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ショートショート集 戯れ

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リライト

寝起きの悪い俺は一階から聞こえる母さんの殴る様な声で目を覚ました。
「起きなさーい!遅刻するわよ!」
薄目を開け時計に目をやると、出発時間の10分前。
急いで布団から身を起こし、学ランに袖を通す。
顔を洗って歯を磨くとそのまま玄関までの廊下を走り抜けた。

「いってきます!」

「待ちなさい!ミッチェル!お弁当!」

母さんが廊下の奥からお弁当を両手で抱え走ってきた。
「ありがとう」
俺は玄関を飛

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狼煙

狼煙

怖気付いた狼は

煙を焚いた

孤独感は産まれた時からあったから

風の色が変わろうと

揺れゆく葉の曲調が変わろうと

自身にはなんの変化もない

ただひたすらに荒野の始まりにいる

折りたたみ式のコンパクトな狼

小さく包まって

目を瞑って

ひたすらにじっと

震えていた

やっとこ疲れたもんで

狼煙を焚いた

爪で葉や石っころ引っ掻きまわし

二度目の満月の頃

ようやく火がついた

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海色の絵

僕の暮らす部屋は真っ白な部屋。
壁も床も天井も、窓の外だって真っ白な景色。
僕のいちばん好きな色。心が落ち着く白い色。

バシバシと窓を叩く音がする。
そこには青年が立っていた。
久しぶりの他の色。
僕はゆっくりと窓を開けた。

「私は画家。私の描いた絵を君の素敵な部屋に飾ってはくれないか?」
そういうと青年は鞄の中から手のひらふたつ分の絵を出した。

「海を描いたんだ。綺麗な海。クジラも魚も自由

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三

僕は『三』
みんなからは「さん」とか「three」とか呼ばれてる

僕の名を読んで阿呆になる芸で有名な三です。
あの時はなんだか複雑な気持ちでした。

早起きは三文の徳
とか言われた時は嬉しかったな
なんか僕が良い扱いを受けている様でね
でも「たったの三文なら寝てるわ」
という意見は僕からしたら辛辣だった

三度目の正直
って時には僕も力を入れて全力だすね
全力だすけど
二度あることは三度あるって

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BLACK BLACK BLACK

BLACK BLACK BLACK

会話劇 ふたりのはなし

「船酔いしたー」

「大丈夫ですか?だからあれほど無茶しないで下さいって言ったじゃないですか!」

「だってしょうがないじゃん、暇だったんだもん」

「暇だったからといって甲板で野球はしないで下さい!」

「えー」

「えー、じゃありません。しかもなんですか、三振したら罰ゲームって。子供じゃないんですから」

「三振グルグルバットウォークのこと?」

「呆れます、大の大人

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クラシアンシン

クラシアンシン

会話劇 ふたりのはなし

「イケメンじゃなくてもいいから、ちゃんとしてて優しい男いないかなぁ」

「なにそれ、彼氏欲しいの?」

「超欲しい。ってか結婚したい」

「あー、この間披露宴におよばれされて地元帰ってたもんね」

「そう、幸せオーラに飲み込まれました」

「そっか、でもちゃんとしてて優しい男ってどういうこと?」

「だからー、真面目に仕事してて、私のこと気づかってくれる男」

「それなら

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アニマルプラネットイリュージョン

アニマルプラネットイリュージョン

会話劇 ふたりのはなし

「私が手を叩いたら、あなたはレッサーパンダになっています」

「はい」

「3、2、1、パンッ」

「、、、、、、、シャー!シャー!」

「人間に戻りましょう、3、2、1、パンッ」

「あ」

「おはようございます」

「かかってました?」

「はい、あなたは非常に催眠術にかかりやすい体質の様です」

「そーですか」

「では、私が手を叩いたらあなたはトドになっています」

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掛け捨てグッバイ

掛け捨てグッバイ

「保険って入ってる?」

「入ってるよ、入院保険とか火災保険とか」

「そーだよね。そこら辺だよね」

「なに?そこら辺って」

「なんかさ、保険の勧誘が家に来てさ。話し聞いてみたらいい感じだったから入ってみようかなって」

「いいじゃん、どんな保険?」

「勇気の保険」

「勇気の保険?」

「そう、日常で勇気が出なくて困る時ってあるじゃん。例えば自分の意見をハッキリ言う時とか、困ってる人を率先

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リゾナントブルーの夢

リゾナントブルーの夢

会話劇 ふたりのはなし

「求愛のダンスって知ってる?」

「あー、南米の鳥が踊るやつ?」

「そうそう、オスがメスに踊ってアピールするやつ」

「ダンスが美しいとメスもメロメロってやつだよね」

「そうそう!それよ!」

「それがどーしたの?」

「ミユキちゃんっているじゃん」

「あー、同じゼミの?」

「そう、かわいいよなぁ」

「え、なに?好きなの?」

「好きなんだよなぁ。かわいいよなぁ

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スペクタクルとは何事か!

スペクタクルとは何事か!

会話劇 ふたりのはなし

「ひとつだけ超能力身につけれるとしたら、なにがいい?」

「えー、悩むな。ひとつだけでしょ」

「ひとつだけ」

「じゃあやっぱり瞬間移動かなぁ」

「死ぬよ」

「え?なんで瞬間移動最高じゃん」

「だって考えてみろよ、時空間を超越する力だよ。
そうとうな負荷とGが身体にかかるよ。時空の入り口でペチャンコになってお終いだよ」

「えー。そっか、、、やだな。じゃあ透明人間

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みーつけたって言ったから

みーつけたって言ったから

「もーいーかい?」

「もーいーよ」

僕は教室のロッカーの中に隠れた

ドキドキする

みつかりませんように

子供の頃から大好きなかくれんぼ

狭いロッカーの中は色々と考えが巡るようになっている

僕は漠然と考えていた

母親って凄いよな
父親のいない私にとって
身を粉にして働き
高校まで入れてくれた母親には尊敬しかない

もっと親孝行したいな

ガラガラガラガラ

鬼が僕の隠れているロッカー

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モバイル彼女

モバイル彼女

自由に憧れるといった彼女は
スマートフォンの壁紙を空を映した写真に変えた

見上げればいつもあるのに
スマートフォンばかり観ているから
俯いて気づかないのかな

気を利かせた水溜りが
彼女の大好きな青を投影してくれたが
彼女は全然気づかない

だから僕は彼女に言ったんだ

君はここにいるけど
ここにいないね

って

彼女は怒って帰っていった
今日は腹がたったと
SNSで呟いていた

やっぱり

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名前のない坂

名前のない坂

皆この急な坂が嫌いだ
自身を世界の中心だと考え呼吸をしている

数々の人がこの坂に
沢山の名前を与えた

しかしこの坂はその全てに反発し
揶揄した

柿の木が近にあるもんで「柿坂」と名付ければ
元気な筈の柿の木が次第に枯れていき
侘しくなった

野良猫が多くいた為「猫坂」と名付ければ
辺り一帯の野良猫がバタバタと倒れだした

困った近所の者が縁起の良い名にしようと
「幸坂」という名を与えたら
屁理

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渡辺杜太朗の憂鬱

渡辺杜太朗の憂鬱

夕立が止むと 夏の残香が鼻の奥をつく
宿題をほっぽり出して 校外活動に精を出した

夏の終幕にふさわしい
花火の押し付けがましい笑顔に、私はほどほどのウンザリの塊をくしゃくしゃにして蹴どばしてやった。

目が覚めると
ジリジリと暑さがぶり返す

まだもう少し
宿題に背を向ける時間が私には余っていた

夕立が止むと 夏の残香が鼻の奥をつく
宿題をほっぽり出して 校外活動に精を出した

夏の終幕にふさ

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