製品にざっくりわかれる(かなり乱暴な分類であることは自覚している)。
近年、博物館収蔵庫の余剰の問題とともにピックアップされているのが最後の量産型手工業製品だ。これらは工人の違いで技法に差異が生

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博物館収蔵庫満杯問題の遠因

博物館収蔵庫満杯問題の遠因

本記事は民俗学者・岸澤美希先生の記事(下記リンク参照)を読んでまとめたものである。

自分も元は博物館の中の人だったから、収蔵庫の問題はよくわかっている。
正直なところ、収蔵品の選択廃棄は最悪の場合必要だと思っていて、そのかわり廃棄するものは記録保存を徹底的にやれと以前Twitterおよびnoteに投稿した。消極的廃棄賛成派の自分が奈良県知事に対して怒っているのは、その文化財への解像度の低さが原因

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展示について

展示について

博物館で実際に展示替えなどを担当する中で、意識するようになったのが「余白」である。
今まで、数多くの博物館や美術館に行ったが、心地よく見られる展示は「余白」が多い。展示室にものを入れすぎると、圧迫感が出る。ヨーロッパの古い美術館(ルーブル美術館、エルミタージュ美術館など)は宮殿をそのまま使っているためか、壁一面に絵画を飾っていて、迫力に圧倒されるが、一点一点くまなく見ているとかなりの疲労感をもよお

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文化芸術を取り巻く環境の実態

文化芸術を取り巻く環境の実態

しばらく前に、大阪府が美術品を地下駐車場で保管していたというニュースを見て、腰を抜かした。いくつかの新聞記事を渉猟したところ、大阪府立美術館設置の構想があったが、バブル崩壊に前後して頓挫。コレクションのうち大型の彫刻作品の保管場所がなく、地下駐車場に置いていたという。ちなみに、現在、大阪府に現代美術専門の学芸員はいない。
中には梱包もされずビニールシートを被せただけのものもあったといい、美術品に対

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歴史民俗資料(文化財)の受け入れと収蔵(奈良県の事例から)

歴史民俗資料(文化財)の受け入れと収蔵(奈良県の事例から)

奈良県立民俗博物館が、空調の不具合等から臨時休館することが決まった。空調の故障で収蔵資料に影響が出るかもしれないという。今回は、それに関連した山下奈良県知事の発言が波紋を呼んでいる(詳細は下記記事参照)。

奈良県立民俗博物館を巡る奈良県知事の発言に対して、自分も専門家の端くれ(学芸員資格を持つ者)として声を上げているが、別に知事が維新の会所属だから敵視しているわけではない。維新の会支持者になぜか

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