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小説的なテクスト

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#文学

totally

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Totally okay, totally. 手紙はこれきりだった。どう訳そうか、と思案する。全部大丈夫、全部。まったくかまわない、かまわないから。これっきり。もう次の手紙はなくて(そんな予感はほとんど確信に近くて、totally!)、わたしはずっとこの言葉を抱えていくのだ、と思った。

実際のところ、それを抱えていられる時間はあまりなくて、おっとそういえば、と気付いたときにもう一度抱えなおす程度

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小説(つまりこれは真実なんかじゃない)・けれど・確かな痛み

小説(つまりこれは真実なんかじゃない)・けれど・確かな痛み

目が覚める。ひとり、音のない部屋でうずくまっている。開け放した窓からは18度ほどの空気が流れ込んでくる。まだ皆目消化不良の咀嚼物が胃から吐き出されようとしている感覚がある。持ってきていた「お気持ちの薬」もそろそろ切れる。それがなければ生きていけないわけでもないし、毎日飲んでいるわけでもない。胃液が上がってくるような日、やるせない自己嫌悪で寝れないとき。こまやかな条件が付せられた私の精神安定には、い

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羽虫による同性愛・潰れた熱帯魚・聡明な枝豆たち

羽虫による同性愛・潰れた熱帯魚・聡明な枝豆たち

足の指の先が冷たくなる。もう20度を超えることはないのだろう。ガラスの窓に、光に誘われた羽虫がぶつかる音がする。二十四時間営業のコンビニのガラスにぶつかり続ける虫のことを思う。入店する客に紛れて、煌々と光っているコンビニの城楼へと忍び込めた虫は、永遠にその箱の中を彷徨う。世界から隔絶されたそのホワイトキューブ的空間——時間や連続性、そして何より記憶からの断絶——で、徘徊することしか許されない虫たち

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アカシアの俎板

アカシアの俎板

何かを吐いてしまいそうな気がして、目が覚める。皮膚から3cm下あたりが妙に火照ったような心地がし、それが内臓からの熱だと気付いた。自分がなにかひとつの大きな臓物になったように思えてくる。枕元に置いてあったミネラルウォーターを手繰り寄せ、粘ついた唾液を水とともにそのまま嚥下した。すべらかな水が私の食道や胃を軽やかにしていく。いつも驚いてしまう。自分が動物として必死に熱を発していることに。生命を維持す

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優しい嘘を聞かせて・someday it gonna be okay・ふたつの空洞

優しい嘘を聞かせて・someday it gonna be okay・ふたつの空洞

一人で抱え込む、とあなたは言う。あたしはあなたの抱え込んでいるそれが何か知らないけど、あなたの抱え込んでいるものがあたしでは無いことだけは、確実だったと思う。あたしは別に女が好きじゃないし、どうせそこらへんのコンビニで全てを済ませる良い加減なブスだし、えのきとエリンギの区別はつかない。あなたに出会ってしまったことは、あたしにとって決定的な間違いだったのだろうか。どうでも良いようなドラマのセリフが脳

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